「透析患者によるeスポーツを目指す」 偕行会城西病院・石川英昭ドクターのビジョン

2023.04.03

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医師の研究/プロジェクトをどこよりもわかりやすく紹介する「ドクターズビジョン」。今回は血液透析患者における運動療法アシストVR(Virtual Reality)ゲームについて研究する偕行会城西病院 内科部長 石川英昭先生にお話しを伺いました。

石川先生の研究によって、どんな未来・価値が作り出されるのか。石川先生の研究のビジョンに迫ります。

Profile
石川 英昭
偕行会城西病院 内科部長(2023年1月時点)
1999年東海大学医学部卒業、複数の病院での臨床経験を経て、2020年4月より現職。
日本腎臓学会 腎臓専門医・指導医、日本透析医学会 透析専門医・指導医

終末期医療に感じるジレンマ、現役腎臓内科医の思いとは

――本日はお時間いただきありがとうございます!先生が研究されている運動療法アシストVRゲームについて色々お話を伺っていきたいと思いますが、その前にまずは簡単に先生のプロフィールを教えてください。石川先生はどうして医者になられたんですか?

石川先生 1999年に東海大学医学部を卒業し、これまで約20年間、腎臓内科医として腎不全や透析患者さんの治療に従事してきました。そもそも医者になったのは、ありきたりなんですが、父や兄も医者で、医者一家に育ったというのが大きかったと思います。あとは昔から体の構造や仕組み、それから認知のメカニズムなどといったところに非常に興味がありました。そして何より人と関わるのが好きだったんですね。病気を通して、患者さんと関わっていくということが、大きなやりがいに感じ、医者の道に進みました。

――ありがとうございます。腎臓内科医として、日々どのような思いで診療や研究に携わっているのか教えてください。

石川先生 ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、進行してしまった腎臓病というのは、残念ながら治療法がなく、腎移植や透析治療をしながら病気と付き合っていくしかありません。みなさん病院というと、治すために行くところだという認識があるかと思うんですが、腎臓病はどうしても食事制限をしたり薬を飲んだりと、制約が多いわりに結局治ることがないという特徴があります。
そのような中で腎臓内科医として、終末期(病気が進行し、余命わずかとなった状態)の患者さんの診療にジレンマを感じることも多くて。病気自体は治せなくても、患者さんの身体の機能やQOL(生活の質)を向上させるために何かできることはないかと考えるようになりました。

透析患者によるeスポーツ大会の開催を目指す

――そういった思いが現在の運動療法アシストVRゲームの研究につながったんですね。ここからはいよいよ先生の現在の研究内容について詳しくお話を伺いたいと思います。そもそも慢性腎不全の患者さんに運動療法アシストVRゲームが必要なのはどうしてでしょうか?

石川先生 血液透析をしている患者さんは、基本的に3~4時間ほど、ベッドに寝たままの姿勢で治療を受けることになります。寝たきりとなると筋肉が衰えてきてしまうので、ゴムバンドを使って足をあげる運動をしたり、自転車のペダルのようなものを使って足こぎの運動をしたり、といった運動療法を取り入れるケースが多くあります。
しかしこういった運動療法は負荷がきつかったり、飽きやすかったりして、離脱率が高いことが課題の一つでした。そこで思い付いたのが「運動療法アシストVRゲーム」です。やっぱりリハビリとはいえ、患者さんが楽しく続けられることが重要なので、足の運動とVRゴーグルを通して見える景色が連動したら面白いんじゃないかなと考えました。

――なるほど!実際にこれまでどのようなものを開発されてきたんですか?

石川先生 VR空間でのリフティング運動やボート漕ぎのゲームを開発中です。どちらも、VRゴーグルを装着し、足を動かすとVR空間での動きに連動するようになっています。リハビリをする患者さん自身も、そしてそれを応援する家族の人や第三者が見ても一目で何を競っているのかが分かるような、シンプルなルールにしたいなという思いでこの2つのゲームに行きつきました。
今はこれを患者さん一人ひとりが取り組む形となっていますが、ゆくゆくはeスポーツというか、通信対戦ゲームのようにして、透析治療をされている患者さん方の「集団運動療法」という形にしていきたいと考えています。日本の透析患者は約30万人いるんですが、そういう人たちが通信とかで対戦できたら面白い世界が作れそうですよね。

  

屋内, 人, テーブル, コンピュータ が含まれている画像

自動的に生成された説明
VRゴーグルを装着し、リフティング運動をしている石川先生

――ちなみにゲームと医療を結び付けるというアイデアはどこから生まれたんですか?

石川先生 僕の哲学でもあるんですが、「ゲームは医療になる」と思っています。運動療法アシストVRゲームの研究開発にあたって「gamedicine」という言葉の商標もとりました。これは「Game is medicine」と「Game as medicine」の2つの意味を掛け合わせた言葉です。
どうしてゲームと医療を結び付けて考えたかというと、僕が昔から無類のゲーム好きだからです(笑)。特に医学部生の頃は時間があればゲームセンターばかり行っていました。『バーチャファイター』とかの格闘ゲームや『電脳戦機バーチャロン』、それから戦闘機のフライトシュミレーターなんかは本当に熱中してやっていましたね。それこそ医学部の勉強に挫折しかけた時はSEGAに就職しようかなって一瞬考えたくらいで(笑)。病院のリハビリ室ってちょっとゲーセンっぽさがあるんですよね。バイクとか色んな機械が置いてあって。元々リハ室をゲーセンに見立てていたからこういう発想が生まれたんだと思います。ゲームのおかげでくじけずに医者になれたといっても過言ではないので、今度はそのゲーム好きを活かして、患者さん方のリハビリに役立てていきたいですね。

石川先生が思い描くビジョンとは

――先生が本当にゲームが好きだという思いが伝わってきました(笑)先生は研究の成果によってどのような世界にしていきたいとお考えですか?研究のミッションを教えてください。

石川先生 僕のミッションは「慢性期の患者さんの身体機能を向上させること」です。身体の機能を維持ないしは向上させ、QOLをあげること。それってやっぱり薬での治療だけでは難しいんです。超高齢化社会を迎えるにあたって、ただ長生きするだけじゃだめで、やっぱり楽しく元気に長生きしてもらって、最後は笑って死ぬような、そんな未来を作っていきたいですね。

――「最後は笑って死ぬ」、超高齢化社会を生きる私たちの最大の目標ですよね。では次に、研究を通してどんな世界を実現していきたいのか、先生が思い描くビジョンを教えてください。

石川先生 患者さんたちが自立して、自主的にこういったリハビリを楽しみながら取り組めるようになればいいなと思っています。現状のリハビリってやっぱり辛くてなかなか長続きしないものだったりするんですけど、患者さん自身が楽しんで取り組めれば、リハビリの持続率もあげていけるんじゃないかなと思っています。
先ほどもお話したように、将来的には世界中の透析患者さんが通信対戦という形でつながり、eスポーツのような大会が開催されたらいいなと思っています。慢性腎不全など、慢性的な病気の人っていうのはどうしても自己効力感が低くなってしまいがちです。そういった方が、運動療法アシストVRゲームの大会に参加することによって、「今度大会があるから、そこまでは元気でいよう」とか「次の大会に優勝するぐらいの体力を回復したい」と前向きな気持ちになれたり、もしその大会で優勝できたりしたら達成感にもつながりますよね。
患者さん本人やそのご家族にとって、リハビリで体を動かせるようになった、というだけでも十分嬉しいことではあると思うんですけど、そこにもう一歩「楽しむ」という要素をプラスしてあげたいなと思っています。

読者の方へ伝えたいメッセージ

――最後に、ここまで読んでいただいた方に伝えたいメッセージをお願いします。

石川先生 運動とかリハビリとか、いわゆる「〇〇療法」と呼ばれるようなものって、どうしても「やらされている」という意識をもってしまうかもしれません。「ちゃんとやらないと医者に怒られるんじゃないか」とか「辛く苦しいからやりたくない」とか、そんな意識を変えていきたいなと思っています。患者さんがやって楽しい、そしてその結果いつの間にか元気になっていた、ということを実現するために頑張っていますので、ぜひ期待していただけたら嬉しいです。
またこの運動療法アシストVRゲームについての研究開発について、お力を貸していただける企業の方がいらっしゃいましたら、ぜひよろしくお願いします。特に現在はバッテリーやハードウェアの問題でつまずくことが多いので、「こういったものがありますよ」と提案していただければ、非常に嬉しいです。
まだまだコロナが収束しない状況の中で、院内での研究開発となると色々な制限もありますが、先に述べたようなミッションやビジョンに共感してくださる方と手を取り合って、より良いサービスを作っていきたいなと思っています。