つらいスギ花粉症の症状への新たな治療戦略 ~舌下免疫療法による体質改善~

2023.09.12

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執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

2023年の春はスギ花粉の飛散量が例年に比べて相当多いため、1月下旬ころから花粉症症状が発生した方もおりました。例年と比べて症状が強いために受診されたスギ花粉症の患者数も増加傾向にあります。

これに加えて、花粉症の発症も低年齢化する傾向があること、また昨今の国会でスギ花粉症の治療・予防としてスギの木の伐採促進、舌下免疫の予防治療についても注目されております。
診療報酬の観点からも、2022年より「アレルギー性鼻炎免疫療法治療管理料」という項目を、舌下免疫治療を行う患者さんに保険診療で算定ができるようになったことからも、厚生労働省がこの舌下免疫治療の効果を認め促進していることがうかがえます。

そこで今回は武井 智昭先生に「スギ花粉症の新たな治療」について教えていただきます。

スギ花粉の舌下免疫治療とは

舌下免疫療法の適応は、スギ花粉(季節性)・ダニ(通年性)によるアレルギー性鼻炎が対象となります。

アレルギーの原因物質となるアレルゲンを、薬として毎日舌下より投与して、前述のアレルゲンに対する免疫を作ります。それにより過剰な生体反応であるアレルギー症状を生じさせない、あるいは弱くして生活に支障をなくす(ゴールとしては症状が出た時の薬の量を減らす)効果が期待できます。

舌下免疫療法は、スギ花粉が飛散する時期で処方されるアレルギー症状緩和の内服薬・点眼薬・点鼻薬など1ヶ月から2ヶ月程度の症状を緩和する治療とは異なり、長期間ではあるもののゴールがあるアレルギーの治療」という位置づけとなります。

従来の免疫療法は、アレルゲンの注射によるものであり、週1回以上の通院や注射という侵襲的なものであるためデメリットが多く、負担が高いため普及はされておりませんでした。しかし日本でも舌下免疫治療が導入されてからは患者さんの負担も減り、おおよそ8割の患者さんが治療の継続・終了による症状改善の効果を実感していると報告があります。

スギ花粉の舌下免疫治療で期待される効果

舌下免疫の治療の効果としては、一言でいうと花粉症の症状の緩和です。

具体的にあげると、水様性の鼻水・鼻づまり・くしゃみの改善、眼のかゆみや涙目、これらの症状による睡眠障害・集中力低下・眠気などの生活レベルの改善、治療薬の減量および中止がメインとなります。

実際のところ、投与開始して1年目の花粉症シーズンで、劇的な症状改善を認める場合も多く効果を実感できる事も多いです。

スギ花粉の舌下免疫の対象となる方

舌下免疫治療の対象年齢は5歳以上、65歳未満の方で、スギ花粉症、またはダニアレルギーによるアレルギー性鼻炎と診断された方です。

これに加えて、月1回の受診が可能である方であり、薬の用法・用量をしっかりと守って、連日の服用可能な方が対象となります。

スギ花粉の舌下免疫治療導入

スギ花粉の舌下免疫療法の開始時期は、スギ花粉が飛散していない6月から遅くとも12月までとなります。

舌下免疫治療は3年以上と長期となるため、この前提として本当にスギ花粉症によるアレルギー性鼻炎かどうか、勇み足にならないためにも事前に血液検査によるスギ花粉症に関しての検査による診断が必要となります。

検査結果の有効性は明確な基準はありませんが、おおむね6ヶ月以内の検査データが必要となります。実際に、スギ花粉によるアレルギー性鼻炎に類似した経過でも、スギ花粉はなく、ハンノキ・シラカンバなどの他花粉症と診断されるケースも少数ながらありました。

治療開始は、医療機関での初回の薬剤投与とアナフィラキシーが生じないための経過観察として30分を必要とします。その後1週間は少量の抗原量を投与してから、投与を増量して1ヶ月後の診察となります。

また、矯正治療など歯科口腔外科で長期的な治療を予定される方は事前に通院している歯科医療機関に問い合わせてみて、舌下免疫治療導入が可能かどうか確認をしたほうがよいでしょう。

舌下免疫治療の副作用

軽度な副作用として最も多いものは、口腔内のかゆみ・違和感・腫れです。治療患者の数%程度にみられ、服用後30分以内に生じることが多いですが、1ヶ月程度で慣れてくることも多いです。

重篤な副作用としてはアナフィラキシー(全身の皮膚の紅潮、息苦しさ)などもあります。このため、副作用発生時の対応を医療機関で事前に確認をしたほうがよいでしょう。

このような副作用を避けるために、服用前後2時間の激しい運動、アルコール摂取は控える必要があります。また、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザウイルス感染症など体調不良時では副作用が生じやすいこともありますので、体調不良時には無理して服用せず、再開のタイミングなどは処方していただいている医療機関の指示を仰いでください。

まとめ

今回はスギ花粉症の新たな治療について、武井 智昭先生にお話しを伺いました。

舌下免疫治療は、辛いスギ花粉の症状に対して、アレルギー反応を生じさせないあるいは弱くする効果が期待できます。

  • 舌下免疫治療は長期(3年以上)にわたる
  • 約8割の患者さんに症状改善の効果がみられた
  • 人によっては1年目から劇的に症状が改善することもある

舌下免疫治療は5歳以上の小児にも行うことができますので、詳しくはお近くの小児科または耳鼻咽喉科にてご相談ください。