【医師監修】顎関節症とは?日常生活で気をつけるポイントと治療法を紹介

2023.10.27

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監修医師:熊谷 靖司(熊谷歯科医院 院長)
歯科医師国家免許、日本歯周病学会 認定医。主な著書は『歯の話をしませんか?(もりメディア)』

口を開けると違和感がある、痛みがあるなどの症状でお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。その症状、もしかしたら顎関節症かもしれません。

顎関節症とはどんな状態なのか、日常生活で気を付けるべきポイントがあるのかについてご紹介します。

顎関節症とは

顎関節症とは、顎関節やあごを動かしている咀嚼筋に関する症状の総称です。具体的には次の症状が顎関節症の症状として該当します。

  • 口を開けた時のあごや咀嚼筋の痛み
  • 口を開けたり閉めたりした時に音が鳴る(顎関節雑音)
  • 大きな口が開けづらい(開口障害)
  • 顎の関節がずれる(顎運動異常)

顎関節症は一生の間、2人に1人は経験すると言われています。特に、10代後半より症状を自覚する方が増えて、20~30代が症状を自覚するピークとなるのです。生命に関係するような症状が出てくることは一般的に考えにくいとされています。

しかし、硬い食べ物が噛めなかったり、大きな食べ物が食べにくかったりと、生活の質へ影響が出てくるかもしれません。また、あごの音が煩わしく感じることもあるでしょう。

顎関節症の原因

顎関節症の原因はいくつかの原因が考えられ、それらが複合的に合わさっていると考えられています。

顎関節症の原因として言われる頻度が高いのが解剖要因といってそもそもの顎の作りに原因があるものです。高齢になって顎の骨がもろくなり、顎関節症になるということもあります。

もう1つが咬合要因です。咬合要因は噛み合わせが原因になるもので、もともとの顎の作り的に噛み合わせが変になってしまったことで顎関節症の原因となっている可能性が考えられます。

特に近年多いのが行動要因と精神的要因です。

行動要因とは日中・夜間のくいしばりや歯ぎしり、頬杖や猫背などです。食べ物を片側だけで咀嚼する癖がある、ガムを食べることが多い、スポーツをしていて無意識に歯を食いしばっていた、寒いところに長時間いて歯を食いしばっていたという場合も、この行動要因に該当します。

他にもスマホを長時間操作していて前傾姿勢になる、読書を長時間している、パソコンで仕事をしているという現代ならではの行動も当てはまります。

精神的要因はストレスによって筋肉が緊張してしまうことで起こります。ストレスや過度の緊張で歯を食いしばってしまう場合にも、顎関節症になりやすいです。

ほかにも顎周辺のけがによる外傷要因も原因の1つです。

顎関節症の初期症状

顎関節症の初期症状は顎の痛み、口が開けづらい、口を開けたり閉めたりするとカチカチと音が鳴るの3つです。

カチカチとした音だけであれば人口の20%近くの人は顎関節の音を自覚しているとされており、初期症状として多くの人が経験する症状であると考えられます。

また顎関節や顎を動かしたときに感じる筋肉の痛み、あるいは顎関節症による口の開けにくさが初期症状で出現した場合において、実際に治療が必要になる人は5%程度と推定されているので、治療が必要となる事例も少ないです。

顎関節症かもと思ったら?

顎関節症は、日常生活を見直すだけで改善する可能性もあります。顎を酷使する食品を避けたり、姿勢を見直したり、大きな口を開けないようにしたりするだけでも、状態が改善することがあります。

初期症状を自覚したら、まずは自分の普段の生活を少し気を付けてみるだけでも症状の改善が期待できるかもしれません。

また、顎関節症の症状は、実は顎関節症に限ったものではなく、ほかの病気でも起こる可能性があります。特に耳や鼻など顎に近い器官の病気や、心臓の病気でも類似した症状が出てくることもあります。

そのため、自己判断で経過を観察するのではなく、まずは症状が出現した早い段階で一度医師の診察を受けておくことがおすすめです。

顎関節症の治療と費用

顎関節症は時間の経過とともに症状が改善できると考えられています。そのため、治療は一般的に、日本顎関節学会より発表されている診療ガイドラインを基に検討されます。

口を大きく開け閉めしたとき、痛みがあり、その痛みが1週間以上続いているという場合には、受診が必要です。

ここでは、顎関節症で行う治療とその費用について解説します。

顎関節症の治療はどこでできる?

顎関節症の治療は一般的に歯科、もしくは口腔外科への受診が推奨されます。

骨の異常の有無を調べるために必要に応じてエックス線撮影やCTを使って検査をしたり、骨以外の関節の構造や筋肉の問題を調べるためにMRIを使ったりすることもあります。

そのため、これらの検査機器がそろっている病院を選べば、1ヶ所で全ての検査を完結させることができるでしょう。

この検査の結果、顎関節症ではない可能性が高ければ、ほかの診療科を紹介されます。

顎関節症の治療方法

顎関節症の治療は薬物療法、スプリント療法、理学療法によって顎関節症を発症する前の状態に戻すことを目的としています。

薬物療法は、顎関節症の痛みに対してアプローチをしていくものです。日常生活の見直しと組み合わせて、顎関節症の改善を目指します。

スプリント療法とはマウスピースのようなものを上あごもしくは下あごにいれて、上下の噛み合わせを均等になるように調整する治療法です。

これによって顎の関節頭が正しい位置に戻るため、筋肉の緊張をとることができます。そうすると、顎をスムーズに動かすことができるようになるので、不快な症状の解消へとつながります。

また、寝ている間に無意識に歯ぎしりをしている、スポーツ中に歯を食いしばってしまうという場合にはスプリント療法をすることで咀嚼筋の緊張の緩和や、顎関節部への負荷の軽減ができ、上場の改善へとつなげられるのです。

さらに必要があれば、入れ歯やかぶせ物などを入れて要請をして噛み合わせを治していき、顎関節症の改善へとつなげていくのです。

理学療法には物理療法と運動療法があります。

物理療法は筋肉のマッサージ、温罨法、筋肉への電気刺激、鎮痛を目的としたレーザー照射などです。

運動療法は、ストレッチをして筋肉や靭帯などの柔軟性を高めて、動きを改善していきます。あわせて下顎可動化訓練をすると更に動きが滑らかになり、開口量の増加へとつなげられるのです。

ほかにも筋力増強訓練で開口に使う筋肉を鍛えるという方法があります。これらは、医師が直接施術をするものもあれば、医師から指導を受けて自分で行うものもあります。

手術などの外科治療は重症な場合の選択肢となりますが、あくまで最終手段となり、前述した治療法から行います。

顎関節症の治療費

顎関節症の治療費用は治療方針によって大きく異なります。痛みという症状が出ているものに対して処方される薬物や、スプリント療法の場合は保険適用となることがありますが、スプリント療法も使用する器具によっては保険適用外となることがあります。

治療費を抑えて顎関節症の治療をしたいと考えた場合には、まずはカウンセリングや保険適用内でできる必要な検査を受けたうえで治療を検討されるとよいでしょう。

まとめ

顎関節症は一生の間、2人に1人は経験すると言われているほどメジャーな症状です。口を大きく開け閉めしたときに痛みがあり、その痛みが1週間以上続いている場合には、一度歯科もしくは口腔外科への受診が勧められます。

多くの場合顎関節症は時間の経過と共に自然治癒していきますが、辛い症状が出ている場合は無理をせずに早めに適切な治療を受けるようにしましょう。