【医師執筆】ペインクリニックで行う腰痛治療とは

2023.08.18

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監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

日本人の自覚症状で最も多いといわれている腰痛。腰痛はさまざまな原因によって発生し、その治療方法も多岐にわたります。

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「ペインクリニックでの腰痛治療」について教えていただきます。

腰痛の治療はペインクリニックでできる?

ペインクリニックは痛みを治療する専門の診療科です。

他の診療科が病気の原因を治療するのに対してペインクリニックでは原因がはっきりしなかったり、原因があったとしても原因が治療した後に残る痛みを治療するための専門的な診療科になります。

腰痛と言うとやはり腰の痛みということでまず診療科としては整形外科を選択される方が多いでしょう。

確かに整形外科も腰の専門家として腰痛の原因を色々と探し、治療が可能なものに対しては治療を行うことになりますが、腰痛はそこまで簡単なものではありません。
ではどのような理由で腰痛は難しいものとなっているのでしょうか。

腰にはどのようなものがある?

腰痛がおこってくる原因としては様々なものがあります。というのは腰には様々な構造物があり、しかも体の中でも、最も多くの種類の力が加わる場所だからです。

腰にあるものを色々と考えてみましょう。まず一番大きな屋台骨となるのが、その名の通り、「腰椎」です。

腰椎は縦に連なり、頭から胸や腰に至るような体の重要な臓器や構造物を支える役割が与えられています。それだけ多くのものを支えていますから腰には非常に強い圧迫する力がかかってきます。

一方で腰が重いものを支えるからと言って頑丈な構造をしてしまうと腰を動かすことができなくなってしまいます。そのため腰は前後左右に動きやすく、さらにねじる運動ができるように完全に固定されていないような構造をしています。

その構造を支えているのが脊椎のカーブです。

脊椎は首、胸、腰、骨盤と縦に連なっていますがそれぞれがカーブをすることによって力をうまく分散しつつ柔軟に動けるような構造になっています。例えば首は頸椎が前方に凸の構造をしています。一方で胸は胸椎が後方に凸、腰椎は前方に凸、骨盤部では後方に凸の構造をしています。

もちろんカーブするだけではバランスが取れませんので、そのカーブを支える靱帯や筋肉の構造があります。靱帯は骨と骨が外れないようにがっちりと固定をしています。一方で筋肉は脊椎を支えながらも柔軟に動けるように非常に大きな筋肉が脊椎の周りにはついています。

このように脊椎の周りを支える筋肉の中で、後ろ側で構造を維持しているのが「脊柱起立筋」と呼ばれる筋肉です。

脊柱起立筋というのは一つの筋肉ではなく、複数の筋肉を複合して呼ぶ筋肉になります。それぞれがそれぞれの働きをすることで脊柱がしっかりと支えられているだけではなく、柔軟にいろいろな方向に動けるようにできているのです。

ちなみに焼肉でよく見るサーロインはこの脊柱起立筋のうちの一つである最長筋の部分になります。非常に歯ごたえがあって強い筋肉ということがわかるでしょう。

腰痛はどのようにしておこる?

このように様々な構造物から成る腰ですが、痛みはどのようにして起こってくるのでしょうか。物が色々あるだけに痛みも様々な理由で起こってきます。

例えば脊椎の中には「脊髄」という神経の大きな束があります。脊椎がずれたり、脊椎のあたりにある構造物が歪んで神経を圧迫するなど、様々な理由でこの神経が圧迫されると、それだけで痛みを感じてきます。

病名としては腰椎分離症や、椎間板ヘルニアなどの脊柱管狭窄症がこの痛みの原因となってきます。

このように明らかに脊髄が圧迫されている場合には痛み止めだけで対処することは難しく理学療法や手術が選択されることになってきます。手術をするとなると整形外科が専門分野となってきます。

一方で、筋肉自体や筋肉を包む筋膜が痛んでいる場合には手術や理学療法で直すのはなかなか難しくなってきます。このような時になかなか整形外科的にはアプローチがしづらく、ペインクリニックの出番がやってきます。

筋膜が痛むという風に説明しましたが、筋膜自体が痛んでいるということもありますが、筋膜と筋膜が癒着することによって、体を動かすと他の筋肉の収縮に伴って筋膜が引っ張られてしまい痛みを感じるという機序もあります。

ペインクリニックでの腰痛治療について

では実際にペインクリニックではどのようにして腰痛を診療していくのでしょうか。痛みの原因別に考えていきましょう。

原因を調べる

腰痛は様々な原因で起こるため、まずはどのような原因で腰痛が起こっているのかを解明することが必要です。

そのためにはどのような時に痛みが起こるのか、どのような痛みなのかといった痛みの情報をまずは聴取します。

例えば腰を曲げた時に痛いのか、それとも伸ばした時に痛いのかという情報によって痛みが起こっているのが脊椎の前なのかそれとも後ろなのかというところを鑑別していきます。もちろん、ひねった時に痛みが起こるのであれば左右差があるはずですから、左右どちらが原因かというものを調べていきます。

痛みについても、触ると痛いのか、それとも触らなくても痛いのか、腰の奥の方が痛いのかそれとも表面の方が痛いのか。表面が痛いのであれば、皮膚には何か異常がないのかといったことを調べていきます。

さらに聞いただけではなく、実際に体を動かしてみて、どのような時に痛みが生じてくるのかを調べていきます。

このような診察を繰り返すことで、痛みの原因となる場所や原因自体を調べていきます。

もちろんそれに加えて、レントゲンやMRIなどの画像検査を行っていくことになります。ただしこの辺りに関してはペインクリニックではなく整形外科で行うことがほとんどです。

筋膜が痛みの原因である場合

腰椎分離症や、椎間板ヘルニアなどの脊柱管狭窄症が原因と分かった場合には、整形外科のテリトリーになることがほとんどです。理学療法で治療を進めるのかそれとも手術が必要になるのかを判断し、必要に応じて治療を行っていきます。

しかし手術をしても、痛みが残る場合があります。それは神経自体がすでに損傷を受けていて、その痛みが残っている場合です。神経は損傷を受けると、それ自体でも痛みを感じますが、神経が修復される間にも痛みを感じてしまいます。これを「神経障害性疼痛」と言います。

神経障害性疼痛はなかなか痛みとしては難しい痛みになります。痛み止めはなかなか効きにくいですし、神経が治るまで痛みが続きます。さらに神経というのはなかなか治らない特徴があり、場合によっては一生痛みが続くようなこともあります。

そのような時にペインクリニックは非常に有効となってきます。ペインクリニックの得意な分野の1つが神経障害性疼痛だからです。

具体的には傷んでいる神経が痛みを感じないように神経ブロックを行います。

神経ブロックというのは、局所麻酔によって神経を麻痺させて、痛みを一時的に感じなくさせることです。もちろん一時的なものですから局所麻酔薬の効果が切れてしまうと、痛みを感じてしまいます。しかし何回も繰り返すことによって痛み自体はだんだんと感じなくなってきます。

神経ブロック以外にも内服薬でも神経障害性疼痛に対する治療を行っていきます。一般的な痛み止めはなかなか効果がありませんが、てんかんの治療薬や一部の抗うつ薬などが神経障害性疼痛に対しては有効とされており、治療に利用されます。

もちろんこれらは神経の圧迫が解除されていることが前提です。神経が圧迫されているままにこの治療を行っても、神経がどんどん痛めつけられるだけですから痛みは治まってきません。整形外科と連携をしながら治療を行っていきます。

筋膜が痛みの原因である場合

筋膜が痛みの原因である場合、トリガーポイント注射という治療が行われます。

これは痛みが起こっている場所に注射をすることで、筋膜と筋膜が剥がれて先ほど説明したような筋膜が引っ張られるような状況をなくすることで痛みを抑えるという治療です。この時にする薬は局所麻酔である時もありますが、単なる生理食塩水を使用するという場合もあります。

一般に背中の筋肉は先ほど説明したように、非常に長い範囲にわたって走行していますから1か所だけが痛いということはなかなかありません。そのためトリガーポイント注射も上から下まで何箇所も行うというのが効果的になってきます。

これも1回の治療で効果があればありがたいのですが剥がれた筋膜と筋膜もしばらくすればまたくっついてくることがよくあります。そのため、2週間に1度など繰り返し痛み止めをしていくことになります。治療を繰り返しているうちにだんだんと癒着しにくくなり、痛みが起こりにくくなってくるのです.

まとめ

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「ペインクリニックでの腰痛治療」について教えていただきました。

ペインクリニックでは様々な腰痛に対して治療を行っています。腰痛でお困りの方は一度相談されてみてはいかがでしょうか。