熱性けいれんとは?けいれん発作時の対応を小児科医が解説

2023.07.06

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執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

発熱など具合が悪いお子さんが、急に白目をむいて顔色が悪くなり、手足を動かすなど、明らかに状態が変わると不安になりパニックになってしまいますよね。心配なので救急車を要請することもしばしば。

今回は武井 智昭先生に「熱性けいれん」について教えていただきます。

熱性けいれんの基本知識

熱性けいれんは、体温上昇による身体のストレスが、脳が未熟であるために生じる「ひきつけ」とされております。特に生後6ヶ月から入学前までに、38℃以上の発熱を認めてから24時間以内に生じることがあります。

この熱性けいれんは日本人などアジア人には、欧米と比べて有病率は10倍程度であり、1割弱の方が経験します。また、家族性もあるため、両親など親族の方が熱性けいれんの既往がある場合には、お子さんにも発症しやすい傾向があります。

この熱成けいれんは、60~70%程度は人生で1回きりですが、残りの30%程度の方は繰り返し発症するため発熱時には慎重な観察が必要です。

熱性けいれんの原因と診断

熱性けいれんは、中枢神経の感染症や炎症などの明らかな病気でないことを否定してつけられる「除外診断」であり、明らかな原因となる病気がないものです。病気のメカニズムが前述の通りに、脳の機能の未熟性での反応であるからです。

このため、熱性けいれんと診断するためには、重篤な疾患である「細菌性髄膜炎」「急性脳症・急性脳炎」「低血糖」「電解質異常(ナトリウム)」「脳腫瘍」などの合併がないことをしっかりと見極める必要があります。

執筆現在(令和5年5月)では、小児の細菌性髄膜炎予防ワクチンが定期接種化され、接種率向上で細菌性髄膜炎は激減しましたが、注意は必要です。その一方で、インフルエンザ感染によるけいれんが、熱性けいれんなのかインフルエンザ脳症なのかは判断が重要になっています。

熱性けいれんの分類

熱性けいれんの分類として「単純型」と「複雑型」があります。

熱性けいれんでは、「単純型」と「複雑型」のどちらに当てはまるかを見極めることが必要となるため、けいれんの持続時間、これまでの発作の回数、けいれんの左右差など、慌てている状況ではありますが、把握できる範囲で医師にお伝えすることが重要です。

単純型熱性けいれんとは

単純型熱性けいれんの特徴は以下の通りです。

  • 発作時間が15分以内
  • 発作後の意識の回復が良好である。
  • 24時間以内に1回しか繰り返さない
  • けいれん発作が左右対称である

「単純型」の熱性けいれんでは予後に問題がないため、上記の特徴に当てはまる場合にはより詳しい検査を要することは少ないです。

複雑型熱性けいれんとは

複雑型熱性けいれんの特徴は以下の通りです。

  • 発作時間が15分以上続くもの(途中で停止時間をはさむ場合も含む)
  • 発作後の意識回復が不良である
  • 24時間以内に2回以上の発作を繰り返す
  • けいれん発作が左右対称である(片側だけが震える)
  • 37.5℃程度の発熱での発作

こちらの複雑型熱性けいれんの場合では、頻度は低いですが将来的には「てんかん」などの発熱がない状態でもけいれんを起こす可能性があるため、症状が安定したら、血液検査・脳波検査・必要に応じて頭部CT・MRIなどの画像検査の精査を要することが多いです。

けいれん発作時の対応

けいれん時には、お子さんの意識はないため、呼びかけに反応はしません。呼吸も止まることが多く顔色も悪くなります
こうした突然の症状となると、両親や家族の方が動揺してしまうことは自然ではあります。けいれん発作が生じた時には、以下の点に注意して適切に対処することが重要であります。

  • 保護者が落ち着く
  • お子さんを平らで安全な場所に移動させる
  • お子さんの衣服を緩めて横向きにする(上を向かせると嘔吐ぶつによる気道閉塞で窒息するため)
  • 発作のパターン、時間を計測する(時間が不安でかなり長く感じられる方も多いです)

けいれん発作が5分以内に改善して、意識が回復する(視点があって、呼びかけに反応する)場合には、けいれんが落ち着いてから医療機関を受診してください。
けいれん発作が5分以上も続く場合、けいれんが治まっても意識や顔色が戻らないなどの場合では救急車を呼んで搬送していただくことが推奨されます。ご両親も救急車にある酸素などの医療デバイスや救急隊員など人がいれば心理的にも安心できます。

また、「けいれんが治まっても意識や顔色が戻らない」、「けいれんを繰り返してしまう」といった場合もすぐに医療機関を受診しましょう。

けいれん発作時には、口の中に指や物を入れないでください。
噛む力は相当強いために、指をちぎられたという親御さんもおりました。また、顔色不良とのことで人工呼吸をしないでください。口腔内などにたまった嘔吐物などが気管に押し込まれ窒息する場合があります。

痙攣予防のためのダイアップについて

前述の複雑型熱性けいれんや、熱性けいれんによる重積発作(30分以上)の場合には、熱性けいれんの予防として、発熱に気が付いた時点で「ダイアップ」という坐薬を、その時点と8時間後の2回1セットでの投与が検討されることもあります。

その適応は、様々な意見がありますが、かかりつけの小児科医にご相談してください。ダイアップ坐薬は、けいれん発作予防であり脳神経の機能を抑制する作用があるため、呼吸抑制・ふらつき・過眠などの副作用にも注意が必要となります。

まとめ

熱性けいれんは、脳の未熟性により生後6ヶ月から6歳くらいまで、38度以上の発熱から24時間以内に生じるけいれんであり、1割弱の方が経験します。

このほとんどは後遺症がなく回復しますが、単純型熱性けいれんのパターン(発作が15分以内、意識の戻りがよい、左右対称など)を理解しておく必要があります。お子さんが突然けいれんを起こすと、ご家族の方は非常に動揺してしまいますが、落ち着いて適切な対処をすることが重要です。