「てんかん」は大人でも発症する?
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
「てんかん」と聞くと子どもの病気とイメージする人も多いかもしれません。しかし、てんかんは子どもだけではなく全年齢で発症することがあり、特に50~60代以降の高齢者が発症するケースも増えています。
てんかん発作を抱えていると、日常生活に支障をきたすこともありますが、適切な服薬と規則正しい生活習慣により、てんかん発作はコントロールすることが可能です。
この記事では、医師監修のもと大人のてんかんとは何か、そして治療について詳しく解説していきます。
大人のてんかんとは
てんかんとは、脳内の神経細胞の異常放電により、意識障害や筋肉の痙攣などを引き起こす疾患です。てんかんは3歳以下の小児での発症率が最も高いといわれています。しかしそれ以外の全年齢においてもてんかんを発症する可能性はあり、特に50~60代以降で発症するケースも増えています。
大人のてんかんは、脳への外傷や後天的な病気が原因となって起こることが多く、発生原因や発作の種類ごとに特徴があります。
ここでは、てんかんの分類と発作の種類について解説していきます。
てんかんの分類
てんかんは発症の原因によって「特発性てんかん」と「症候性てんかん」の2種類に分類されます。
特発性てんかん
特発性てんかんとは、脳に異常が見つからず、原因が不明なてんかんのことをさします。特発性てんかんは、症候性てんかんに比べて症状をコントロールしやすく、適切な治療を行うことで発作が抑えられることが多いです。
症候性てんかん
症候性てんかんは、脳内の疾患や外傷、腫瘍などが原因で起こるてんかんのことをさします。症候性てんかんは後天的に発症するものが多く、原因によって治療法が異なるため、正確な診断と治療が必要です。
てんかん発作の種類
てんかん発作の種類は、主に脳の一部に起こる「部分(焦点)発作」と脳の広い範囲に起こる「全般発作」に分類されます。てんかんに対する適切な対処と治療を行うためには、どのような発作があらわれるか、できるだけ詳しく把握することが大切です。ここでは、てんかん発作の種類と特徴について解説していきます。
部分(焦点)発作
部分発作とは、脳の一部分に異常が起こっている状態をさします。部分発作は、意識の有無で①単純部分発作と②複雑部分発作に分かれます。
- 単純部分発作(意識障害なし)
単純部分発作とは、意識がある状況で起こる部分発作のことをさします。単純部分発作では、手足や顔の一部にけいれんやしびれなどの症状や、腹痛や頭痛・吐き気などの症状がみられます。またこれらの症状は意識がある状態で起きるため、症状が落ち着いたあと「どのような症状が起きたか」を本人が説明できるのが特徴です。 - 複雑部分発作(意識障害あり)
複雑性部分発作とは、意識がない状況で起こる部分発作のことをさし、大人のてんかんで頻度が高い発作とされています。複雑部分発作では、脳の興奮する部位ごとに症状が異なり、口をもぐもぐする、周囲をぼーっと歩く、などの症状が数分程度あらわれます。これらの症状は、周りから見ると単なる日常動作に見えることもありますが、本人は発作中の記憶がないのが特徴です。
全般発作
全般発作とは、脳の広い範囲に異常が起こっている状態をさします。全般発作には、さまざまな種類がありますが、ここでは主な3種類について解説していきます。
- 強直間代発作(大発作)
強直間代発作とは、別名「大発作」ともいわれ、典型的なてんかん発作のひとつです。突然意識をなくし、手足を硬く伸ばす発作が数十秒ほど続きます。その後、手足をガクガクさせる全身のけいれん発作があらわれます。しばらくすると意識は戻りますが、そのまま眠りに入ってしまうことも多いです。 - 欠神発作(小発作)
欠伸発作とは、別名「小発作」ともいわれます。急に動作が止まったり、ボーっとして反応がなくなるなどの発作があらわれます。多くの場合、数秒~数十秒程度で意識が戻るため、周囲の人もてんかん発作だと気が付かないこともあります。 - 脱力発作
脱力発作とは、突然全身の力が入らなくなり、崩れるように倒れる発作のことです。頭などの大きなけがにつながりやすいため、注意が必要です。
大人のてんかんの治療と費用
大人のてんかんは、特定の状況でけいれん発作が起こりやすいことが知られています。どのような状況でどの程度の発作が起こるかどうかを把握しておくと、てんかんの診断や治療に役立ちます。
大人のてんかんの治療は、継続的な服薬や生活習慣を見直すことが重要です。
薬物療法
大人のてんかんの代表的な治療薬には、抗てんかん薬が使われます。抗てんかん薬は脳の過剰な電気的興奮を抑える効果があり、約70〜80%の発作を抑制することができます。
てんかん発作のタイプや症状、原因によって使用する薬剤が選択されます。通常、1つの薬剤から始め、効果が認められなければ2〜3種類の治療薬を使うこともあります。
抗てんかん薬は、毎日規則正しく服用することが重要です。しばらくてんかん発作があらわれないからといって、自己判断で服用を中断することは厳禁です。自己判断で薬の服用を中断すると、発作が再発してしまうこともあります。
薬の服用に関して不安な点や分からない点があったり、また気になる副作用などがあれば必ずかかりつけの医師に相談するようにしましょう。
生活習慣の見直し
大人のてんかんの治療では、薬で発作のコントロールをするのにあわせて、生活習慣の見直しも非常に大切です。特に以下のような生活習慣はてんかん発作を起こしやすくすると考えられていますので、当てはまることがないかチェックしてみましょう。
大人のてんかんで注意する生活習慣
- 睡眠不足
- 過度な疲労や緊張
- ストレス
- アルコールの摂取
- 長時間強い光を浴びる など
大人のてんかんは、ストレスや睡眠不足などが危険因子となり、てんかん発作を誘発することがあります。普段から規則正しい生活を心がけ、疲労やストレスがたまらないようにしましょう。
大人のてんかんの治療費
大人のてんかんの治療は主に神経内科にて行われます。もし近くに神経内科がない場合には、脳神経外科や精神科の受診を検討しましょう。
大人のてんかんで医療機関を受診した場合の治療費の目安は以下の通りです。
大人のてんかんの治療費(3割負担の場合)
初診:約8,000~15,000円(検査費・薬代含む)
再診:約2,000~3,000円
大人のてんかんに必要な治療費は、使用する薬剤や検査内容によって変動します。初診では、てんかんの確定診断を行うために必要な検査(脳波や画像診断)を行うため、8,000~15,000円程度の費用がかかることが多いです。
大人のてんかん治療は、長期間の通院や治療が必要です。てんかんと診断された場合は、通院や治療費など医療費の負担を軽減する制度(自立支援制度や高額療養費制度など)を活用することができるため、お住まいの自治体や医療機関へ相談しましょう。
まとめ
大人のてんかんの治療は長期にわたるため、「その症状は本当にてんかんなのかどうか」「どういった種類のてんかんなのか」を見極めて、適切な治療を受けることが重要です。
大人のてんかんは、定期的な服薬と日頃の生活習慣を見直すことでコントロールすることができる病気です。気になる症状があれば放置せず、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。