メディコレNEWS|【医師監修】生理痛に効く痛み止めは?効果的な使い方

2023.08.16

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監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

辛い生理痛の痛みを軽減するために、痛み止めを内服しながら毎月どうにか耐えているという方も多いでしょう。

そもそも生理痛が起こるのはどうしてでしょうか?また辛い生理痛の症状に効果的な薬はどれかご存じでしょうか?

そんな疑問を解決するため、今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「生理痛に効く痛み止め」について教えていただきます。

生理痛とは

生理痛の痛みは個人差が大きく、また特に男性にはあまり理解ができない痛みですので、なかなか痛みについて相談できないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。痛いと言っても、「生理痛ぐらいで」と言われてつらい思いをされたという方もいらっしゃると思います。

では、なぜ生理痛に個人差が出てくるのでしょうか。それには、生理痛が出てくる機序が関わっているのです。

生理痛はどのようにしておこるのか

まず生理はどのようなものなのか整理しておきましょう。

女性は、妊娠をするための機序を持っています。月に一回卵巣から卵子が排出され、受精したら受精卵が子宮に着床し、妊娠が成立します。

しかし着床する際に子宮の内膜が十分発達していなければうまく着床することができません。また、子宮内膜がずっと子宮内腔に存在したままだと劣化してしまい、こちらもうまく着床する事ができなくなってしまいます。

そのため、人の子宮は毎月排卵後に子宮内膜が良い状態になるように維持し、排卵後一定の期間が経った後に子宮内膜が脱落するような仕組みを取っています。

この子宮内膜が脱落して排出されるのが月経(生理)です。

生理をコントロールするのが女性ホルモンです。卵巣から分泌される女性ホルモンは2種類で、それぞれが脳や卵巣自体に刺激を与えることでホルモンの分泌量に周期性を持たせ、またその分泌量に応じて排卵や生理の周期が整います。

子宮内膜を脱落させるためにも、非常に巧妙な構造ができています。人の子宮内膜は、内膜を栄養するために「らせん動脈」という動脈が通っています。その名の通りらせん状の構造をしていて、子宮内膜が成長するに従ってだんだんと引き延ばされ、内膜の成長に合わせて内膜全体がしっかりと栄養されるように血流が維持されています。

しかし、生理の時期になると、女性ホルモンの値の変化によって、このらせん動脈の血流が低下します。血流が低下する事によって組織が虚血となり、機能を失った内膜が剥離して脱落していくのです。

また、子宮自体も収縮します。子宮が収縮することによって動脈が圧迫されて血流が悪くなる事で子宮内膜の脱落を促進するほか、脱落した子宮粘膜が子宮腔内に遺残しないよう押し出す効果も発揮するのです。

生理痛は、これらの機序によっておこってきます。まずは内膜が虚血になったことによっておこってくる痛みです。内臓というのは、血液が途絶えると痛みを感じるようになっています。例えば心筋梗塞は、心臓自体に栄養する血管が詰まってしまうことで心筋が虚血となり、痛みを感じます。同じように内膜が虚血になることで、子宮が内臓として痛みを感じているのです。

このような内臓自体が虚血によって感じる痛みを「内臓痛」といいます。

一方で、子宮の収縮により周囲の靱帯が牽引され生じる痛みもあります。

靱帯にもともと余裕があって緩みがある程度であれば痛みを感じることは少ないですが、ややピンと張った状態の靱帯であったり、靱帯の周囲に癒着があったりすると子宮の収縮で牽引されることで痛みを感じてきます
このような靱帯の牽引に伴う痛みは筋肉や骨が痛んでいるときの痛みと同じように、「体性痛」という痛みに分類されます。

生理痛に個人差がある理由

生理痛に個人差が出てくる理由ですが、まだ完全に解明はされていません。現在言われているのは以下の2つの理由です。

まず1つ目は、内臓痛に対する感受性に個人差が大きいという理由です。

子宮に限らず様々な内臓が機能不全によって内臓痛を発します。しかし、同じような痛み方をしているはずなのに痛みとして感じるのには個人差が大きいです。

そのため、子宮内膜の虚血という内臓痛に対しても個人個人で感じ方が大きく異なるのではないかと言われています。

もう1つは、人によって靱帯の状態の差があるという理由です。

前述のように靱帯の張り方や周囲の癒着の程度によって牽引される程度が変わってきます。そのため、そのような状態の違いが生理痛の違いに影響してくるのではないかということが言われています。

実際、同じ個人であっても出産を契機に生理痛がひどくなった、逆に弱くなったといった事を聞きます。出産によって子宮が一度大きくなって、その後収縮したことによって靱帯の状態が変化し、痛み方が変わったからではないかと考えられているのです。

なお、生理痛は、子宮が収縮するときに起こってくる痛みです。女性ホルモンの分泌量に応じて生理前にイライラしたり、排卵時の痛みが強くなったりといった症状を訴える方も出てきます。

ホルモンの分泌量の変化によって心因性におこる痛みも生理の前後には起こってくるため、その痛みも生理痛と含める場合もありますが、実際の生理に伴う痛みではありません。

痛み止めは効かないことも多く、やや対応が困難な痛みになります。

生理痛に効く痛み止めはどれ?

薬局に行くと、生理痛に対して効果がある薬剤が多く売られています。

たくさん種類があって非常に迷うと思うのですが、実は軸となる有効成分は3種類しかありません。しかも、そのうち2種類は同じ系統の薬剤です。

順を追って解説しましょう。

軸となる有効成分① NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェン)

NSAIDsとは、非ステロイド性抗炎症薬の略です。痛みが起こっている場所でおこっている炎症を鎮めることで鎮痛効果を発揮します。

痛みが起こっている場所で炎症が起こる痛みとは、例えば体の表面の傷や、靱帯が引っ張られる事によっておこってくる痛みで、「体性痛」となります。

生理痛については、先ほど出てきたように子宮の収縮に伴って靱帯が引っ張られる痛みがこの体性痛になりますから、NSAIDsはこれらの痛みに対して効果的です。

一方で、子宮内膜の虚血による痛みは内臓痛で、NSAIDsも効果が無いわけでは無いですが不十分といえます。

もともとの生理痛が、靱帯が引っ張られる事による痛みが中心の人にはNSAIDsだけの薬剤でも効果が十分ですが、内臓痛が中心となっている人にとっては、効果は今ひとつ感じられないこともあります。

NSAIDsは腎機能が悪い場合や胃粘膜障害がある場合には、使用によって状態が悪くなってしまうため内服を避けましょう。

また、妊娠中は禁忌となりますから、生理痛と思われるけれども妊娠している可能性もあり、念のために妊娠中と同じ内服注意をしておきたいと言う場合にも内服を避けるべきとなります。

ロキソプロフェンとイブプロフェンを比較すると、ロキソプロフェンの方が強い効果を発揮します。ロキソプロフェンが主な成分となっている製剤は、「ロキソニン」という商品で売られています。よく見かけられるでしょう。

他の鎮痛薬のほとんどはイブプロフェンを基本としています。

そして製品毎の違いは、他に付加されている鎮痛補助成分や副作用を抑える成分の有無になります。自分自身の元々の体調や、生理痛の強さ、内服期間によって必要な成分が付加されているものを選ぶといいでしょう。

なお、体性痛の薬は頭痛薬としても使用できます。頭痛も多くが体性痛だからです。

軸となる有効成分② アセトアミノフェン

アセトアミノフェンはジョンソンエンドジョンソンが発売している「タイレノールA」や、シオノギヘルスケアの「新セデス」、ライオンの「バファリンルナJ」など、一部の商品では単剤として発売されています。それ以外には、前述のNSAIDsに加えて同時に配合される商品が多く発売されています。

アセトアミノフェンはNSAIDsとは全く違う機序で働く薬です。ですので、併用してもかまいません。

アセトアミノフェンの作用機序は多くあります。

弱い抗炎症作用もありますが、それ以外に中枢神経の痛みを感じる部位を抑制したり、痛みの伝達をよわめたりといった作用があり、複合して痛みを抑えてくれます。

そのため、体性痛にも弱く効果を認めますが、それ以上に内臓痛に対する痛み止めとして重用されます

生理痛は前述の通り、体性痛も内臓痛も関わってきますから、アセトアミノフェンは最適なのです。

副作用は非常に少なく、大量に摂取した際に肝障害がおこってきますが、常用量ではまず問題はありません。

一方で、血中濃度がある一定以上保たれないと効果が出ないという欠点があります。ですので、痛みが出てから内服しても血中濃度が上昇するまでには時間がかかります。だいたい40分程度経たないと効果が出ませんので、強い痛みがある際にはなかなか効かないと言った印象を持たれてしまいます。

しかし、副作用が少ないため内服回数が増えてもさほど影響がありません。そのため、定期的な内服が勧められます。

生理痛の薬が効かないときはどうする?

前述のように、生理痛の薬は様々な成分が配合されています。しかし多くの生理痛の薬はNSAIDsのみが主要成分として配合されているので、どうしても内臓痛が抑えきれず、それで痛みを感じてしまう人が多いのです。

また、アセトアミノフェンが一緒に配合されていても、分量が少ないことが多いです。アセトアミノフェンは体重によって上限投与量が決まっていますから、どうしても薬局で売る薬で安全性を考慮すると少なめに配合せざるを得ません。

また、NSAIDsの方はあまり内服回数を増やしたくありませんから、痛い時に飲む頓用使用となってしまい、アセトアミノフェンの血中濃度が上がりにくく、効果が不十分となってしまいます。

ですので、生理痛にお困りの方へはアセトアミノフェンとNSAIDsを別々に内服する事をお勧めしています。

まず、アセトアミノフェンのみの製剤を定期的に内服しましょう。その上で、痛みが強いときにNSAIDsを中心とした製剤を加えるのです。

このとき、NSAIDsにはアセトアミノフェンが配合されていないものを選びましょう。アセトアミノフェン配合のものを選んでしまうと、定期内服しているアセトアミノフェンと合わさって過量になってしまう可能性があります。

生理痛で病院を受診する目安は?

生理痛が強くて市販薬でもなかなか収まらず、困っている方もいらっしゃるでしょう。でも生理痛ぐらいで産婦人科を受診しても良いものか、なかなか悩まれているのではないでしょうか。

結論から言うと、我慢できないぐらい強い生理痛であれば、むしろ生理痛があるのであれば、産婦人科を受診してもかまわないと思います。

市販の痛み止めは安全性第一でどうしても痛み止めの成分が少なくなっています。ですので、医師に痛み止めを処方してもらうのが良いです。

また、痛みそのものをコントロールするという考え方もできます。ピルの内服は最も推奨される方法です。

もちろん妊娠を現在は希望しないという前提ではありますが、ピルを内服することで生理のタイミングを調節できるというだけではなく、子宮内膜の成長をある程度抑える事ができますから、生理痛を可能な限り弱くすることができます。

また、同時に様々な検査ができる事も強みです。ごく稀に、強い生理痛の影に子宮内膜症や種々の病気が隠れている場合もあります

一度は産婦人科を受診して、診てもらっておくと良いでしょう。

メディコレNEWS編集部まとめ

生理痛による痛みは「内臓痛」と「体性痛」の2種類があります。

それぞれの痛みに対しては、効果的な薬が異なりますので、まずは自分の痛みが内臓痛なのか、それとも体性痛なのかを見極めることが重要です。

また我慢できない痛みがある場合や、市販薬で治まらない痛みがあるという場合は、子宮内膜症や他の病気が隠れている可能性もあるため、一度産婦人科を受診するようにしましょう。