前立腺がんの原因は?リスクを高める生活習慣を解説

2023.09.12

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執筆医師:平澤 陽介(東京医科大学病院)
北海道大学医学部医学科卒。日本泌尿器科学会専門医/指導医・日本内分泌学会専門医などの資格を保有。

前立腺がんは、前立腺細胞の正常な細胞増殖機能が失われ、不規則に自己増殖することで起こるとされていますが、その正確な原因はいまだに明らかになっていません。しかし原因不明である一方で、前立腺がんのリスク因子は明らかになっており、それを理解することが重要です。

そこで今回は泌尿器科医の平澤 陽介先生に「前立腺がんの原因」について教えていただきます。

前立腺がんの主な原因とそのメカニズム

前立腺がんのはっきりした原因はいまだ明らかになっていません。しかし前立腺がんのリスク因子として、遺伝(家族歴)・食生活(肥満)・加齢などがあることが分かっています

日本は高齢化が進み、食事が欧米化(肥満が増加)したため、前立腺がんも増加の一途をたどっています。ここでは前立腺がんのリスクを高める因子や生活習慣、その改善方法について解説していきます。

前立腺がんになるリスクを高める生活習慣や遺伝的要因

前立腺がんのリスクを高める後天的要素と先天的要素として、「肥満」と「遺伝(家族歴)」の二つをしっかりとおさえることが重要です。ここではそれぞれについてさらに詳しく解説していきます。

前立腺がんと肥満

肥満は前立腺がんを語るうえで重要な生活習慣のキーワードの一つです。日本でもBMIが高いほど(肥満であるほど)前立腺がんの罹患率が上昇し1)、成人後の体重増加が著しいほど発がんのリスクが高まったと報告されています2)

食事が欧米化し、栄養過多の時代になった日本でも、肥満は前立腺がんが増加し続けている原因の一つになっています。一方で、糖尿病は前立腺がんの発生リスクをむしろ低下させると報告されています3)
糖尿病を有する男性の前立腺がん発生リスクは26%減少したとの報告もあります4)
その他、高脂血症や高血圧などもリスクを増加させるという報告があるものの、相反する報告も多く、結論は一定していません。

前立腺がんと遺伝

遺伝(家族歴)に関しては前立腺がんの罹患リスクを大きく高めると言われています。

自分の父親が前立腺がんであった場合に、自分も罹患するリスクは家族歴が無い人と比較すると、約2.5倍罹患しやすいと報告されています5)。また自分の兄弟が前立腺がんであった場合は約3.4倍とさらにリスクが高いと言われています5)

前立腺がんは高齢化にともなって増加する疾患であり、多くの方は60-70歳代で発見されることが多いです。しかし家族歴がある場合は若年発症といって、比較若い40-50歳代から前立腺がんが発見されることも少なくないのが特徴です。つまり、遺伝リスク(家族歴)がある方は、40歳になったら、年に1回くらいは血液検査を受けて、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAを測定することをお勧めします。

前立腺がん予防のための生活習慣の改善方法や注意点

前立腺がんの予防のためには、リスク因子となる生活習慣を改善していくことが大切です。ここでは、肥満・喫煙・食事の3つの生活習慣について、改善方法や注意点を解説していきます。

肥満の解消

前立腺がんのリスクを高める重要なキーワードとして「肥満」が挙げられましたが、前立腺がんの予防で大事なのはこの逆になります。つまり運動と食生活を改善して「肥満を解消する」ことです。

88,294人を対象とした大規模研究では、運動によって前立腺がんのリスクが平均で10%低下したと報告され6)、特に20-45歳、45-65歳においてリスクを有意に低下させました。これはつまるところなるべく早くから運動療法で肥満を解消することの重要性を示していると考えられます。

禁煙

「喫煙」に関しては21,579人を対象としたコホート研究において、喫煙本数、喫煙年数が多い男性ほど前立腺がんのリスクが上昇すると報告されています7)。ただし相反する報告も多く、「肥満」ほど因果関係がはっきりしない面もあります。

一方で、「喫煙」は前立腺がんだけでなく、舌がん、食道がん、肺がん、膀胱がんなどの他のがんのリスクを著しく高める生活習慣ですので、結局のところいますぐにも「禁煙」することをお勧めします。

食生活の改善

食事に関しては前述のとおり、肥満を解消する方向にもっていくことが重要です。高脂肪、高コレステロールの食事を避け、栄養バランスのとれた食生活を心がけると良いでしょう。

魚に多く含まれるDHAやEPA、大豆のイソフラボン、コーヒーや緑茶に含まれるカフェイン、トマトに含まれるリコペンなどが前立腺がんのリスクを低下される、逆にカルシウムや乳製品の取り過ぎは前立腺がんのリスクを高めるという報告もありますが、相反する報告もあり、いまだに一定の見解を得られていません8)

参考文献:
1) Masuda H, Kagawa M, Kawakami S, et al. Body mass index influences prostate cancer risk at biopsy in Japanese men. Int J Urol. 2013;20:701-7.
2) Mori M, Masumori N, Fukuta F, et al. Weight gain and family history of prostate or breast cancers as risk factors for prostate cancer:results of a case-control study in Japan. Asian Pac J Cancer Prev. 2011;12:743-7.
3) Fall K, Garmo H, Gudbjörnsdottir S, et al. Diabetes mellitus and prostate cancer risk;a nationwide case-control study within PCBaSe Sweden. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2013;22:1102-9.
4) Tsilidis KK, Allen NE, Appleby PN, et al. Diabetes mellitus and risk of prostate cancer in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition. Int J Cancer. 2015;136:372-81.
5) Johns LE, Houlston RS. A systematic review and meta-analysis of familial prostate cancer risk. BJU Int. 2003;91:789-94
6) Liu Y, Hu F, Li D, et al. Does physical activity reduce the risk of prostate cancer? A systematic review and meta-analysis. Eur Urol. 2011;60:1029-44.
7) Huncharek M, Haddock KS, Reid R, et al. Smoking as a risk factor for prostate cancer:a meta-analysis of 24 prospective cohort studies. Am J Public Health. 2010;100:693-701.
8) 前立腺癌診療ガイドライン2016年版 日本泌尿器科学会編

メディコレNEWS編集部まとめ

前立腺がんのはっきりとした原因はいまだ明らかになっていません。しかし前立腺がんのリスクを高める要因として遺伝(家族歴)・食生活(肥満)・加齢などがあることが分かっています。

肥満の解消や禁煙、食生活の改善などに取り組み、リスク要因を取り除くようにしましょう。

また50歳以降(家族歴のある方は40歳以降)は年に1度、前立腺がん検診でPSA検査を受けることも重要です。