【医師執筆】夏期に流行する手足口病とは、症状や治療について解説

2023.08.10

  • LINE

執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

手足口病とは、日本においては例年7月から8月の夏期に流行する、名前の通りに手・足と口に水疱ができるウイルス感染症です。口腔内に水疱と発熱を伴うヘルパンギーナという疾患と同様に、手足口病は「エンテロウイルス・コクサッキーウイルス」というウイルス感染が原因で発症します。

手足口病は5歳未満のお子さんでの発症が多くみられますが、成人でも感染する場合もあります。

今回は小児科医の武井 智昭先生に「手足口病」について教えていただきます。

夏期に流行する子供の感染症

この10年ほど、夏期には「手足口病」の他、前述の「ヘルパンギーナ」と、アデノウイルス感染症であります「咽頭結膜熱(プール熱)」が流行する傾向があります。

これら3つの感染症をあわせて「こどもの三大夏風邪」と呼ばれることがあります。

今回はこの中の「手足口病」について詳しく解説していきます。

手足口病の症状

手足口病は経口感染などが主体であり、潜伏期間は3〜6日とされております。

子供の多くでは発熱を伴い、水ぶくれ(水疱)が口(頬)の粘膜、足の裏、足の甲、手のひらに生じます

発熱はおおよそ1〜3日間ほど続き、その後1週間程度で水ぶくれ(水疱)が改善していきます。発疹はかゆみがないことが多いです。

頻度は低いですが、手足口病にかかってから、1ヶ月後程度に手足の爪がはがれることがあります(爪甲脱落症)。このほとんどは後遺症として残らず、新しい爪が生えてきます。

手足口病の治療

手足口病に対する特効薬(抗ウイルス薬)はないため、基本的には症状を抑えるための対症療法となります。

例えば口内炎に対しては、外用薬の塗布や鎮痛薬の内服が行われます。またのどの痛みを抑えるための内服薬を投与する場合が多いです。

手足口病のホームケア

口の中にできた水疱がつぶれて、痛みが生じることで食事・飲水ができなくなる場合があります。

夏期の暑い時期もあり脱水症状が懸念されるため、冷めたスープ、牛乳、麦茶などの少し冷たい飲料を少しずつ摂取するのがおすすめです。オレンジジュースなどは刺激があるため、極力避けるようにしましょう。

また、口の中での食物が刺激にならないように、豆腐やプリン、ゼリー、そうめんなど、のどごしが良く噛む必要が少ないものをあげるようにしてください。

手足口病の診断の後、尿量が少なく8時間でていない、顔色が悪い、反応が弱い、手足が冷たい場合には脱水症状が疑われるため、この場合には速やかに医療機関を受診してください。

手足口病の合併症

手足口病の合併症としては、頻度は少ないですが、無菌性髄膜炎、心筋炎、脳炎などが生じる場合があります。

その理由としては、腸の中で増殖した手足口病のウイルスが、体内の血流に入り、特に脳(中枢神経系)や髄膜に到達・増殖することにより、無菌性髄膜炎、脳炎を生じる可能性があります。特に、重症化するとされている、エンテロウィル(EV71型)での流行があった年には髄膜炎による入院も多かったので注意が必要です。

無菌性髄膜炎とは

手足口病のウイルス感染による髄膜炎は、死亡・後遺症の割合が高い細菌性髄膜炎とは異なる、「無菌性髄膜炎」に分類されます。

主な症状としては発熱が持続して、頭痛や首の痛み、嘔吐の3つが挙げられます。

医療機関では、首の後ろが髄膜の刺激で痛くなる項部硬直、ケルニッヒ兆候と呼ばれる下肢を曲げ伸ばしで首の痛みが生じる診察で、髄膜炎の存在を疑います。

この場合には経口摂取もできないため脱水を伴っており、基本的には入院をして髄液検査を行って診断をしていきます。

手足口病による無菌性髄膜炎の場合には、後遺症を残すことはまれであり、予後はおおむね良好であります。

手足口病の予防

手足口病のウイルスの感染経路は、経口感染、飛沫感染などがあります。

このため、新型コロナウイルス感染症の時と同様に手洗い・うがい・マスクなどの基本的な感染予防がまずは重要です。

また手足口病のウイルスは、感染すると症状がなくなった方でも2~4週間と長期にわたり、便に排泄されます。このため、おむつやトイレに関しても慎重に感染源とならないよう配慮が必要です。

手足口病のウイルスは、通常のアルコール消毒薬や加熱による抵抗力が高い「ノンエンベロープウイルス」として分類されています。

そのためノンエンベロープウイルスにも消毒効果が高い「酸性アルコール消毒剤」の使用が推奨されます。

手足口病を予防するワクチンは、現時点ではまだ開発されておりません

このため、基本的な感染対策がもっと重要ではありますが、睡眠・栄養・腸のコンディションなどを整え、基本的な免疫機能を高めることも重要であります。

まとめ

今回は小児科医の武井 智昭先生に「手足口病」について教えていただきました。

手足口病はウイルス感染症であり、5歳以下の乳幼児での発症が多くみられます。名前の通り手・足・口に水疱(水ぶくれ)ができるという特徴があり、多くの場合発熱を伴います。

手足口病に対する特効薬はないため、治療は症状を抑えるための対症療法が基本となります。

口の中の水疱がつぶれると痛みが生じ、飲食ができなくなる場合があります。そのため脱水症状には十分注意をし、冷たい飲み物や飲み込みやすい食べ物などを少量ずつ摂取することを心がけましょう。