尿漏れは病院を受診すべき?タイプ別対処法を紹介
監修医師:磯野 誠(所沢いそのクリニック)
防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校医学研究科、Heinrich Heine大学泌尿器科学講座(ドイツ連邦共和国)留学を経て、2023年 所沢いそのクリニック開院。主な研究内容は泌尿器科癌(前立腺癌・膀胱癌・腎癌)、排尿障害など。
加齢に伴い多くの人が悩まされる尿漏れは、実は医療機関で治療が可能だということをご存じでしょうか。尿漏れは、なかなか人に相談するのが恥ずかしかったり、病院で相談するほどではないと考えてしまい、気になる症状がありながらも放置してしまう人が多いのですが、適切な治療を受けることで症状の改善が期待できます。
「尿漏れ」といっても、その症状や原因は人によってさまざまです。特に男性と女性では、尿漏れの原因が異なるケースが多いです。
この記事では、医師監修のもと尿漏れの種類や対処法、また医療機関での治療について詳しく解説していきます。
尿漏れとは
尿漏れ(医学用語:尿失禁)とは、自分の意思に関わらず勝手に尿が漏れてしまう症状をさします。尿漏れはなかなか人に相談しづらかったり、病院にかかったりすることに抵抗を感じてしまう方も多いものです。
2017年に花王株式会社が行った調査によると、40~50代以降では男女共に約3割前後の方が尿漏れの症状に悩まされていることが分かりました。しかし実際に尿漏れの症状に対して適切な治療を受けている人は少ないのが現状です。
尿漏れの症状については、主に①腹圧性尿失禁 ②切迫性尿失禁 ③溢流性(いつりゅうせい)尿失禁の3種類に分類されます。それぞれの違いについてみていきましょう。
腹圧性尿失禁とは
腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみなどの腹圧がかかるときに尿が漏れてしまう症状をさします。他にも、重いものを持ち上げた時や運動をしている時などに尿漏れが起きることも多いです。
腹圧性尿失禁の原因となるのは、主に骨盤底筋の緩みが考えられます。骨盤底筋とは、体や臓器を支えるための筋肉のことで、尿道をしっかりと閉じる役割をもちます。この骨盤底筋が加齢などの原因により筋力が低下することで、腹圧がかかった時に尿漏れが起きやすくなってしまいます。
切迫性尿失禁とは
切迫性尿失禁は、突然強い尿意に襲われトイレに間に合わず尿が漏れてしまう症状をさします。切迫性尿失禁は、過活動膀胱といわれる疾患の一種であり、頻尿や夜間頻尿などの症状が伴うこともあります。切迫性尿失禁の原因となるのは、主に加齢が考えられます。他にも、脳血管障害やパーキンソン病、急性膀胱炎や前立腺肥大症などの病気が原因となっているケースもあります。
溢流性(いつりゅうせい)尿失禁とは
溢流性尿失禁とは、慢性的な尿閉(正常に尿が出せなくなること)により、膀胱に残った尿が少しずつ漏れてしまう症状をさします。溢流性尿失禁の原因となるのは、主に前立腺肥大症などの疾患により排尿障害が起こっていることが考えられます。他にも、排尿の力が衰えてしまう低活動膀胱や直腸や子宮などの臓器の手術が原因となっているケースもあります。
男性の尿漏れタイプと対処法
男性の尿漏れに多くみられるものとして、過活動膀胱による切迫性尿失禁と前立腺肥大症による溢流性尿失禁が挙げられます。
男性の尿漏れの場合は、水分を摂りすぎないように心がけたり、膀胱訓練をすることで症状が改善することもあります。膀胱訓練とは、尿意を感じたあと5~10分ほどトイレに行くのを我慢し、徐々にこの我慢する時間を延ばしていく方法です。特に1回あたりの尿量が少なく、何度もトイレに行ってしまうという方に効果があらわれやすいです。
もしこれらのことを心がけても尿漏れが改善しない場合や、以下のような症状がみられる場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
- 尿意切迫感(突然の尿意に我慢できない)がある
- 頻尿(朝起きてから寝るまでにおよそ8回以上の排尿がある)
- 夜間頻尿(寝ている間におよそ1回以上排尿のため目が覚める)
- 尿の勢いが弱く、排尿に時間がかかる
- 排尿後も残尿感がある など
検査の結果前立腺肥大症と診断された場合には、薬による治療が行われます。また薬物療法を行っても症状が改善しない場合や、症状の悪化がみられる場合には、手術療法が検討されることもあります。
女性の尿漏れタイプと対処法
女性の尿漏れに多くみられるものとして、腹圧性尿失禁と過活動膀胱による切迫性尿失禁が挙げられます。腹圧性尿失禁は、女性の場合妊娠や出産によって骨盤底筋が緩むことが原因となることも多く、20~30代の若い女性であっても発症することがあります。一方、切迫性尿失禁は主に高齢者で発症しやすいといわれています。
腹圧性尿失禁の主な対処法としては骨盤底筋のトレーニングがあります。骨盤底筋のトレーニング方法はさまざまな種類がありますが、ここでは寝ながら行える簡単なトレーニング方法をご紹介します。
骨盤底筋トレーニングのやり方
① 仰向けになり、両ひざを曲げる
② 足は肩幅に開き、尿道・肛門・膣のあたりをキュッと締めるように力を入れる
③ ゆっくりと力を緩めてリラックスする
④ ②~③の動作を数回繰り返す
最初はなかなか力を入れる動作に苦労するかもしれませんが、慣れてきたら徐々に力を入れる時間を延ばしていくとより効果的です。
トレーニングを行っても症状が改善されない場合は、薬による治療や手術療法が検討されることもあります。
尿漏れの治療と費用
尿漏れの治療は主に泌尿器科にて行われます。泌尿器科ではまずは尿漏れの原因となっている病気がないかを調べます。もし何らかの病気によって尿漏れが起きていることが確認できたら、その病気に対する治療が検討されます。
病気が原因でない尿漏れの場合は、一般的に以下の薬物療法が行われます。
薬物療法
医療機関にて尿漏れと診断された場合は、尿漏れの種類にあわせて主に以下のような薬が処方されます。
α1受容体遮断薬
主に前立腺肥大による尿漏れの治療に使用される薬です。肥大した前立腺を縮小させ、尿道をゆるめ、尿を出やすくする効果があります。
抗コリン薬
主に切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁による尿漏れの治療に使用される薬です。膀胱の収縮を抑え、膀胱に尿が溜まりやすくなる効果があります。
β2刺激薬
主に腹圧性尿失禁による尿漏れの治療に使用される薬です。膀胱の筋肉をリラックスさせ、尿道を閉じて尿漏れを起こしにくくする効果があります。
手術療法
日常生活の改善や薬物療法でも改善しない重度の尿漏れ(1日3~4枚以上の尿漏れパッドが必要な場合など)には、以下のような手術療法が検討されます。
尿道スリング手術
男性・女性の腹圧性尿失禁に対して行われる手術です。尿道の裏に1cm程度のテープを通し、筋肉を補強することで尿漏れの改善が期待できます。
人工尿道括約筋埋め込み術
主に前立腺癌術後の尿失禁に対して行われる手術です。尿道にカフという装置を埋め込み、ポンプを手動で動かすことで排尿をコントロールします。
尿漏れの治療費
尿漏れの治療は主に泌尿器科で行われます。尿漏れの症状で泌尿器科を受診した際の治療費の目安は以下の通りです。
尿漏れの治療費(3割負担の場合)
初診:約3,000~5,000円
再診:約1,000~2,000円
まとめ
尿漏れとは、自分の意思に関わらず勝手に尿が漏れてしまう症状のことです。加齢に伴い多くの人が悩まされる症状の一つですが、適切な治療を受けている人は決して多くありません。
尿漏れの症状を放置していると、外出するのが不安になってしまうなど生活の質に影響を与えることもあります。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。