メディコレNEWS|【医師監修】新型コロナの自粛で増えた「心身不調」
執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医
早ければ小学校高学年頃から、また中学生・高校生など若い世代で、朝が起きられず学校を休みがち、腹痛・頭痛、めまい、倦怠感、たちくらみや動悸・・・・など様々な心身の不調を訴える方が増加しています。
これらの心身の不調の原因として甲状腺機能亢進症や副腎皮質機能低下や心疾患なども鑑別する必要がありますが、最も考えられる原因として自律神経失調症による「起立性調節障害(OD)」があります。こういった問題に対処するためには、心と体、そして家庭環境や学校などの環境整備など、丁寧な対応が必要となります。
そこで今回は武井 智昭先生に「起立性調整障害」について教えていただきます。
自律神経失調のメカニズム
自律神経の仕組みは、心臓から脳を含めた血液をコンディションにあわせて各臓器に配分し、神経の働きをコントロールすることです。起床の時には長時間横になって寝ていますから、急激に立ったりすると重力により血液は下半身に移動します。
この時、自律神経のコンディションがよければ交感神経が働き、脳を含めた血流・血圧の維持をするのですが、自律神経がうまく働かないことで、立ちくらみやめまいなどの症状を引き起こします。
起立性調節障害による不登校
起立性調整障害とは、自律神経の機能が何らかの異常をきたしていることによって起こる、立ちくらみやめまい、朝起きられないなどの症状のことです。
中学生から高校生まで、とくに女性では、自律神経のバランスは不安定になる傾向があります。これは、身体機能や精神面の発育が成人へと発育すること、周囲の環境が大きくかわりストレスを受けやすいという状況などから、身体的・精神的・社会的なさまざまなストレスがかかることが原因だと考えられます。
これに加えて、2020年から新型コロナウイルス感染症の流行により、休校、部活動・大会・修学旅行の相次ぐ中止、外出の自粛、マスクの義務化やパーテーション越しの会話、リモート授業などでの対人の交流をする機会が激減し、日常生活のあらゆる変化を余儀なくされました。
こうした「ニュースタンダード」に適応できず、心身の体調が崩れてしまい、朝起きる事が困難となり学校を欠席することが多くなり、受診をするケースも増加しております。朝は調子が悪いが午後から調子が良くなる、頭痛や腹痛、食欲不振、嘔気など多くの訴えが生じることからご家族も悩んでしまいます。これが、心身症の1つである「起立性調節障害」のきっかけとなります。
不登校になったら、まず家族ができること
家族の視点からは、「学校に行きたくないって、ただの仮病?」などと訴えを無下にしてしまうケースも少なくありません。ご両親が育った環境に類似した「精神根性論」を優先させ、気合がたりない、このままでは成績が落ちて進学できない、将来は使い物にならない・・・などという思考で、無理強いをさせることは不登校の解決にはなりません。
「サボり癖」がつき始めているのではないか……などなど。そう思うと、つい「教育的に」強く当たってしまい、さらに本人を追い込んでしまうことが多いです。
朝が起きられない、めまいや立ち眩みがする、動悸がある、こうした症状は点滴的な自律神経失調症のサインであり、心拍数・血圧が安定しない身体的な不調であります。これに加えて、心因的な要素も多数重なってしまいます。
お子さんは、親の顔色を窺って無理をしてしまうこともあります。こうした状況となったら、まずはお子さんの気持ちに寄り添って「何か最近つらそうだね?」などと声かけをして、欠席によるプレッシャーをかけず、家族という安全基地があるという支持的な態度を示して、追い込まないような対応をしてください。
同時に、自律神経失調症が精神的な要素からも生じることをご両親が認識してください。
家庭での対応
まずは、しっかりと休んでコンディションを整えることの重要性をお子さんに理解していただき、十分な睡眠をとってから、就寝時間と起床時間をゆっくりと前倒しにします。
具体的には、最低6時間は就寝をして、1週間で30分程度の睡眠時間・起床時間の前倒しを行います。合わせて3食の栄養バランスがよい食事をとり、調子が良い午後であれば15分から20分程度の外出・散歩による運動習慣での脳への血流の維持、家族・仲がよくストレスを感じない友人とのコミュニケーションをとるようにしてください。
中高生で多いのは、就寝前でのスマートフォンやパソコンの使用です。就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は、ブルーライトが刺激になり睡眠への影響が出ますので控えた方がよいでしょう。
医療機関への受診
上記対応でも改善が見られない場合、あるいは他疾患の合併が心配などであれば、小児科・内科のうち、小児心身症を対応できる医療機関を受診されることをおすすめします。
起立性調節障害を含めた心身症の初診は時間を要しますので、多くは予約制となっております。事前に医療機関に連絡・相談をして予約をとってください。その際には、両親のみではなく必ずお子さんも受診させてください。
まとめ
ここでは、新型コロナウイルス感染症の流行により増加傾向である起立性調節障害の概要と自宅で対応すべき内容を記載しました。
多様な症状に対して自律神経失調症の存在があることを認識し、責める事なく支持的な対応を行いお子さんを心身とも安心されることが最も重要であります。