【医師監修】歯周病はどんな症状があるの?治療方法について詳しく解説
監修医師:若菜 康弘(若菜歯科医院)
鶴見大学歯学部大学院卒業。歯学博士。現在は若菜歯科医院の院長。
歯周病患者数はあらゆる年代で増えており、歯周病により歯を失う人も数多くいます。
2016年の調査では、20歳代、30歳代前半では6割程度、30歳代後半以降は7割以上の人が歯肉に何らかの症状を有しています。
また、歯周病が原因で歯を抜くことになったケースは、15歳未満から早くもみられ、25~29歳で約3%、35~39歳では約12%、40~44歳では約24%、さらに55歳以降においては、歯を抜くに至った原因の多くを歯周病が占めています。
今回は歯周病の症状や治療について、医師監修のもと詳しく解説していきます。
歯周病とは
歯周病は、むし歯(う歯)と並び、歯科の2大疾患の一つです。
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、『歯周病とは、歯と歯ぐき(歯肉)の隙間(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こした状態(歯肉炎)、それに加えて歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう状態(歯周炎)を合わせた総称』と記載されています。
歯周病の症状
下記のうち、思いあたる症状はいくつあるでしょうか。
(参考:『日本臨床歯周病学会 歯周病のセルフチェック』)
- 口臭を指摘された・自分で気になる
- 朝起きたら口の中がネバネバする
- 歯みがき後に、毛先に血がつく、すすいだ水に血が混じることがある
- 歯肉が赤く腫れてきた
- 歯肉が下がり、歯が長くなった気がする
- 歯肉を押すと血や膿が出る
- 歯と歯の間に物が詰まりやすい
- 歯が浮いたような気がする
- 歯並びが変わった気がする
- 歯が揺れている気がする
歯周病であるかどうかの判定の目安は以下の通りです。
●チェックが1~3個の場合
歯周病の可能性があるため、軽度のうちに治療を受けましょう。
●チェックが4~5個以上の場合
中等度以上に歯周病が進行している可能性があります。早期に歯周病の治療を受けましょう。
たとえチェックがない場合でも、無症状で歯周病が進行することがあります。
1年に1回は歯科検診を受けることがとても大切です。
歯周病の原因
歯周病の原因としては、以下のようなことが挙げられます。
プラーク中の歯周病原菌
私たちの口の中には、およそ400~700種類もの細菌が住んでいるといわれています。これらの細菌は、普段は特に何かを起こすわけではありません。
しかし、食後の歯みがき(適切なブラッシング)が不十分であると、歯の表面や歯と歯の間、歯と歯肉の境目(歯周ポケット)に歯垢(プラーク)が蓄積していきます。
このプラークには歯周病を引き起こす歯周病原菌が含まれ、歯周病原菌が毒素を発生します。
この毒素により、歯肉が炎症を起こし、腫れ、出血につながっていきます。
この状態がさらに進行すると、歯周ポケットがどんどん深くなり、歯周病原菌が増殖を続け、歯石という固い物質となり、歯の表面に付着します。
この歯石を足場として、歯周病原菌は歯周ポケットの奥へ奥へと進行を続けて毒素を出し続け、歯のみならず、歯を支える歯槽骨という骨までも溶かしていきます。
そして、歯がグラグラとなり、やがて歯が抜けてしまいます。
日々の生活要因
歯周病は生活習慣病の一つともいわれており、乱れた生活習慣や加齢なども、口の中の抵抗力(免疫力)を下げ、歯周病に罹るリスクを上げることにつながります。
歯周病が進行する原因(リスクファクター)には以下のようなものがあります。
- 喫煙
- 不適合な冠や義歯
- 不規則な食習慣
- ストレス
- 全身疾患(糖尿病、骨粗鬆症、ホルモン異常)
- 薬の長期服用
- 部分的に歯がない(歯がある方で噛むため負担が増加し、歯周病が部分的に進行)
- 両親が若い時から入れ歯だった
- 口で呼吸することが多い
- 年齢
- 遺伝、生まれつきの体質
- 免疫抑制剤を飲んでいる、あるいは免疫低下の状態
- 歯ぎしり、くいしばり、かみ締め
歯周病は治療できる?
歯周病は治療可能です。歯周病の治療は今も進歩を遂げており、進行を阻止することも可能となりました。
しかし、重要なことは、歯科検診を受け、そして日々の対策(メンテナンス)を行い、歯周病を予防すること、歯周病の進行を止めることです。
歯周病の最大の原因はプラークであり、プラークをコントロールすること(ためないこと、増やさないこと)が最重要となります。
以下を実行してください。
- 毎日、正しいブラッシングを実行する
- 歯の表面や歯肉の中まで入りこんでいる歯石を完全に取り除く
- 歯の表面を滑らかにして、炎症を引き起こす細菌を徹底的に除去する
- 傷んだ歯肉を治療して歯肉を健康に近づける
- 歯科衛生士による専門的なメンテナンスを定期的に受ける
歯周病と他の病気との関係
歯周病は進行すると細菌が血液や呼吸器内に入り込み、心疾患や慢性腎臓病、呼吸器疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、悪性新生物(がん)、早産・低体重児出産など、さまざまな全身疾患を起こすことが知られています。
歯周病の治療により口の中の健康を維持することが、全身の健康維持につながることを知りましょう。
歯周病の治療と費用について
歯周病の治療では、細菌の塊である歯垢を完全に取り除くことが最も重要となります。
治療方法と費用について、具体的にみていきましょう。
歯周基本治療
歯周基本治療とは、歯周病の原因である歯垢や歯石を取り除くことに主眼を置く治療法です。
しかし、歯周病を悪化させる原因は歯垢だけではないため(生活習慣や他の病気など)、歯周病の原因を一つ一つ取り除く治療全体を歯周基本治療と考えます。
歯科医院でおこなう専門的な『プロフェッショナル・ケア』を中心とし、同時に、患者さん自身がおこなう『セルフ・ケア(ブラッシング)』も重要になります。
プロフェッショナル・ケア:基本治療
歯周病の進行程度に関わらず行われる治療です。
- プラークコントロール(歯みがき指導)
- スケーリング:歯垢と歯石を器械で除去する
- ルートプレーニング:歯の表面の毒素や毒素による溝などの表面の汚染を除去する
- かみ合わせの調整:歯と歯のかみ合わせの調整(歯の一部を削る、マウスピースの作成など)
プロフェッショナル・ケア:歯周外科治療
歯肉の奥に溜まった歯垢、歯石が歯周基本治療だけでは取り除けない場合に、外科的手術を行います。
治療後に再検査を行い、改善が確認できればメンテナンス(定期的な清掃と検査)、改善されていない場合は再度治療を行い、治るまで治療と検査が繰り返されます。
セルフ・ケア(ブラッシング)
歯ブラシをあたるべき箇所に確実にあてることが重要です。歯科衛生士から適切な指導を受けることが大切になります。
ブラッシングのポイントは以下の通りです。
- 歯と歯の間、歯と歯肉の境目、奥歯に歯ブラシを確実にあてる
- 歯1本1本を丁寧に磨く
- 軽く、細かく、磨く(強く磨きすぎない)
- 1ヶ所につき10回~20回ぐらい磨く
歯周病の治療にかかる費用
歯周病の基本的な治療は、プロフェッショナル・ケア(歯と歯肉のクリーニング、歯石除去)です。
この治療は保険診療でカバーされます。
症状の程度は、軽症、中等症、重症に分かれ、重症度により治療内容が変わり、費用も変わります。
また、保険診療で治療する場合と保険外診療(自由診療)で治療する場合とで、治療内容、治療回数、費用が大きく変わります。重症度により、保険診療では数千円から数万円、自由診療では数十万円かそれ以上となることもあります。
治療を始める前に、どのような治療をどのくらいの期間で行うのか、費用はどのくらいかかるのか、歯科医師から十分な説明を受けましょう。
まとめ
歯垢を長期的にコントロールすることが歯周病の予防や治療の鍵となります。
中等症以上の歯周病では、歯周外科を応用すればほとんどの歯周炎では進行を止め、回復が期待できます。
歯周病治療に精通している“かかりつけ歯科医”を持ち、歯周病治療、歯周病やむし歯の予防に積極的に取り組むようにしましょう。