うつ病と痛みの関係とは、ペインクリニックでの治療

2023.08.23

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監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

うつ病は精神的な症状の他、体のさまざまな部位の痛みといった症状があらわれることがあります。

一方で、慢性的な痛みが続くことで、うつ病などの精神疾患を引き起こすこともあります。

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「ペインクリニックでのうつ病治療」について教えていただきます。

うつ病と痛みの関係

一昔前までは痛みというのは体の異常で、痛みを治療するということは身体的なアプローチをすることだけに主眼が置かれていました。

しかし近年の考え方では、精神的な状態が痛みの強さにも関わるだけではなく、痛みがあるかないかということも精神的な原因で起こっていることがあると考えられています。

もちろん身体的な異常があって痛みがあるのであれば、治療を行って痛みを抑えていく必要がありますが、痛みがあること自体が精神に影響して、さらに痛みが強くなってくるということもありますから、早い段階から精神的なアプローチをして痛みを治療していくという考え方が広がっています。

つまり痛みというものに対して、身体的なアプローチ、そして精神的なアプローチ両方を行っていくというのが基本的な考え方になります。

精神的な原因で起こる痛み

具体的に痛みの種類について考えてみましょう。

痛みというのは今何かが体に起こって急激に痛みが起こる「急性痛」というものと、なんだか痛いという状態がずっと続く「慢性疼痛」という状態の2つに主に分けられます。

正確に言うと急性疼痛というのは6ヶ月未満の痛みのことを言いますが、この痛みについてはほとんどが身体的な原因で起こってくるものです。

一方で慢性疼痛というのは6ヶ月以上持続するものですが、この場合身体的要素はあまり関係なく精神的な原因で起こってくるというのが基本的な考え方です。

もちろん慢性疼痛の初期も精神的なものが関わっていますので、だんだんと身体的異常から精神的異常に置き換わってくるという風に考えるのが自然でしょう。

この精神的な異常については、具体的にうつ病という病名がつけられることもあります。痛みのせいでうつ病を発症してそのせいで痛みが続いていくということもありますし、うつ病であることによって、ごくわずかな痛みが強い痛みとして慢性的に続くということもあります。

いずれにしてもうつ病によって痛みが続くということが少なくないということは確かです。

痛みの種類についてもある程度統一された見解はあります。特に肩こりや腰痛など、背中にあるような痛みは慢性痛になりやすくうつ病患者によく起こってくると言われています。

これには痛みを感じる精神的な理由だけではなく、うつ病患者ではやや前かがみの姿勢になることが多いということも関わっていると言われています。

またストレスが強くかかっていると体の特定の部分に血流が悪くなってしまいそのせいで痛みがひどくなってしまうという風な病理学的な理由も説明されています。

他にもストレス自体で自律神経系や内分泌系、免疫系など、体には様々な影響がかかってきます。それらの影響が痛みという形で表面上に出てくるという理由もあるのです。

ペインクリニックでのうつ病治療について

では具体的にペインクリニックでは、どのように心理的なアプローチをしているのでしょうか。

まず慢性痛があるという状況に対して、生活にどのような支障があるのかということを詳細に聴取します。その中で、痛みのせいで生活ができないような要因が強いと心理的なストレスはかなり大きくなりますので、心理的なアプローチをしていく必要性がぐんと上がってきます。

特に、痛みがどのように生活に影響しているのかと言う事は聴取することが重要になります。このことは、ペインクリニックの医師が状況を把握するだけではなく、患者様側としても現在痛みがどのように影響しているのかを頭の中で整理する事になりますから、状態が改善する目標というものをはっきりさせることができるのです。

このような聴取の後、痛みの原因が心理的なものであると説明をすることによって、それだけで痛みが改善する場合が非常に多くあります。

痛みが心理的なもので、身体的なものでは無いと言うことを理解するという事自体が治療の効果があるのです。

そのうえで、様々なアプローチによって心理的な治療に踏み込んでいきます。

カウンセリング・薬物療法

まず最初に行うのが、うつ病に対するカウンセリングと薬物療法です。

はどのような状態だと痛みが少ないのかと言った、認知と行動にアプローチする認知行動的アプローチを行う他、心身医学的アプローチと言うアプローチも併用していきます。

薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬などを使用していきます。特に一部の抗うつ薬は、神経障害性疼痛の痛みそのものを和らげるという効果もあり、うつの治療と一挙両得と行ったばかりに使用されます。

身体的アプローチ

心理的なアプローチとともに、身体的なアプローチも行います。これは身体的な痛みを抑えるという目的の他、“治療をしている”という実感を得ることで心理的な負担を軽くするという意味もあります。

身体的なアプローチでよく行われるのが理学療法的アプローチです。星状神経節といって首の辺りにある神経の塊の辺りを暖める事によって血流を良くし、自律神経系や内分泌系の改善を図り、血流が良くなるようにすることで痛みを改善します。

神経ブロックも同様に、星状神経節に対して行う場合があります。目的は同じように血流の改善です。

まとめ

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に「ペインクリニックでのうつ病治療」について教えていただきました。

ペインクリニックでは、様々なアプローチで痛みに対して対処してきます。

気の沈みとともに痛みがある、あるいは痛みのせいで気が沈むなど、痛みと心理的な症状がどちらもあるような場合は迷わずペインクリニックの受診をお勧めします。