糖尿病の三大合併症とは?知って得する糖尿病対策
監修医師:竹内 想(名古屋大学医学部付属病院)
医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積みました。 現在は主に皮膚科医・産業医として勤務しています。
日本だけでなく、世界中で患者数が増加してきている糖尿病。
糖尿病を発症すると、さまざまな合併症のリスクがあります。そのなかでも「神経障害」「網膜症」「腎症」は糖尿病の三大合併症といわれており、それぞれ重篤な障害です。
この記事では医師監修のもと、糖尿病の三大合併症とは何か、そして合併症を引き起こさないためのポイントについて詳しく解説していきます。
糖尿病の三大合併症について
糖尿病は進行すると、さまざまな合併症をともなうことがあります。
特に以下の障害は、糖尿病で発症しやすく「三大合併症」といわれています。
- 糖尿病網膜症
- 尿病性腎症
- 糖尿病神経障害
ここでは、それぞれどのような障害なのかを詳しく解説します。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、目の網膜に発症する障害です。高血糖の状態が続くと、網膜に酸素や栄養を送っている毛細血管が傷つき、最終的に失明することもあります。
糖尿病網膜症は進行度合いによって、以下の三段階に分けられます。
- 単純性網膜症
- 前増殖網膜症
- 増殖網膜症
最初の単純性網膜症は、毛細血管が詰まったり出血したりする段階です。
次の前増殖網膜症以降になると、傷ついた血管の代わりとして新しい毛細血管が増えていきます。しかし、新しい血管も傷ついて出血するため、さらに症状が広がってしまいます。この新しい血管を作るたびに出血が広がる悪循環によって、徐々に視力が失われてしまうのです。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は、糖尿病の影響で腎臓の機能が低下する障害です。高血糖が続くと腎臓にある毛細血管が傷つき、血液をろ過して体内の水分量や血圧を整える機能が徐々に低下します。
糖尿病性腎症が発症した初期は自覚症状がほとんどみられません。しかし、障害が進行すると腎臓の機能が低下し、むくみや高血圧などの症状があらわれ始めます。
最終的に腎臓の機能不全に陥り、本来の役割であるろ過機能を代行する人工透析の利用が必要となります。
糖尿病神経障害
糖尿病神経障害は、糖尿病で高血糖状態が続くことでさまざまな神経にあらわれる障害です。
障害される神経の特徴は以下のとおりです。
- 感覚神経:触れたものを感じるための神経
- 運動神経:手足を動かすための神経
- 自律神経:血圧や体温、代謝などを調節するための神経
このように、障害される神経の種類によってさまざまな症状があらわれます。
たとえば、感覚神経が障害されると、けがで傷ができても痛みに気付かず、そのまま放置してしまうことがあります。そして傷口から病原体が感染して、病気につながるというケースもあります。
運動神経の障害では手足が動きにくくなり、転倒の危険性が高まります。また自律神経の障害では、活動する「交感神経」とリラックスする「副交感神経」のバランスが乱れて、頻脈や立ちくらみを引き起こします。
糖尿病と動脈硬化
糖尿病の三大合併症は、高血糖によって細い血管が傷つくことで発症する障害です。糖尿病は細い血管だけでなく、太い血管が傷ついて発症する病気「大血管症」も引き起こします。ここでは、大血管症に関係する「動脈硬化」について詳しく説明します。
糖尿病は動脈硬化を引き起こす
動脈硬化とは血管が硬くなり、本来持っている弾力性を失った状態のことです。
動脈硬化の原因は喫煙や高血圧などがありますが、その一つに糖尿病の影響があります。動脈硬化になると、コレステロールの塊(プラーク)が付着したり、血の塊(血栓)ができたりして、血管が詰まりやすくなります。
プラークや血栓が流れて心臓や脳の周辺に到達し、血管を詰まらせると脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こすリスクが高まります。
このような病気を「大血管症」と呼び、そのきっかけの一つが動脈硬化です。
大血管症の障害
動脈硬化によって引き起こされる大血管症は、大きく分けて以下の三つです。
- 足壊疽(えそ)
- 脳血管障害(脳梗塞)
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
足壊疽(えそ)は、動脈硬化によって足の血管が細くなり、血流が悪くなることで組織が死んでしまう病気です。
脳血管障害は脳へ流れる血管、虚血性心疾患は心臓に流れる血管が詰まることで発症します。
合併症を引き起こさないために重要なこと
糖尿病による合併症を引き起こさないためにも、必要に応じた治療を行うことが重要です。ここでは糖尿病の方が行うべき対策についてご紹介します。
運動療法
運動療法は、糖尿病の進行をおさえるための代表的な治療法の一つです。
運動で筋肉の血流が増加すると、血中のブドウ糖が消費されやすくなります。さらに運動の継続で筋肉量が増えると、血糖値の上昇をおさえるインスリンの効果が高まります。
血糖値を下げるためにはウォーキングやジョギング、サイクリングといった「有酸素運動」がおすすめです。運動はややきつい、少し汗ばむ程度の負荷量で1日30〜60分、週に3〜4回以上を目安にすると良いでしょう。
食事療法
食事療法によって栄養バランスを整えるのも、合併症を引き起こさないためのポイントです。食事療法では、一日に必要なエネルギー摂取量や栄養などのバランスのとれた食事を心がけます。
その他の食事療法のコツは、以下のような点です。
- 急がずゆっくり食べる
- 毎日三食規則正しく食べる
- おやつ(間食)はほどほどに
- 寝る直前に食事をしない
- 飲酒は適度な量にとどめる など
食事内容だけでなく、時間帯やタイミングによっても糖尿病を助長してしまう可能性もあるため、上記のポイントは心がけておきましょう。
薬物療法
薬物療法は、治療薬を使用して糖尿病の進行を防ぐ方法です。
糖尿病の薬にはさまざまな種類がありますが、大きく分けて以下の三つに分類できます。
- インスリンを出しやすくする薬
- インスリンが効きやすくなる薬
- 糖の吸収を調節する薬
①は膵臓に働きかけて、インスリンを分泌させやすくする効果があります。
②はインスリンに対しての抵抗性を下げるための薬です。
③は食事による糖の吸収をゆっくりにしたり、尿として排出して血糖を調節する薬です。
このように、それぞれの治療薬の効果は異なるので、その方の症状に適したものを服用する必要があります。
定期的な検査の実施
運動療法や薬物療法だけでなく、定期的に血糖値や血圧、体重などの検査を受けて、状態の変化を都度確認することが大切です。これは糖尿病の方だけでなく、血糖値が安定している方でも同様です。
糖尿病はゆっくりと進行する病気なので、定期的な検査を怠っていると「気付いたら合併症になっていた」なんて事態になるかもしれません。糖尿病と診断されていなくても油断せずに、定期的に検査を受けましょう。
まとめ
三大合併症は悪化すると、今後の生活に大きな悪影響を与える危険性があります。また三大合併症だけでなく、足の壊疽や脳血管障害、虚血性心疾患など、命に関わるような障害を引き起こすリスクも高まります。
糖尿病による合併症を引き起こさないためにも、食事療法や運動療法などの治療に加えて、定期的な検査を受けることが重要です。
いつまでも健康に過ごすためにも、糖尿病に対しての意識を高めていきましょう。