痛み止めって、どうやって効くの?痛み止めの種類と効果について
執筆医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。
「痛みのプロ」である麻酔科医の郷正憲先生に「痛みのあれこれ」について教えていただく連載記事の第2回。
今回は痛み止めの薬の種類と効果について詳しく教えていただきます。
痛みにはどのようなものがある?
まずは痛み止めを知る前に、痛みについて簡単に解説しましょう。と言うのも、痛み止めには複数の種類がありますが、それぞれターゲットとする痛みが異なりまするのです。痛みを知る事で、必要な痛み止めが自ずと分かってくるのです。
さて、では痛みはどのように分類されるのでしょうか。簡単に分類すると、痛みは3種類に分かれます。それぞれどのようなものなのかみていきましょう。
体性痛
1つ目の痛みは、体性痛です。
体性痛というのは、皮膚や骨、筋肉などの痛みです。皮膚に擦り傷ができたり、筋肉痛が出たり、骨折したりしたときのいたみと言うとイメージがしやすいと思います。痛みの特徴としては鋭い痛みで、ズキズキと痛みます。また、触るとズキっと強い痛みを感じるのも特徴です。
痛みの機序についても簡単に説明しましょう。もともと皮膚や骨、筋肉には痛みを感じるセンサーがあります。このセンサーがある一定以上の強い力を感じると「痛い!」と感知します。例えば、ほっぺたを触られたときには痛みを感じませんが、ビンタされたときには「痛い!」と感じますよね。このように、触っただけで「痛い」と感じてしまっては日常生活に支障が出るため、痛みのセンサーは一定以上の力がかかったときにのみ反応するようにできているのです。この一定の力のことを「痛みの閾値」といい、痛みのセンサーは「センサーにかかる力が痛みの閾値を超えた力がかかったときに反応する」と表現されます。
痛みのセンサーは皮膚や骨、筋肉の他には体の臓器を包む膜にも存在します。一方で、臓器自体にはセンサーはありません。脳も例外ではなく、脳を包む膜には痛みのセンサーはありますが、脳自体には痛みのセンサーはありません。
ところで、この痛みのセンサーの閾値は、常に一定に固定されているわけではありません。センサーの近くで「炎症反応」という反応が起こると、閾値が下がってしまうのです。つまり、“触るだけ”というような弱い力がかかっただけでもセンサーが反応するようになるのです。
炎症反応というのは、きちんと説明すると非常に複雑な話になってしまうのですが、凄く簡単に言うと血液中の白血球という成分が集まって、化学物質をいっぱい放出する反応です。放出された化学物質の刺激によって免疫反応や様々な反応が起こり、炎症反応が起こったその場所は熱をもち、腫れてきます。
炎症反応は様々な環境で起こりますが、主に2つの条件でおこってきます。1つ目が体の修復がおこるときです。例えば皮膚に傷ができたときに、かさぶたができてだんだんと皮膚ができてくると思いますが、これは炎症反応がおこっている事で修復が進んでいる様子を見ているのです。さて、傷口を触ったらどうなるでしょうか。触っただけでも痛みを感じますよね?つまり、炎症が起こって皮膚が修復されている一方で、炎症によって痛みのセンサーが過敏に反応するようになったせいで、触っただけでも痛く感じるようになるのです。
同じように、筋肉や骨など、他の様々な体のパーツも、修復に伴って炎症が起こります。そして、触ったり、動かしたりしてセンサーが刺激されると痛みを感じるようになるのです。
もう一つの炎症反応としては、感染症が起こっているときにおこってきます。体内に侵入してきた感染症に対して体が対抗策として免疫の力を最大限に発揮させるために炎症反応を起こすのです。特にからだの局所で細菌が増殖している場合、その場所に炎症反応が強く起こります。やはり炎症が起こりますから、痛みのセンサーが弱い刺激でも反応する様になり、少し動いただけであったり、動かずにじっとしていたりするだけでも痛みを感じるようになります。
まとめると、体性痛は体の各所にあるいたみを感じるセンサーが反応する痛みです。傷ついたり、感染が起こったりと言った事によって炎症が起こると、センサーが過敏に反応して弱い刺激でも強く痛みを感じる。これが体性痛の特徴です。
内臓痛
2つ目の痛みが内臓痛です。
内臓痛はその名の通り、内臓の痛みです。内臓痛の痛みの特徴は、だんだんと強くなってくる、そして痛みが強くなったり弱くなったりする痛みです。また、痛みの場所も“ここが痛い”というよりは、“この辺りが痛い”といった曖昧な痛みになります。
内臓痛がおこる機序としては、簡単に言うと「内臓が、何らかの理由でちゃんと動けないことによる悲鳴」だと思ってください。一番わかりやすいのが腸炎でしょう。腸に感染症がやってきたりして炎症が起こるのが腸炎です。しかし、炎症が起こっただけでは痛みを感じることはありません。腸には体性痛と同じような痛みを感じるセンサーはないからです。
しかし、腸炎が進むと腸は感染症を排出しようとして激しく動きます。この激しい動きは腸の蠕動音として“グルグル”と聞こえますが、この激しい動きは「痛み」としても検出されます。腸は激しく動くにしてもずっと動き続けるわけではなく、激しく動いては休み、激しく動いては休み、を繰り返します。それに伴って、痛みも強くなったり弱くなったりを繰り返すのです。
このように、内臓が激しくうごいたり、あるいは消化管が詰まってしまってどれだけ動いても内容物が流れなくなって消化管の中の圧力が高くなってしまったりしたときに感じるのが内臓痛なのです。
神経障害性疼痛
3番目の痛みが、神経障害性疼痛です。
これは、痛みを伝える神経が障害を受けたり、修復されたりするときに感じる痛みです。痛みの特徴としては「ジンジン」「ビリビリ」といった表現がなされる痛みです。
よく言われるものとしては、正座をした後の痺れがこの神経障害性疼痛のもっとも軽いものになります。正座をすると、下肢の神経が圧迫され、一時的に麻痺します。それによって神経が痛んでいるという信号が脳に送られ、痛みとして感知します。
神経障害性疼痛は、前述の通り、神経が修復される際にも痛みが生じます。そのため、修復が続く間の長期間にわたって痛みが続く事も稀ではありません。
痛み止めの種類
痛み止めは大きく分けて3種類に分かれます。その3種類とはNSAIDs(エヌセイズと読みます)と呼ばれる薬、アセトアミノフェン、医療用麻薬です。医療用麻薬は市販ではありませんので、この記事では取り扱いません。
NSAIDsとアセトアミノフェンは、それぞれ特徴が全く違い、効果のある痛みもそれぞれ異なります。それぞれどのような特徴があるのか解説しましょう。
NSAIDs
NSAIDsとは、非ステロイド性抗炎症薬の英語の略称です。炎症を抑える薬のうち、ステロイド系と呼ばれる薬ではない薬全般を指します。
NSAIDsには多くの種類がありますが、全てに共通するのは炎症を抑える薬だという事です。前述しましたが、炎症が起こると白血球が集まってきて化学物質を放出し、その化学物質によって熱を持って腫れて、さらに疼痛閾値が低下することで触っただけでも痛みを感じるのでした。NSAIDsはこの中でも化学物質の放出を抑える薬です。それによって、炎症に伴っておこる発熱や腫れ、疼痛閾値の低下を抑えます。
ですので、NSAIDsは感染症によって熱が出ている場合の解熱薬としても使用されます。そして、炎症が関わる痛みに対しても効果を発揮するのです。
炎症が関わる痛みと言えば、そう、体性痛ですね。ですので、皮膚が痛い、筋肉が痛い、骨が痛いといった痛みに対して非常に強い効果を示します。また、頭痛も、多くは頭を包む筋肉が痛んで炎症を起こしているか、脳を包んでいる膜が痛んで炎症を起こしているかですので、頭痛薬としても効果を発揮します。
NSAIDsに分類される薬としてはイブプロフェン、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ボルタレンなどがあります。よく使われる薬ですので、名前だけでも聞いたことがあると言う方もいらっしゃるのではないでしょうか。それぞれ効果を発揮する対象となる化学物質が異なるため強さに差がありますが、おもだった作用は同じです。
NSAIDsの特徴は、その効果の早さと確実性です。内服で使用されたことがある方は、痛みが内服して10分程度ですーっと引いていくのを実感されていると思います。内服して吸収されるとすぐに炎症が起こっている場所で効果を発揮し、炎症を抑えます。
また、疼痛閾値の低下をすぐに改善させるので、少し動かしたり優しく触ったりするぐらいでは痛みを感じないようになるのです。
ただし、欠点がないわけではありません。炎症を抑えるためにNSAIDsが作用を抑える化学物質は、胃粘膜を保護する成分を分泌する刺激を伝える化学物質でもあります。ですので、NSAIDsを長期に内服すると胃粘膜が保護されず、痛んできてしまいます。そのため、長期使用で胃痛が出てきますし、胃粘膜障害が既にある人には使用できません。
また、腎機能を低下させることも分かっていますので、腎機能が元々悪い人にも使用は推奨されません。
さらに、妊娠中の使用は絶対にダメです。NSAIDsによって抑えられてしまう物質は、胎児の循環を維持するために必要な物質でもあります。NSAIDsを妊婦が使用してしまうと、胎児に移行し、その物質を阻害してしまう結果、胎児の循環が異常となってしまい最悪の場合胎児が死んでしまうことになるのです。
アセトアミノフェン
痛み止めとしてはマイナーな方ですが、非常に有用な薬です。
NSAIDsが炎症を強く抑える痛み止めだったのに対し、アセトアミノフェンは炎症を抑える効果はわずかです。しかし、アセトアミノフェンは面白い薬で、体の様々な場所にあるいたみを検知したり、痛みを和らげたりする検知器に作用して、痛みを感じにくくしてくれます。
その作用はそれぞれをみると小さい作用なのですが、20以上の作用があると言われ、それらのちいさな作用が集まることで鎮痛効果を発揮します。また、痛みの根本を抑えにかかる痛み止めではなく、痛みを感じにくくする痛み止めですので、体性痛だけではなく内臓痛の痛みにも対応可能な痛み止めなのです。
これらの作用は、体の元々の活動を阻害するような作用ではありませんので、アセトアミノフェンの使用に伴う副作用はほとんどありません。非常に安全な薬と言えます。そのため、妊娠中や小児など、NSAIDsが使用できない場合によく使用されます。
しかし、少量ではなかなか効果を発揮してくれません。実はアセトアミノフェンは血液中で一定の濃度以上ある場合に効果が強く発揮されるという特徴を持っています。そのため、必要な量を定期的に使用して血液中の濃度を安定させることで効果を最大限に発揮することができるという特徴があります。
以前までは医療用でも上限量がかなり低く設定されており、また血中濃度を維持した方が効果的という事があまり知られていなかったため、痛い時に飲んでもなかなか効果を発揮してくれない「安全だけど弱い鎮痛薬」という印象が医療関係者の中でもありました。と言うより今でもそのような誤解がまかり通っています。しかし近年、医療用は投与上限量が大きく引き上げられました。それによりアセトアミノフェンの有用性が見直され、使用頻度が急増しています。
その他の鎮痛薬
市販薬のいわゆる“痛み止め”は、ほぼ全てがNSAIDsかアセトアミノフェンを使用したものです。しかし、製品毎に違うのは、鎮痛補助薬として鎮痛薬の効果を増強するための成分を配合している場合があり、この成分の違いが製品の違いとなっているのです。
アリルイソプロピルアセチル尿素や無水カフェインといった成分が配合されているものが多いのですが、これらは単独でも鎮痛効果をごくわずかに発揮します。また、NSAIDsと併用することで、NSAIDsが炎症部分に作用しやすくするする効果を発揮してくれるため、鎮痛効果を増強してくれます。
また、近年注目されているのがマグネシウムです。マグネシウムは腸の蠕動や子宮の収縮など、内臓痛の原因となるような内臓の運動を和らげる効果があるために鎮痛効果を発揮していると考えられてきました。確かにそのような機序もあるのですが、マグネシウム自体にも鎮痛作用があると言うことが近年分かってきたのです。特に頭痛に対しては良い効果を発揮するため、マグネシウムを配合した頭痛薬も市販されるようになってきました。
痛み止めの強さ・効果を比較~どの薬を選べばいいの?~
では、実際に痛みがある時にどのように痛み止めを選べば良いのでしょうか。順にみていきましょう。
NSAIDsがいいのか、アセトアミノフェンがいいのか
先ずはご自身の痛みと持病を考えましょう。
特に胃が痛い、腎臓が悪いと言われている、妊娠している、小児であると言う場合には、その時点でアセトアミノフェンを主成分とした痛み止めを使用する様にしましょう。
そうでなければ、自分自身の痛みが体性痛なのか内臓痛なのかを考えます。体性痛であればNSAIDsの方が強い効果を実感できるはずです。一方で、内臓痛であればNSAIDsの効果はあまり感じにくく、アセトアミノフェンの方がいい効果を実感できるでしょう。
NSAIDsの中での強さの違い
前述の通り、NSAIDsにもイブプロフェン、ボルタレン、ロキソニンなどの種類があります。他の種類は稀ですので、この3種類の中でどれが強いのかを考えていきましょう。
オールラウンダーなのはイブプロフェンです。副作用はややよわいですが、NSAIDsとして十分な働きをしてくれます。痛みがあるけど、我慢できなくはない、でも薬を飲みたい、という時に使用すると良いでしょう。
ボルタレンは、特に筋肉や骨の痛みであるときの体性痛に効果を発揮します。これらの痛みの時にはボルタレンが主成分のものを選びましょう。
ロキソプロフェンは、副作用は強めですが、鎮痛薬としての効果が非常に強い薬です。痛みが我慢できないほど強い時に選ぶのがお勧めです。効果発現も早いですから、非常にクリアカットな効果を実感できるはずです。
他の成分にも注目
前述の通り、鎮痛補助薬としてアリルイソプロピルアセチル尿素や無水カフェインといった成分が配合されているものは、痛み止めとしての効果は強くなります。しかし、カフェインと言えば眠気を抑える効果がありますから、睡眠障害がある場合には使いづらいと言う事には注意しましょう。
また、頭痛や内臓痛が関わる痛みの場合には、マグネシウム配合のものが効果的と考えられます。現在のところマグネシウムが配合されている薬は市販のものでは一部の頭痛薬だけですが、頭痛以外にも使用して効果が感じられる場合があります。
鎮痛薬に配合される成分としては、他に胃粘膜を保護するための成分が含まれているものも多くあります。このような点に注目して薬を選ぶと、自分に合った薬が見つかると思われます。
まとめ
今回は痛み止めの種類と効果について、麻酔科医の郷 正憲先生にお話しを伺いました。
市販の痛み止めは大きく分けてNSAIDsとアセトアミノフェンの2種類があります。
- 痛みの種類(体性痛か内臓痛か)
- 体の状態や持病
- 痛みの程度
などをふまえて、ご自身に合った痛み止めを選ぶようにしましょう。