メディコレNEWS|【郷正憲先生の思い】情報発信で患者の不安を減らす
日々生活をしていると、病気や怪我など予期できないトラブルに見舞われることがあります。こうした時に医師に救われた経験がある人は多いと思いますが、皆さんが診察などでお世話になっている医師が、どのような思いを持って医療に従事しているかご存知ですか?
ここでは、「ドクターの思い」と題して、秘められた医師の思いをみなさんに紹介していきます。今回は、徳島赤十字病院の郷正憲先生にお話しを伺いました。
Profile
郷 正憲
香川大学医学部医学科を卒業し、現在は徳島赤十字病院の麻酔科で勤務。術後鎮痛に知見が深い。日本麻酔科学会麻酔科専門医 周術期経食道心エコー認定
麻酔で一番大事なことは「安全」、現役麻酔科医の思いとは
――本日はお時間いただきありがとうございます!郷先生はどうして医者になられたんですか?
郷先生 私は先天性心疾患である心房中隔欠損症を持って生まれてきました。もちろん私自身は覚えていませんが、生まれてすぐの頃から症状があったという事です。そして2歳の時に手術を受け、根治しました。成長するにつれその話しを聞かされ、幼いこころにも医師という職業が大事な職業だという事がひしひしと伝わってきました。その思いが憧れ、そして目標と変わっていくことも特に不思議なことではないでしょう。自分を救ってくれた医療を自分で実現することで、少しでも救われる人を増やしたいと思って日々臨床を行っています。
――幼いことに自ら医療に救われたことで、医師を志したんですね。現在の診療科に進んだきっかけはどういったものだったのでしょうか?
郷先生 もともと医学部に進学したときには麻酔科という存在はほとんど知りませんでした。その頃はやはり自分自身が手術を受けたおかげで元気にしているという意識は強く、漠然と外科系に行きたいと思っていました。しかし医学部在学中に腰痛を発症し、外科医になるのは難しいと思うようになりました。そんなときに臨床実習で麻酔科を回ったときに、衝撃を受けました。外科の医師が手術をしている間、患者に寄り添い、常に患者さんの全身全てを診ている、こんなやりがいのある仕事があるのかと思ったものです。そのときから強烈に麻酔科と言うのを意識し、気づいたら現在の役職になっていました。
――患者に寄り添うところが魅力的に感じたのですね。普段の臨床ではどのようなことを行なっているんですか?
郷先生 私は麻酔科医として100%臨床医として仕事をしています。私が勤める徳島赤十字病院は地方中核病院で、救急車がひっきりなしにやってくる病院です。手術件数は予定手術も緊急手術も多く、毎日遅い時間まで手術が行われています。麻酔が非常に難解なケースも多く、非常に苦慮しながら日々麻酔をしています。また種々の診療科が、今までしたことのない新しい手術を行うと言うことも多くあり、その都度どのような麻酔を行うべきなのか、診療科に確認しながら対応し、手術が滞りなく行える様に考慮しています。
――ケースバイケースで柔軟な対応が求められるんですね。臨床で大事にしていることはありますか?
郷先生 麻酔で一番大事なことは安全である事だと思っています。そのため、奇をてらったことを行うのではなく、確実な麻酔を行う事をモットーとしています。また、手術がしやすいという事も安全に繋がるものとして常に考えています。執刀医が求める麻酔を常に考え、コミュニケーションを十分に取るようにしています。そして執刀医以上にコミュニケーションを取るべきなのは患者さんだと思っています。麻酔は準備が8割とも言う人がいます。その患者さんがどのような人で、どのような背景を持っているのかによって必要とされる麻酔は千差万別です。術前のわずかな時間の診察の間に必要な事を見落とさないようにコミュニケーションを重視しているのです。
――患者にとってしっかりとコミュニケーションを取ってもらえる医師はありがたい存在だと思います。先生は、現在チャレンジしたいことはありますか?
郷先生 日々の臨床を行うにつれ、自分の持っている知識を他の人に伝えたいと強く願うようになりました。それは研修医や看護師さんなど医療に従事する人ももちろんですが、医療のことをよくわかっていない一般の人に対してもです。医療の知識というのは非常に深く、そしてわかりにくいと思われがちです。しかしそれは伝える側がうまく伝えられていない空ではないかと思っています。本当は多くの人が知っていてもいいような知識が、一般の人がなかなか手の届かない知識になっている現状を考え、少しでもわかりやすく少しでも多くの知識を伝えたいと思っています。
――先生が臨床を通じて目指すものはなんですか?
郷先生 患者さんが、自分のされる医療について知る事ができるようになる事です。もちろん他科のことはなかなか難しいところがありますが、麻酔の領域だけでも知ってもらえることが目標です。そのためには日々の数分間だけの麻酔術前診察の時間にもっと理解してもらえる様に丁寧な診察、説明をする事を心がけるとともに、様々なメディアを通して麻酔について発信していきたいと思っています。そうすることで不安が少しでも少なく治療を受けて頂けると思います。
読者の方へ伝えたいメッセージ
――最後に、ここまで読んでいただいた方に伝えたいメッセージをお願いします。
郷先生 麻酔というと非常に難しく、よくわからない領域と思われている方も多くいらっしゃると思います。確かにほかの診療科が取り扱う病気に比べて特殊なことをしている事には間違いがありません。ほかの診療科が病気を治す事に注力しているのに対し、麻酔科が行うのは、様々な薬を使用して身体に危険な状態を作り出す事が仕事になります。ですがだからこそ、何をしているのか、どのような事に気をつけているのかなど、色々な事を知っていただきたいと思います。できる限りわかりやすく情報発信したいと思いますので、何か質問があればぜひともお寄せください。