【医師監修】若い女性の約2割「やせ」が引き起こす危険とは
監修医師:竹内 想(名古屋大学医学部付属病院)
医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積みました。 現在は主に皮膚科医・産業医として勤務しています。
若い女性の多くは、どうしても痩せている方が美しいという考えに陥りがちです。「憧れのあの人のようになりたい」「周りに比べて太っていると感じる」など、痩せたいと考える理由はさまざまですが、決して太っているわけでもない女性が無理なダイエットをするのは非常に危険です。
やせはさまざまな健康リスクを引き起こす可能性が高まります。また最近の研究では、やせは肥満の人以上に死亡リスクが高まることも分かってきました。
もし健康診断でやせすぎという診断を受けた場合は、食習慣をはじめとする生活習慣の改善に取り組んでみましょう。
この記事では、若い女性のやせの現状と問題、そしてその改善について、医師の監修のもと詳しくご紹介していきます。
やせとはどのような状態?
令和元年度「国民健康・栄養調査」によると、20代女性のやせの割合は約20.7%にのぼることが分かりました。
ここでいうやせとは、「健康日本21(第二次)」の目標である、BMI18.5未満の者を指します。BMI18.5%未満の状態が続くと、低栄養状態によりさまざまな健康リスクが高まることから、このような指標ができています。
BMI18.5の体重の目安は以下の通りです。
- 身長150cm 体重41.6kg
- 身長155cm 体重44.4kg
- 身長160cm 体重47.4kg
- 身長165cm 体重50.4kg
このように国が定めている基準がある一方で、「シンデレラ体重」というBMI18以下を目標とする若い女性も少なくありません。痩せたいという願望が強すぎると、食事をすること自体を避けてしまい、結果として拒食症などの摂食障害につながる恐れがあります。
自分自身の健康を守るためにも、まずは適正体重である【BMI18.5~25未満】の範囲内におさまるように体重の管理をしてみましょう。
もちろん体質的に食べても太りづらい、という人も一定数存在します。遺伝的なもの、胃下垂、基礎代謝が高いなど、太りづらい要因にはさまざまなものがあります。
無理に甘いものや高カロリーのものを食べて体重を増やそうとする必要はありませんが、できるだけ栄養バランスのとれた食事を心がけ、体が栄養を吸収しやすくなるような土台づくりをしていくことが大切です。
やせが引き起こす健康リスク
健康診断で「やせ」と診断されても、やせているならいいやと軽視してしまう人もいるかもしれません。太りすぎや肥満が体に悪いということは一般的によく知られていますが、実はやせすぎもさまざまな病気を引き起こす可能性が高まることがわかっています。
具体的にやせが引き起こす健康リスクにはどのようなものがあるのかみていきましょう。
低栄養
無理な食事制限によるダイエットは低栄養を引き起こすことがあります。低栄養とはエネルギーやタンパク質など、体をつくるのに必要な栄養素が不足している状態です。低栄養は筋力の低下や免疫力の低下だけでなく、肌や髪がボロボロになってしまうなど、外見にも影響を及ぼすことがあります。
また食事制限により他の栄養素が不足し、さまざまな症状があらわれる可能性もあります。例えば、鉄分不足による鉄欠乏性貧血や、カルシウム不足による骨粗しょう症などにも注意が必要です。
糖尿病
順天堂大学の研究によると、日本人のやせた若年女性は標準体重者に比べて耐糖能異常(食後に高血糖となる糖尿病予備軍の状態)の割合が顕著に高かったそうです。糖尿病は血糖値をコントロールするためのインスリンというホルモンの働きが悪くなることで発症しますが、やせた若年女性と中年肥満者のインスリンの状態を比べると、同程度の数値であることが分かりました。
このような研究結果から、肥満だけでなく、やせすぎも糖尿病のリスクが高まることが明らかになっています。
女性ホルモンの乱れ
短期間で急激に体重減少すると月経不順を引き起こすことがあるというのは多くの人がご存じでしょう。
これは脂肪細胞から作り出される「レプチン」というホルモンが女性ホルモンの「エストロゲン」の分泌に影響するためです。つまりやせすぎにより余分な脂肪がなくなってしまうと、エストロゲンの分泌が低下し、月経不順を引き起こすという仕組みです。
ダイエットにより月経が止まってしまった、またはいつもの月経とは様子が違う、ということがあればダイエットはストップし、必ず婦人科を受診するようにしましょう。
妊娠・出産への影響
やせすぎによる女性ホルモンの乱れは不妊につながりやすくなるだけでなく、産まれてくる子どもの出生体重にも影響する可能性があります。
エネルギー摂取量が少なく母体が低栄養状態であると、低出生体重児(2,500g未満)となる確率が上がるといわれています。また低出生体重で産まれてきた子どもは、成人後に糖尿病や高血圧などの生活習慣病を発症しやすいという報告もあります。
やせの改善と生活習慣
やせはさまざまな健康被害を引き起こす可能性があることについて解説してきましたが、どうすればやせは改善できるのでしょうか。またやせは医療機関で治療が可能なのでしょうか。
やせの改善には、まずは食生活を改善することが最も重要です。現在の生活習慣を見直し、以下のことを心がけてみましょう。
- 摂取カロリーをコントロールする
- 一日三食、栄養バランスのとれた食事
- 腸内環境を整える
- 適度な運動で筋肉をつける
もし月経が止まってしまった、いつもの月経とは様子が違うというような症状があれば、産婦人科を受診しましょう。症状に応じて、ホルモン剤などを用いて治療が行われます。
また十分な量の食事が摂れないといった場合には、精神的な要素がある可能性が考えられますので、心療内科や精神科を受診しましょう。精神療法や投薬によって改善がみられる場合があります。
気になる症状があれば、一人で悩まず、お近くの医療機関で相談してみることをおすすめします。
まとめ
若い女性のやせは日本だけでなく、世界的な社会問題となっています。フランスでは2017年にやせすぎモデルの活動を禁止する法律が施行され、世界中で大きな話題となりました。
自分の理想の姿になるためにダイエットをする、それはもちろん素敵なことですが、体重だけが美しさの基準ではないということは忘れないようにしましょう。
やせすぎだという診断をうけたら、まずは生活習慣を見直し、適正体重である【BMI18.5~25未満】に体重を戻すことを目標にしましょう。
やせをそのまま放置するのは危険です。気になる症状や、食事に関する悩みがある方は一度医療機関で相談してみることをおすすめします。