【医師執筆】前立腺がんの検査方法や手順について詳しく解説

2023.09.12

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執筆医師:平澤 陽介(東京医科大学病院)
北海道大学医学部医学科卒。日本泌尿器科学会専門医/指導医・日本内分泌学会専門医などの資格を保有。

前立腺がんの患者数は1999年には18,000人程度でしたが、2020~2024年(年平均)には105,800人となり、男性がんのうち、第一番目の罹患数になると予測されています。

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また前立腺がん死亡数は、2020~2024年(年平均)には14,700人となり、2000年の約1.8倍になると予測されています。

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前立腺がんの増加の背景には、日本の高齢化、食事の欧米化、PSA検診の増加、MRI検査の進化、組織生検方法の進化など、複数の要因が影響していると考えられています。

前立腺がんの罹患数は50歳を超えると急激に増加してきます。早期に発見するためには定期的なPSA検査の受診が有効です。

グラフ, ヒストグラム

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今回は泌尿器科医の平澤 陽介先生に「前立腺がんの検査」について教えていただきます。

健康診断での前立腺がん検査

健康診断ではPSA検査を受けることができます。PSA検査とは、前立腺がんのスクリーニング検査のひとつで、血液検査をするだけですので、非常に簡便に行うことが可能です。

PSA検査を受けることで、前立腺がんで死亡するリスク、前立腺がんが転移して進行してしまうリスクを明確に低下させることが信頼性の高い大規模な調査で明確に証明されています。

PSAの基準値

PSA値が高くなるにつれ、前立腺がんである確率も高くなりますが、年齢によって基準値が設定されています。ただしPSA値が高い=前立腺がんというわけではありません。それを見極めるためには専門である泌尿器科を受診して、後述するようなさらなる精密検査を受ける必要があります。

父親が前立腺がんであった場合は自分も前立腺がんに罹患する可能性が2倍以上高まります。また若年発症といって、通常は50歳を過ぎてから急激に前立腺がんが増加するのですが、こういった家族歴(遺伝要因)がある方は40歳代から罹患することがあるので注意が必要です。家族歴(遺伝要因)がある方は特に40歳から年に1回はPSA検査を定期的に受けることを推奨します。

年齢基準値PSA値
P1.0ng/mL以下1.1ng/mL~基準値基準値以上
50~643.0ng/mL以下3年に1度検査1年に1度検査専門医受診
65~693.5ng/mL以下3年に1度検査1年に1度検査専門医受診
70~4.0ng/mL以下3年に1度検査1年に1度検査専門医受診
図:年齢階層別基準値による前立腺がん検診のお勧め

前立腺がんの検査方法や手順について

前立腺がんの検査方法はとてもシンプルです。まずは健康診断・人間ドック・かかりつけ医による①PSA検査(血液検査)から全てはスタートします。
ここで基準値以上の場合は泌尿器科へ紹介されます。その後、②前立腺MRI検査→③前立腺組織生検という流れになることが一般的です。

前立腺MRI検査

泌尿器科を受診すると、まずは多くの施設で②前立腺MRI検査が予定されます。昨今のMRI検査機器の進化と、前立腺がんのリスクをスコア化するPI-RADSスコアが世界標準になりつつあり、MRIである程度は前立腺がんかどうかが判断できます

ただし、MRIがない施設だと当然この検査を受けられないですし、もしMRI検査を受けられたとしても、PI-RADSスコアはスコアをつける放射線科医とそれを確認する泌尿器科医の能力に多少なりとも影響は受けることは留意してください。

PI-RADSスコアとは

PI-RADSスコアは簡単に説明しますと、スコア1-2点はがんの可能性が低い、スコア3はグレーゾーン、スコア4-5はMRI上前立腺がんが疑われる、となります。
スコア4と5は迷わず次の③前立腺組織生検へ向かうことがほとんどだと思います。特にスコア5は局所に進行しはじめている予後の悪いがんの可能性があり、なるべく早く生検で確定診断をつけて、治療にすすむ事が望ましいと考えます。

スコア3は組織生検をしてもがんが検出されない場合も多いですが、白黒をはっきりさせるという意味で、組織生検まで進むこともあり、患者様ご本人と主治医との相談により決まります。

スコア1と2は組織生検までは進まずに引き続きPSA定期フォローになることがほとんどですが、もちろん組織生検を受けてはいけないという意味ではありません。正確に白黒をはっきりさせたければ組織生検を受けることも一考だとは思いますので、主治医の先生とよく相談してください。

MRI検査を受けられない場合は?

MRI検査を受けられない場合はいきなり組織生検へ向かうことや、古典的な直腸診という検査を受けます。直腸診も大事な検査ですが、直腸側にがん組織が局在しない場合は見落としにつながる可能性があり注意が必要です。

エコー検査でもある程度わかることはありますが、精度はMRI検査と比較するとかなり落ちます。

このように①PSA検査(血液検査)→②前立腺MRI検査→③前立腺組織検査の大まかな流れを押さえておけばOKです。どこまで次のステップは進むかは主治医の泌尿器科の先生とよく相談してください。

前立腺組織検査

前立腺組織検査はいわゆる針生検と言われ、外来にて局所麻酔薬で行う施設や、入院して手術室で腰椎麻酔をかけて行う施設などあります。

外来でやる場合は局所麻酔のため多少痛みが強いですが、入院費用を抑えられたり、入院しないので仕事を休まなくていいなどメリットもあります。

生検方法の種類①12か所程度の定型的針生検

生検方法は少しずつ変化しています。古典的な①12か所程度の定型的針生検は昔から行われているやり方で、等間隔に12か所程度組織をとる方法です。
簡便な一方で、MRI検査にてある程度は前立腺がんの局在が分かるような現在の時代では少し精度の落ちる方法にはなります。

生検方法の種類②Saturation生検

次に出てきたのが②Saturation生検です。Saturationとは「飽和的な」という意味で、簡単に言うと万遍なくたくさん組織をとる、という意味です。がんの採取漏れが起こらないように平均で25-30か所、前立腺が大きい方では40-50か所とることもありえます。
①の古典的生検よりはがんの見落としが少なくなりますが、術後の出血、尿閉のリスク、感染のリスクは少し高くなると思います。

生検方法の種類③Fusion生検

そして、最も新しいやり方として、③Fusion生検があります。これはMRI画像を生検で用いるエコー画像にFusion(融合)させて行うやり方です。ここまでMRI画像とその評価方法(PI-RADSスコア)が進化してきたので、それを使わない手はないのではないか、という考え方です。

これは機器の進化により実際に行うとその精度の高さに泌尿器科医も驚かされます。正確にがんが疑わしい箇所をピンポイントで取れるので、組織を採る本数も15か所程度で、②のSaturation生検よりも大幅に減らすことができますし、①の古典的な12か所生検よりも精度は明確に上がると思います。

ただし、熟練した泌尿器科医が行えば①の古典的生検でも怪しい場所を2-3か所追加しますし、②Saturation生検でも頭の中でMRI画像をエコー画像とFusionして行うため、③のFusion生検と同等の精度が担保されますので、一概に全てのケースで③が優れているという訳ではないのは留意が必要です。

検査の際に注意すべきポイント

検査の際に注意すべきポイントはまずは前述のようにMRI検査が受けられるかどうか?その次は組織診断をする場合にどういった方法が取られるのか?です。

MRI検査は閉所恐怖症でなければ身体的負担をほとんど伴わない検査ですので、PSA値が基準値以上の場合は積極的に受けましょう。

組織検査は前述のようにFusion生検が受けられるのであればベストだと思いますが、Fusion生検が受けられる施設はいまでも限られていますのと、前述のように施行する泌尿科医が熟練であれば、わざわざFusion生検を受けなくても同等の精度が得られると思いますので、こだわる必要はないかもしれません。あくまでもし受けられるのであれば、程度に考えておきましょう。

検査には入院が必要?

外来(局所麻酔)でやるのか、入院して手術室(腰椎麻酔)で行うかは注意すべきポイントかもしれません。

入院して腰椎麻酔の場合は生検施行中に痛みが全くないので、検査の侵襲や痛みに対する不安を軽減するには適していると思います。ただし入院も2-3泊必要になり、当然費用も多少は大きくなります。

外来生検は局所麻酔を用いますが、除痛効果は限定的でそれなりに痛みを感じることも多くなります。ただし施設によっては入院が不要であったり、必要であっても1泊程度と、スケジュール面や費用の面でメリットもあります。

検査や痛みに対する不安も主治医からよく説明を受けることで和らぐことも多いです。どちらが自分に向いているかは主治医の泌尿器科の先生とよく相談して決めてください。

まとめ

検査の際に注意すべき最大のポイントは全てのスタートとなるPSA検査(血液検査)を受けることです。

家族歴がある方は40歳から、ない方は遅くとも50歳から年に1回でいいですから、健康診断や人間ドックでこの腫瘍マーカーを測定してみてください。また、かかりつけの先生がいれば、泌尿科医でなくてもお願いすればただの血液検査なので簡単に測定してくれます。前立腺がんは早期に見つけてしまえば、十分に完治を目指せるがんですし、他のがんと比較しても進行が遅く、過度に恐れる必要はないがんです。ところが発見時に局所に進行してしまってたり、転移をすでにしてしまった状態で発見された場合は他のがんと同様に治療が簡単ではなくなります。

前立腺がんは罹患数が男性1位です。自分は関係ないと思わずに、まずはこの簡単なPSA検査から始めてみてください。