メディコレNEWS|【医師監修】前立腺がんが疑われる症状とは?
執筆医師:平澤 陽介(東京医科大学病院)
北海道大学医学部医学科卒。日本泌尿器科学会専門医/指導医・日本内分泌学会専門医などの資格を保有。
前立腺がんは近年増加傾向で、もともと黒人、白人に発症頻度が高く、アメリカでは男性の罹患数1位、死亡数は2位でした。
日本でも高齢化、食事の欧米化、PSA検査の普及、前立腺MRI検査の発展、生検方法の進化などにより、罹患数は右肩上がりとなっています。前立腺がん罹患数は2020-2024年には年平均で105,800人となり、日本においても男性の罹患数1位のがんとなりました1)。
死亡数も2020-2024年には年平均14,700人となり、2000年の約1.8倍になると予測されています1)。
もしかして自分も前立腺がんでは?前立腺がんではどういった症状が出るのか?いまの自分のこの症状は前立腺がんが原因では?そういった心配を待たれる方も少なくありません。
今回は泌尿器科医の平澤 陽介先生に「前立腺がんの症状」について教えていただきます。
前立腺がんの症状の種類とその特徴
前立腺がんの症状を理解するうえで、まずは①早期がん→②進行がん→③転移を有する前立腺がんというフェーズ毎に整理する必要があります。
早期がん
①の早期がんでは実は特有の症状はほとんどありません。
早期がんとして発見するには「PSA」という血液を2ccほど採取することにより分かる前立腺がんの腫瘍マーカーを測定することが必要です。そこで基準値以上の方は泌尿器科を受診し、前立腺MRI検査を受けて、組織生検を受ける必要があるかどうか調べる必要があります。
ただし、①の早期がんであっても、前立腺肥大症を併発することも実臨床では多く、その場合は前立腺肥大症の症状である排尿困難(尿が出にくい)、頻尿(何回もトイレにいく)、残尿感(排尿したのにまだ残っている感じ)、排尿切迫感(トイレに行きたくて我慢できない)、夜間頻尿(夜中に排尿で目が覚める)などの症状を自覚することはあります。
進行がん
②進行がんでは、前立腺組織は前立腺肥大症のように大きくなります。ただし肥大症と異なり組織が石のように硬くなるため、排尿困難、頻尿、特に尿閉(尿が自力で出なくなる)といった症状が強く出現することもあります。
また進行がんでは尿や精液に血が混じる、排尿時に痛みがでるといった症状も出現することがあります。
転移を有する前立腺がん
③転移を有する前立腺がんでは、主に骨に転移することが多く、骨痛が出現することがあります。また骨転移が進行すると最終的に転移巣が脊髄(神経)を圧迫して、両下肢麻痺にまで至ってしまう方も出てきます。
その他、リンパ節や肺、肝臓への転移も来しますが、転移巣がよほど進行しないと症状としては出現しづらいです。骨への転移による骨痛が重要な症状になりますが、早期がんのうちは症状に乏しく、自覚症状が出たころにはがんが進行している場合が多いので、症状が出現する前にPSA検査を受けることが大事です。
前立腺がんの症状が出た場合の適切な対処法
前述のように前立腺肥大症を併発している場合や、進行がんの場合には前立腺肥大症と類似した症状が出現するため、対処法も前立腺肥大症に類似します。
具体的には排尿をサポートするためにα1ブロッカーを用いた薬物療法を行います。頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿に対しては抗コリン薬やβ3刺激薬などを用います。
尿閉にまで至ってしまった場合は尿道カテーテルの留置や自己導尿が必要になります。
転移を有する前立腺がんの対処法
骨転移による骨痛、腰痛がある場合には疼痛コントロールを目的とした薬物治療を行います。痛みの原因が局所的な骨転移である場合に、緩和的放射線治療が適応になる場合があります。その疼痛緩和率は60-90%程度と報告され、生活の質(QOL)の改善に繋がる可能性があります2)。
また転移巣による神経の圧排による神経痛やしびれに対して緩和的放射線治療を行い症状が緩和することもあります。骨転移による腰痛に対して整形外科による評価・原因特定、コルセット作成以外にも、評価の結果が緩和的放射線治療の適応に参考になることがあります。
このように転移を有する前立腺がんの症状は時に対処が難しく、緩和ケアチームによる痛みの評価や疼痛コントロール、転移巣に対する整形外科や放射線科の評価・治療介入など、泌尿器科にとどまらず複数の科による総合力も問われますので、主治医の先生とよく相談して治療方針を決めていく必要があります。
無症状でも前立腺がんの可能性はある?
前述のように前立腺がんの中でも早期がんは無症状のことがむしろ多いです。
他のがん種全般にも当てはまりますが、症状の出現を待つのではなく、無症状のうちから自発的に健診や人間ドックを定期的に受診して、早期がんのうちに発見しにいくことが重要です。
幸い、前立腺がんに対してはPSAという非常に優れた腫瘍マーカーが存在するため、50歳を過ぎたら、もしくは40歳代でも親が前立腺がんという家族歴がある方は、少なくとも1年に1回のPSA検査を定期的に行うことをお勧めします。
前立腺がんは早期に発見できれば、他のがん種と比較してそこまで怖いがんではありません。多種多様の治療法が存在し、根治を十分に目指せるがんです。
しかし、症状がすでに出ている進行がんや、特に転移を有する転移性前立腺癌(ステージⅣ)の場合には、他のがん種と同様に治療が困難になり、命に関わってしまう事も少なくありません。無症状だからこそ、一度PSA採血を行ってみてください。
参考文献:
1) 大島明ほか がん・統計白書
2) Rich SE, Chow R, Raman S, Liang Zeng K, Lutz S, Lam H, Silva MF, Chow E. Update of the systematic review of palliative radiation therapy fractionation for bone metastases. Radiother Oncol. 2018 Mar;126(3):547-557.
まとめ
今回は前立腺がんの症状について、泌尿器科医の平澤 陽介先生にお話しを伺いました。
- 早期がんは特有の症状はほとんどない
- 進行がんは排尿困難、頻尿、尿閉などの症状が強く出現することがある
- 転移を有する前立腺がんは骨転移による骨痛が出現することがある
前立腺がんは早期に発見できれば、根治が十分に目指せるがんです。
無症状のうちから、定期的に健診や人間ドックを受診するようにしましょう。