4種混合ワクチン、生後2か月からの接種に変更~乳児のワクチン接種について解説~

2023.09.12

  • LINE

執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

2023年4月より、4種混合ワクチンの接種スケジュールが変更になりました。従来は生後3か月から摂取開始でしたが、この度の変更により生後2か月からの接種開始に変更となっています。

今回は武井 智昭先生に「乳児におけるワクチン接種」について教えていただきます。

予防接種(ワクチン)の目的

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、新しいワクチンが開発されたことは記憶に新しいでしょう。ワクチンの目的は特にリスクが高い高齢者や基礎疾患のある方に対して、感染に伴う死亡や重症化予防を行うことです。

ワクチンのなかった1950年以前の日本では、約10万人の方が毎年、麻疹、百日咳、ジフテリア等の重篤な疾患にかかって死亡あるいは重症化しておりました。現時点では、海外から持ち込まれたウイルスなどで一時的な感染はみられるものの、ワクチン接種率浸透した現時点では、これら疾患の流行は見られませんでした。

ワクチンの目的は①個人での防御(重篤な疾患にかからないようにする)、②集団免疫と防御(集団での接種率向上により感染拡大を予防する)ことであり、適切な時期にワクチン接種を済ませておくことが重要です。

乳児の定期接種は特に重要

赤ちゃんは、生後6ヶ月程度までは胎盤を通してお母さんからの病気への免疫を受け継いでいます。ところがこの免疫機能は次第に減少すること、またこの胎盤経由の免疫が不十分な疾患があることなどから、乳児のワクチン接種が行われています。

乳児期は、免疫機能が未熟なため様々な感染症にかかりやすく、かかると重症化するリスクがあります。感染症から赤ちゃんを守るためには、かかる前にワクチン接種を済ませておくことがとても大切です。

特に乳児期にワクチンによって免疫を持ち感染症に備えることは、感染症にかかりやすく重症化しやすい時期の予防ができること、そして乳児期以降のワクチン追加接種によって長く免疫を持続させる観点からも、非常に重要です。

乳児期の定期接種は同時接種が基本

ここ10年で、日本においてはワクチンで予防することが可能な病気(VPD)が増加しました。髄膜炎・敗血症となるヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンを筆頭に、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチンが、現在の4種混合ワクチンに加えて導入となり接種費用を必要としない「定期接種」となりました。

同時接種に抵抗がある親御さんもおりますが、世界各国で20年前から同時接種が実施されている中で副反応・死亡率が増加するなどの健康被害の報告はありません

反対にメリットをあげるとすると、同時接種を行うことによって、乳児期に接種すべき多数のワクチンを効率的かつ定期的なプログラムに沿って実行できることです。3回接種をしないと確実な免疫がつきにくいとされるヒブ、小児用肺炎球菌、ロタウイルス、四種混合(DPT-IPV)ワクチンに関しても、同時接種により早期に2~3回の「初回接種」を終了できます

このように安全性に関しても単独接種と変わらず、ワクチンの効果を乳児早期にかつ最大限に発揮することが世界中で認められているため、同時接種が行われております。

2023年4月より接種スケジュールが変更となったワクチン

4種混合ワクチンは、これまでは生後3ヶ月から開始となっていましたが、2023年4月より生後2か月からの接種に変更となりました

4種混合ワクチンの中でも、百日咳は生後1ヶ月で、母体からの抵抗力(免疫)はほぼ消失してしまいます。百日咳は成人ではごく軽い風邪症状(鼻程度で改善する)のみですが、乳児に感染すると重症化する恐れがあります。

1ヶ月摂取時期を前倒しすることにより、乳児で重症化する傾向のある百日咳患者数を年間100名程度のレベルで減少させる見込みと判断し、4種混合ワクチンが生後2ヶ月から接種開始時期となりました。

4種混合ワクチンとは

4種混合ワクチンは、ジフテリア、破傷風という非常に致死率の高い感染症、以前では経口ワクチンでありましたが罹患すると永続的な麻痺をおこすポリオ、そして罹患することにより肺炎・脳炎などの重篤な疾患を引き起こす可能性があり母からの免疫が十分に受け継がれない経口がある百日咳を予防します。

ジフテリア、破傷風は自然感染では免疫を獲得できず、重症化すると死亡あるいは後遺症を残すことがある疾患です。ポリオは発症すると、手足に回復が難しい永続的な弛緩性の麻痺が残り、外国では流行している国もあります。

百日咳は、はじめは鼻水・咳という風邪症状がメインですが、次第に、呼吸ができないほど繰り返す咳き込みと顔面紅潮を認めます。発熱はありませんが、肺炎・無呼吸発作などの重症化もあり、脳炎などで死亡する例もある疾患です。

2023年からの乳児の定期接種のスケジュールの変化

生後2ヶ月、3ヶ月の接種内容が同じとなること、また生後4ヶ月で初回接種が終了することなど改良されております。

詳しくは以下を参考に、ワクチン接種のスケジュールをたてておきましょう。

  • 生後2か月
    ヒブワクチン1回目、小児用肺炎球菌ワクチン1回目、四種混合ワクチン1回目
    ロタウイルスワクチン1回目、B型肝炎ワクチン1回目

  • 生後3ヶ月
    ヒブワクチン2回目、小児用肺炎球菌ワクチン2回目、四種混合ワクチン2回目
    ロタウイルスワクチン2回目、B型肝炎ワクチン2回目

  • 生後4ヶ月
    ヒブワクチン3回目、小児用肺炎球菌ワクチン3回目、四種混合ワクチン3回目
    ロタウイルスワクチン3回目(ロタテック使用の場合)

  • 生後5ヶ月
    BCG

  • 生後7~8ヶ月
    B型肝炎3回目

まとめ

2023年の4月の法改正で4種混合ワクチンが生後2ヶ月の早期に接種開始となりました。重篤な疾患、特に百日咳の予防が可能となったこと、複数ワクチンの同時接種を行っている日本でも生後2ヶ月と3ヶ月が同じ内容となり間違えが少なくなることなど、実用的な改定であると思われます。

乳児期はワクチン接種において最も重要な時期であり、早期のワクチン終了によりにより予防可能である重篤な感染症から日本の子どもたちを守られる機会が増えることは、素晴らしいことです。