【医師監修】乳がんの初期症状とは、リスク要因や検査について解説

2023.06.21

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監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

女性がかかるがんのうち、最も罹患者数が多い乳がん。乳がんの罹患率は9人に1人と言われており、年々増加傾向にあります。
「乳房にしこりのようなものがある」「乳頭から赤い血のような分泌物が出た」など気になる症状があれば、早めに医療機関を受診し、乳がんの検査を受けるようにしましょう。

ここでは、医師監修のもと乳がんの初期症状について、また乳がんのリスク要因や検査について詳しく解説していきます。

乳がんの初期症状とは

乳がんの初期症状では、主に以下の4つの症状が出やすいといわれています。
乳がんの初期症状は他のがんと比べても、自分自身で気が付きやすいものが多いので、まずはセルフチェックをしてみると良いでしょう。そして当てはまる症状が1つでもある場合は早めに医療機関を受診する必要があります。

しこり

乳がんの初期症状の代表的なものの1つに「しこり」があります。
乳がんの初期症状でみられるしこりは、主に乳房の一部分が固くなります。しこりの大きさは病状の進行度合いによってもさまざまですが、初期の乳がんであれば1~2cm程度のことが多いです。

しこりには良性と悪性の2種類があります。そのため、しこりが発見されても必ずしも、がんだというわけではありません。一般的に乳がんのしこりは「硬くて、触っても動かない」特徴があるといわれていますが、しこりを触っただけで悪性かどうかの判断はつかないため、しこりがある場合には詳しい検査が必要となります。

乳頭の陥没、乳房周囲の皮膚の陥没

乳がんが発生することで発生部位の組織が縮んだり、皮膚が引っ張られることがあります。それにより乳房内に皮膚の陥没(乳房の一部にくぼみが生じる)や乳頭位置のズレなどの症状が出現します。

血性の分泌物

乳がんの初期症状として、乳頭から血のような赤い分泌物が出ることがあります。
血性の分泌物は乳がんの他にも乳腺症など他の疾患でも起こりやすい症状です。妊娠中授乳中でない場合にこの症状がある場合は乳がん以外にも乳腺系の疾患になっている可能性が高いため、早めの受診をおすすめします。

乳房の赤みや腫れ

初期の乳がんでは痛みを伴わないことが多いですが、人によっては胸の違和感や不快感が出現することもあります。乳房の組織が炎症を起こして部分的に赤みが生じたり、腫れて痛みを伴うなどの症状が起こることがあります。

乳がんのリスク要因

乳がんは女性で最も罹患数の多いがんであり、さらに罹患率は年々増加傾向にあります。国立がん研究センターの報告によると、によると、2019に新たに乳がんと診断された方の数は999,075例でした。女性のうち約9人に1人は生涯で乳がんにかかるといわれており、誰でもなる可能性があるということを理解しておきましょう。

乳がんの確実な予防方法は現在のところ分かっていませんが、乳がんにかかりやすいいくつかのリスク要因があるといわれています。

ここでは、乳がんのリスク要因について、4つのリスクに分類し解説していきます。

年齢

乳がんはがん疾患のなかでも子宮頸癌に次いで若い世代に多いがんとされています。特に乳がんの患者は40代以降の女性に多くみられ、多くの自治体では乳がん検診の推奨年齢も40歳以降と設定されています。しかし、20~30代で乳がんを発症することもあります。しこりなど気になる症状があれば、若い方でも早めに検査を受けるようにしましょう。

女性ホルモン(エストロゲン)による影響

乳がんの発生には、女性ホルモンの「エストロゲン」が大きく関わってくるといわれています。特に以下の事項については、エストロゲンの分泌に影響を与え、乳がんのリスク要因となりうると考えられています。

  • 出産経験のない方
  • 高齢出産
  • 授乳歴のない方
  • 経口避妊薬(ピル)の服用
  • 閉経後のホルモン補充療法などの実施  など

生活習慣

乳がんと生活習慣の関係については世界中でさまざまな研究がされており、特に以下のような事柄については、高い確率で乳がんの発症リスクを高めると考えられています。

以下の生活習慣は、乳がんだけでなく他の病気を引き起こすリスクも高まるため、1つでも当てはまるものがあれば、まずは予防のためにも生活習慣の改善に努めましょう。

  • 飲酒や喫煙
  • 閉経後の運動不足や肥満傾向
  • 過労や不規則な生活習慣  など

家族歴

乳がん全体のうち約5~10%は遺伝性乳がんであるといわれています。遺伝性乳がんは20~30代の若年層でも発症するケースも少なくありません。近親者に乳がんを患ったことがある方がいれば、より注意をして定期的に乳がん検診を受けることが勧められます。

乳がんの検査について

乳がんは早期発見が今後の経過を左右します。早期に治療に取り組むことで約9割の人が治癒しており、早期発見であればあるほど生存率は高まります。
乳がんの早期発見には、乳房にしこりなどがないかセルフチェックをすることと、定期的な乳がん検診が有効です。

ここでは、乳がんの検査方法について詳しく解説していきます。

乳がんの検査方法

乳がんの検査は主に乳腺科や乳腺外科にて行われます。
40歳以降であれば、自治体やご加入の健康保険組合での定期健診の項目に乳がん検診が含まれていることも多いです。しかし現在気になる自覚症状がある場合は、定期健診まで待たずに、できるだけ早く医療機関を受診するようにしましょう。

乳がんの検査方法は、「マンモグラフィー検査」と「超音波検査」の2種類があります。


それぞれの検査の特徴については以下の通りです。

マンモグラフィー

マンモグラフィーとは、乳房専用のX線検査のことです。乳房をレントゲン板で圧迫し薄くのばした状態で撮影を行い、異常所見がないかをチェックします。
胸を圧迫するため検査には痛みが伴うことがあります。苦痛がある時は無理をせず検査スタッフに相談しましょう。

メリット:データの正確性が高く細かい乳房内の状態を把握することができる
デメリット:40歳未満の方は乳腺の異常が分かりにくいことがある

超音波検査

超音波検査では、乳房に超音波をあて画像に映し出し、しこりの大きさやリンパ節などに異常がないかを確認します。乳房にジェルを塗り機械をあてることで、乳房の内部の状態がチェックできます。

メリット:妊娠中でも検査が可能、痛みもないため苦痛なく検査を受けることができる
デメリット:マンモグラフィーと比較すると正確性が劣ることがある

乳がんの検査では、基本的にはマンモグラフィーか超音波検査のどちらか一方を実施することが多いです。乳房の状況や妊娠の有無によって、どちらの検査が適しているかが異なることがあります。どちらを選択するべきか悩んだ方は、検査をする医療機関に事前に相談してみましょう。

また、月経前はホルモンの影響により乳房が腫れやすくなるため正確な診断や実施ができない場合があります。できるだけ受診の際は月経日を避けると良いでしょう。

まとめ

乳がんの初期症状やリスク要因について解説してきましたが、ご自身に当てはまる症状があるなど、ご不安に思われている方もいらっしゃるでしょう。

そしていざ病院に行こうと思っても検査に対する不安や、何よりがんと診断されるかもしれないという恐怖感から、受診をためらってしまう方も少なくないかもしれません。

乳がんは何よりも早期発見が大切です。

そして働き世代に多い疾患だからこそ、時には自分のことを後回しにせず、ご自身の健康を見直す機会を作り早めの受診を心がけましょう。