子宮内膜症と診断されたら~子宮内膜症の治療と費用~
監修医師:前田 裕斗(東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野)
川崎市立川崎病院臨床研修医、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、国立成育医療研究センター産科フェローを経て現職
現代の女性が一生涯において経験する月経の回数は約450回。これは、妊娠・出産の機会が多かった戦前の女性に比べるとなんと約9倍もの回数です。月経の回数が増えたということは、言い換えれば「子宮内膜」が剥がれ落ちる回数が増えたということ。それにより月経のトラブルは増え、子宮内膜症にかかる女性も増加傾向にあります。
子宮内膜症は、月経のある女性の約10人に1人が発症するといわれており、特に20~30代に多くみられます。子宮内膜症を発症すると、月経痛や不妊などの症状があらわれるケースが多く、早めに治療を開始することが非常に重要です。
この記事では子宮内膜症とは何か、そして子宮内膜症と診断された場合の治療について医師監修のもと詳しく解説しています。
子宮内膜症とは
子宮内膜症は、簡単にいうと、「子宮内に存在するべき膜が、子宮以外の場所にできてしまう」病気です。子宮の内側には「子宮内膜」という組織があります。子宮内膜は、毎月妊娠の準備をするために増殖して厚くなりますが、妊娠しなかった場合は子宮から剥がれ落ち、月経として体外に排出されます。
その際に月経血の一部が子宮内を逆流し、子宮の内側以外の場所(腹膜、卵巣、卵管、腸など)で子宮内膜に似た組織が増殖することで子宮内膜症が起こるといわれています。初潮~閉経までの間であれば、誰にでも発症する可能性がありますが、閉経を迎えると症状は軽くなり、次第になくなります。
子宮内膜症の症状
子宮内膜症の症状は主に「痛み」と「不妊」の2つが挙げられます。それぞれの症状について詳しくみていきましょう。
痛み
子宮内膜症の患者さんの約9割に強い月経痛や、月経中以外にも痛みがみられます。強い月経痛は子宮内膜症がお腹の中で炎症を起こすことで、月経痛の原因となる「プロスタグランジン」という痛みの原因物質が分泌されてしまうために起こります。さらに子宮や卵巣、腸を癒着させることで下腹部痛や腰痛、性交痛、排便痛などが起こるケースもあります。
もし「以前より月経痛が強くなった」「鎮痛剤の量が増えた」「月経時以外にも痛みがある」といった場合には、子宮内膜症が疑われますので、一度産婦人科を受診することをおすすめします。
不妊
子宮内膜症の患者さんの約3~5割に不妊の症状がみられます。なかなか妊娠に至らず、産婦人科を受診した際に、子宮内膜症が見つかるというケースも非常に多いです。
子宮内膜症による炎症がそもそも進行すると、卵巣や卵管などの癒着を引き起こすことがあります。癒着をしてしまうと、卵巣内から排出された卵子を卵管が取り込めない、卵子が卵管を通れなくなることで不妊につながると考えられています。
子宮内膜症があったら「絶対に妊娠できない」というわけではありません。しかし子宮内膜症は妊娠率を低下させる要因の一つになりやすいため、今すぐに妊娠を望んでいなくても、早めに治療を開始することをおすすめします。
子宮内膜症の原因
子宮内膜症の原因はいくつかの説が唱えられていますが、いまだはっきりとした原因は解明されていません。有力な説としては「月経血の逆流」によって子宮内膜症が発症するというものです。
月経血の逆流自体は決して珍しいものではなく、9割以上の女性に起こっているといわれています。月経血の逆流が必ずしも子宮内膜症につながるというわけではありませんが、現在のところ子宮内膜症を発症する人としない人が存在する理由までは分かっていません。
他にも、腹膜(ふくまく)などの組織が、何らかの原因により子宮内膜組織に変化するという説や、女性ホルモンの「エストロゲン」の暴露が多いと子宮内膜症になりやすくなるという説もあります。
子宮内膜症の診断
子宮内膜症の確定診断には腹腔鏡検査(お腹に小さな穴をあけて、病変を直接確認する検査)が必要となります。ただし、いきなり腹腔鏡検査となることは少なく、通常は以下の検査をもとに臨床診断が行われます。
- 問診
- 内診・膣鏡診
- 画像診断(超音波検査やMRIなど)
また上記の他、必要に応じて直腸診や血液検査が行われることもあります。
子宮内膜症の治療と費用
子宮内膜症と診断されたら、適切な治療を受ける必要があります。特に卵巣内にできた子宮内膜症は、卵巣内に出血が溜まる「チョコレート嚢胞(のうほう)」を発症することがあり、まれにがん化することもあるため、放置せず、早めに治療を開始することが重要です。
子宮内膜症の治療は、年齢や痛みの程度、また妊娠を希望しているか否かなど、一人ひとりのライフステージと症状によって変わってきます。ここでは主な治療法である「薬物療法」と「手術療法」について解説していきます。
薬物療法
子宮内膜症による痛みなどの症状をおさえるためには、主に「鎮痛剤」や「漢方薬」が使用されます。これらはあくまで症状の改善が目的であり、子宮内膜症を根本的に治療するものではありません。
子宮内膜症が疑われる場合、「ホルモン療法」で進行を止め、痛みを緩和する治療が行われます。ホルモン療法は、治療の目的や体質によって、どのような薬を使うべきかが異なります。特に妊娠を希望している場合は、ホルモン療法が適さない場合もあるので、医師とよく相談し、治療方法を決定することが大切です。
子宮内膜症の薬物治療では、主に「低用量ピル」もしくは「ジエノゲスト」が使用されます。それぞれの特徴と費用は以下の通りです。
低用量ピル
低用量ピルに含まれる「プロゲステロン」というホルモンは子宮内膜を通常より薄くする効果があります。それにより、月経痛などの症状をおさえ、子宮内膜症の進行を抑えることが期待できます。ただし血栓症や肝機能障害の副作用の恐れもあるため、特に喫煙者や高血圧の方は注意が必要です。費用は1か月あたり約2,000~3,000円です。(3割負担の場合)
ジエノゲスト(ディナゲスト)
ジエノゲストは、子宮内膜組織の増殖をおさえ、月経痛などの症状を改善させる効果があります。いわゆる第4世代といわれる低用量ピル(ヤーズ、ヤーズフレックスなど)と同じく、「ドロスピレノン」という黄体ホルモンが含まれています。
ジエノゲストが低用量ピルとは異なる点として「エストロゲン」が含まれていないことが挙げられます。それにより血栓症などの副作用が発生しづらいという特徴があります。また子宮内膜症の手術後は、再発予防に半年程度内服することが推奨されています。費用は1か月あたり約3,000~5,000円です。(3割負担の場合)
手術療法
子宮内膜症の治療では、手術療法が必要なケースもあります。一般的に、以下のような場合に、手術療法が検討されます。
- 薬物療法で症状が改善されなかった方
- 悪性腫瘍(がん)の可能性がある方
- 大きなチョコレート嚢胞がある方
- 子宮内膜症が不妊症の原因となっている方
手術療法には、病巣部のみ切除し子宮や卵巣の正常部を残す「温存療法」と、卵巣・卵管を摘出する「根治療法」があります。温存療法は妊娠を望む方に提案されます。ただし再発率が高いため、基本的に薬物療法を継続する必要があります。根治療法は痛みなどの症状が重く、妊娠を希望しない方に提案されます。
費用は入院費を含め腹腔鏡手術(4~6日)の場合は約20万円、開腹手術(1~2週間)の場合は約30万円です。(いずれも3割負担の場合。病院や入院期間によって費用は異なります。)
まとめ
子宮内膜症では主に月経痛などの痛みや、不妊などの症状があらわれます。子宮内膜症からチョコレート嚢胞を発症すると、まれにがん化することもあるため、早期治療が重要です。
子宮内膜症の治療方法は、痛みの度合いや、妊娠を希望するかなどによって異なるため、医師とよく相談のうえで、決めるようにしましょう。