メディコレNEWS|【医師監修】男性更年期障害は治せる?日常生活での改善
執筆医師:平澤 陽介(東京医科大学病院)
北海道大学医学部医学科卒。日本泌尿器科学会専門医/指導医・日本内分泌学会専門医などの資格を保有。
40歳を過ぎた頃から、なんとなく疲れがとれない・イライラする・やる気がでないなどの症状にお悩みの方はいらっしゃいませんか?これらの症状はもしかすると「男性更年期障害」かもしれません。
「年のせいだから」と諦めてしまっている方もいるかもしれませんが、男性更年期障害は適切な治療を受けることで、多くの場合症状の改善が期待できます。
そこで今回は泌尿器科医の平澤 陽介先生に男性更年期障害の治療について教えていただきます。
男性更年期障害は治せる?
男性更年期障害は治せる病気です。男性ホルモン補充療法により70-80%の方は症状の改善を認めます。
効果がない場合でも、心療内科によるカウンセリングや、抗うつ薬や漢方薬の併用などで改善する方も多いです。
男性ホルモン自体は年齢とともに右肩下がりに低下していきますので、男性更年期障害の症状があるのに治療介入を後回しにするのは症状の増悪を招くだけですし、だるさや無気力などを感じながら過ごす日々は時間がもったいないです。
多くの方は治せる病気ですので、お早めに医療機関を受診してみてください。
男性更年期障害の治療方法
治療の原則は、血中テストステロン値を正常化することよりも、いかに症状が改善したかです。血中テストステロン値はあくまで参考程度にとどめます。
また男性更年期障害はしばしば糖尿病や高脂血症、メタボリック症候群など併発していることもあり、その場合には併発疾患の治療も重要となります。
テストステロン補充療法
遊離型テストステロン値が8.5pg/ml未満なら「テストステロン補充療法」を検討します。
補充療法は、経口薬、注射剤、経皮吸収剤と様々ありますが、日本で保険の適応が認められている男性ホルモン治療薬は注射薬(エナルモン)しかありません。
塗り薬や内服薬は保険適応外になり、自己負担となりますので注意が必要です。
エナルモンは注射後に一過性に血中テストステロン濃度が急上昇し、4-7日目ごろに最高血中濃度となり、その後に急激に低下し、次回注射前にはしばらく低値を示すなど、血中濃度の上下動が激しく、低値の期間もあることが欠点とされます。
2週間に1回程度の間隔で注射をしていきます。欧米では連日投与する経皮吸収剤が生理的であり、血中濃度が毎日安定するために好む患者が多いです。
またテストステロン投与と前立腺癌の関係性についても過去に危惧されてきましたが、現在ではテストステロン補充療法によって前立腺癌が発生しやすいとの明確なエビデンスはないとされています。
しかし関係が明確ではないとはいえ、しっかりと腫瘍マーカーであるPSA値をモニタリングすることは重要です。
もし治療中にPSA値が上昇する場合には、テストステロン補充療法は一旦中断し、泌尿器科を受診して前立腺MRI検査や、必要であれば前立腺針生検といった組織検査を検討してください。
漢方薬
人によっては漢方薬が効果を示すことがあります。
「補中益気湯」は主に食欲不振、胃下垂、勃起障害に、「八味地黄丸」は男性更年期障害の不定愁訴、疲れやすい、手足が冷えるなどに、「柴胡加竜骨牡蠣湯」は不安、イライラ、動機などの症状に対して使用されます。
漢方薬は肝機能障害やアレルギー症状が出る場合があるので、医師とよく相談して進めてください。
うつ症状がある場合
また、男性更年期障害が重度の場合に、うつ病など精神症状が出現する場合もあり、その場合はうつ病の治療が優先的になります。うつ症状などがある場合にはまずは心療内科や精神科を受診して、よく相談してください。
うつ病の罹患率は女性が男性の2倍ですが、自殺は男性の方が女性より多い(約2倍程度)と報告されており、抑うつ症状がある場合には、自殺念慮の有無を確認することは重要となります。この場合はテストステロン補充療法だけでは不十分なこともあり、抗うつ薬などを早めに開始する必要があります。
日常生活で気を付けるポイントは?
男性更年期障害を改善もしくは予防するうえで、大事な日常生活の習慣がいくつかあります。ここでは推奨もしくは避けるべき日常生活習慣を解説します。
適度な運動
テストステロンを増加させるために適度な運動はとても有効的です。さらにストレス発散といった精神状態にも良い作用をもたらすので、二重に効果的といえるでしょう。
特に働き盛りの40歳代からは気づくと運動習慣が日々の忙しさに忙殺されて失われていないでしょうか?ランニングやエクササイズがハードル高ければジョギングやウォーキングでもいいです。
有酸素運動はメタボリック症候群も改善させますし、テストステロンの上昇ももたらします。しかし、ランニングや筋肉トレーニングをストイックに過度にやり過ぎると逆効果になることもあり注意が必要です。長続きするような適度な運動習慣を心がけてください。
過度の飲酒は避ける
適度な飲酒は問題ありません。ストレス発散効果もありいいでしょう。しかし過度の飲酒はテストステロンを減少させるので避けてください。
1日の適量は、ビールなら1日500ml、チューハイなら1日350ml、ワインなら1日200ml、日本酒なら1日180ml、焼酎なら1日100ml程度となります。
禁煙する
タバコを吸う習慣がある方は辞めるようにしましょう。タバコは男性更年期障害を悪化させると言われています。
禁煙が難しい場合は、禁煙外来を受診してください。男性更年期障害に関わらず、タバコが健康にいいことはほとんどないでしょう。
質の良い睡眠をとる
睡眠の質も重要です。なぜなら睡眠時にテストステロンの分泌量が増加するからです。
報告によると、睡眠不足が1週間続くと、血中テストステロン値が最大で15%低下すると言われています。
良質な睡眠のために、夕食は就寝の3時間前までには終える、適度な運動をする、深酒はしない、ストレスをためないようにする、そして現代で最も重要なのは就寝30分前からスマホを見ないこと、です。特にスマホをすると脳が活性化されて睡眠を妨げますので、脳を休ませる方向にもっていってください。
食事に気をつける
テストステロン増加に役立つ食物がいくつかあります。玉ねぎ、バナナ、肉、納豆、オクラ、わかめ、レバー、大豆、なめこなどがあげられます。
食事は最も工夫しやすい領域ですので、参考にしてみてください。ただし、どんな食物でも偏りすぎると意味がありません。あくまでもバランスよく栄養素を取りながら、ワンポイントで上記の食材を追加してみてください。
まとめ
今回は泌尿器科医の平澤 陽介先生に男性更年期障害の治療について教えていただきました。
男性更年期障害は、適切な治療を受けることで多くの方で症状の改善が認められます。気になる症状があれば放置せず、一度かかりつけの内科もしくはお近くの泌尿器科で相談してみるようにしましょう。