【医師執筆】神経痛の特徴や主な病気の種類について解説

2023.09.26

  • LINE

監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

ペインクリニックで治療する代表的な症状の一つに「神経痛」があります。

神経痛とはどのような痛みなのでしょうか。また神経痛にはどのような種類があるのでしょうか。

そんな疑問を解決するため、麻酔科医の郷 正憲先生に詳しく教えていただきます。

神経痛とは どんな痛み?

以前テレビCMで、 有名な俳優さんが神経障害性疼痛についてしゃべっていました。「ビリビリ、ジンジン」といった痛みを神経障害性疼痛かもしれませんといって紹介していたので、覚えていらっしゃる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

神経障害性疼痛は、そのようにビリビリ、ジンジンする痛みです。よく、正座をした後に足に感じるしびれのような痛みとも表現されます。

神経障害性疼痛というと、何らかの外傷によって神経が傷つけられて痛みが起こってくると言うイメージがあるかもしれません。確かにそのような場合に痛みが起こってくる事はもちろんあるのですが、その他の原因で痛みが出てくることも様々にあります。

例えば、糖尿病です。糖尿病は血中の糖分が高くなってしまう結果、細い血管がダメージを受けてしまい血流が悪くなってしまうことで全身の様々な場所に影響が出てきます。特に末梢神経を栄養する血管は細いですから、糖尿病に長期罹患すると末梢神経がダメージを受け、ビリビリとした痛みを感じてくるようになります。

他にも「三叉神経痛」といって顔面に痛みを感じる痛みや、「帯状疱疹後神経痛」といって帯状疱疹に罹患した後に神経痛が残る場合もあります。

更にやっかいなことに、原因が特に分からないのに痛みを感じる場合もあります。複合性局所疼痛症候群という病気は、原因がはっきりしないか、原因があったとしても痛みに不釣り合いなほど微細な外傷である場合に起こってくる痛みです。

このように、神経障害性疼痛は様々な原因で起こってくるのです。

では、そもそも神経障害性疼痛はどのように起こってくるのでしょうか。

神経痛はなぜ起こる?

まず痛みと言うものの分類について簡単に触れておきましょう。痛みと言うのはおもに体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛の3つに分かれます。

体性痛とは

体性痛というのは筋肉や骨、皮膚などの痛みです。もともとこれらの組織には痛みを感じるセンサーがあります。ある一定以上の力がセンサーに加わったときに痛みを感じるのが基本的な痛みの機序になります。

また、そのような痛みに加えて、これらの組織が損傷を受けたときに組織を修復をしようと身体は様々な反応を起こしますが、この反応によってセンサーが過敏になることが主要な痛みの原因になります。普通では触っても痛みと感じない程度の刺激でも、痛いと感じてしまう状態を言います。切り傷や擦り傷ができたときに、触っただけでも痛みを感じるようになるのはこの機序です。

内臓痛とは

一方で内臓痛は内臓が感じる痛みです。とはいえ、内臓は傷ついても痛むことはあまりありません。内臓痛が検知されるのは、内臓が正常に動けなくなったときです。例えば内臓に至る動脈が詰まってしまって内臓が虚血になった場合や、腸が詰まって便の通過が悪くなり、腸が異常に蠕動して動かそうとしたときに痛みを感じます。

これらの痛みは、センサーによって感知されますが、その感知した情報を伝えるのが神経です。

神経障害性疼痛とは

神経についても簡単に説明しておきましょう。

神経というのは細い線維というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、その正体は細胞の一部が細長く変化したものです。神経細胞自体は脊髄や脳などに存在し、そこから伸ばした神経が伝えてくる情報を検知し、他の細胞へと情報を更に伝えます。

身体の各部分にあるセンサーが検知した痛みの情報を伝えるのが末梢神経です。末梢神経は脊髄に細胞の本体が有り、そこからセンサーに神経が伸びています。

そして、脳に細胞本体が存在するのが中枢神経で、脳にある細胞から脊髄へと神経の線維が伸びています。

神経障害性疼痛は、これらの神経のどこかでダメージがあることで起こってくる痛みです。神経自体は非常に長いものですから、その経路上どこかで損傷を受けるだけで、神経の領域全体に痛みを感じる事があります。

例えば、例で出てきたように正座の時の痛みを考えてみましょう。正座をしたときに痛む神経は坐骨神経と言って、足の後ろ側を走っている太く長い神経です。その神経が、足の付け根の辺りで圧迫される事でだんだんとダメージが蓄積してきて痛みとして感じるようになってきます。

神経細胞からすると、神経から伝わってくる情報がおかしいために痛みが起こっているという事は検知できますが、神経のどこでダメージが起こっているのかという事を検知することはできません。そのため、神経が走っている領域全てに何らかの異常があると検知して、神経が走行している範囲全てで痛みを感じるようになってしまっているのです。

非常にやっかいな神経痛

 神経痛は他の痛みに比べて非常にやっかいな痛みと言えます。それは、痛み止めも効かない、神経痛は治りにくく長期間にわたる、さらにはどんどん痛みが増してくる事もあるためです。

神経痛は痛み止めが効きにくい

まず、前述の通り、痛みを感じる範囲が広いという問題があります。神経が支配している領域全てで痛みを感じますから、不快感は相当なものです。

そして、神経痛の痛みに対しては痛み止めが効きにくいのです。

体性痛や内臓痛は、痛みの原因となる部分に効果のある薬を利用する事で、痛みのセンサー自体が作動しにくくすることで痛みを抑えることができます。ロキソニンなど代表的な痛み止めは体性痛の原因となる筋肉や骨にあるセンサーを鈍感にすることで痛みを抑えます。

しかし、神経障害性疼痛は神経そのものが刺激を受けて反応している状態ですので、そのような痛み止めは効果がありません。さらに、痛みが非常に鋭敏で鋭い痛みになりますから、脳に痛みを感じにくくするような薬を使用してもなかなか急峻な鋭い痛みを抑える事はできず、痛みを抑える事に難渋するのです。

神経痛は治りにくい

さらに問題になるのが、神経障害性疼痛の経過です。

神経障害性疼痛は神経に何らかの異常があると起こってくると説明しました。実際、神経が圧迫されたり、傷ついたりしたときに起こるのはもちろんなのですが、神経が治ろうとするときにも痛みを感じるのです。

そしてやっかいなことに、神経が治るのには非常に時間がかかります

神経は神経細胞から伸びている細胞の一部と説明しましたが、神経が修復される時には細胞の方からそのための材料や修復の指示がいちいち送られるようになっています。そのため、神経の末端になればなるほど材料はなかなか届かず、修復にかかる時間も非常に長いものとなるのです。

さらにそれだけ遠い部分での神経修復となると時間がかかりますが、その間に他の損傷した神経と誤って繋がれることもあります。違う神経に繋がってしまうと、それ自体が異常なことと検知されてしまいます。修復しなおしという事が起こる訳ではありませんから、ずっと異常を伝え続ける事になるため、痛みがずっと続く事になります。

中枢神経による下行抑制系の抑制

長期間痛みが続くともっとやっかいなことが起こってきます。それが中枢神経による下行抑制系の抑制という現象です。何のことか分からないと思いますので、詳しく解説しましょう。

じつは元々、人は痛みを非常に強く感じる事ができるようになっています。それこそ触っただけでも痛みを感じる事ができるほど、痛みのセンサーは鋭敏にできているのです。痛みと言うのは身体に対する侵襲のセンサーですから、鋭敏であればあるほど安全ということを反映しています。

しかし、常にそれだけ鋭敏であると日常生活に支障が出てきます。風が吹くだけで痛みを感じていては、全く動く事もできなくなってしまいます。そこで登場するのが下行抑制系です。

下行抑制系というのは、脳に備わっている機能です。痛みが末梢で検知され、脊髄に伝えられ、脊髄から脳に伝えられるという経路において、脳から脊髄に対してあまり過敏に反応しすぎないように、という命令を出しているのです。それによって、少しの刺激では痛みと感じず、触っただけと感じる事ができるようになっているのです。

しかし、痛みの刺激が続くと、脳がこれは異常事態だと判断してより感覚を研ぎ澄ますようになります。具体的には下行抑制系を抑える事で、感覚が鋭敏になるようになるのです。これが下行抑制系の抑制です。

下行抑制系の抑制が起こってしまうと、神経は敏感に反応してしまうことになります。それによって、神経痛はビリビリジンジンとした痛みが非常に強くなるだけではなく、熱を強く感じるようになり非常に熱いという感覚を生じることもあります。このような熱感を灼熱通と表現する事もあります。

神経痛にはどのような種類がある?

神経痛にはどのようなものがあるのでしょうか。簡単に説明しましょう。

脊柱管狭窄症

脊髄は非常に重要な組織ですから、丸腰で生活をするわけにはいきません。そのため、脊椎で周りを囲まれる非常に頑丈な枠の中に収まっています。この枠のことを「脊柱管」と言います。

脊柱管狭窄症は、何らかの理由でこの脊柱管が狭窄してしまうことを言います。

脊椎というのは、縦にまっすぐに並んでいるのではなく、すこしカーブして繋がっています。学校にあった人体模型を思い出してみてください。頸椎のところでは前方に凸、胸椎は後方、腰椎は前方、仙椎は後方に凸になっています。

このカーブが前方に凸になっていると椎間板が狭くなりやすくなります。そのため、頸椎と腰椎の部分で脊柱管狭窄症が起こりやすくなっています。

脊柱管狭窄症を起こす原因としては、骨と骨がずれる脊椎すべり症や、骨と骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板が変形することで脊髄を圧迫する椎間板ヘルニアなどがあります。

これらの病気によって神経が圧迫される結果、麻痺やしびれに加えて神経障害性疼痛を感じるようになります。治療は先ずは投薬で様子を見ますが、程度がひどい場合、特に麻痺が進行するような場合には手術を行います。しかし手術は進行の予防という意味程度ですので、術後も神経障害性疼痛が残ることがあります。

坐骨神経痛

 坐骨神経というのは、腰椎から出た神経がまとまってお尻の辺りから出てきてお尻や下肢の運動や感覚を支配する神経です。この神経が腰椎の部分や、お尻の辺りから出てきたところで圧迫される事で起こってくるのが坐骨神経痛です。

坐骨神経痛は体勢によって痛みが異なるというのが特徴です。ある程度体勢を工夫することで痛みが和らぐことが多いため、理学療法によって症状が改善するのを見る事が多くなります。

ひどい場合は神経ブロックなどの神経障害性疼痛に対する治療が必要になる場合があります。

帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹というのは、水痘帯状疱疹ウイルスが神経に沿って広がることで、皮膚に水ぶくれを伴う皮疹ができる病気です。神経に沿って広がるので帯状に皮疹ができる事から帯状疱疹という名前がついています。

ウイルスが神経に沿って広がるので、神経自体がウイルスによってダメージを受けてしまいます。そのため、皮疹が出る前から痛みの症状がある事が多く、何か原因が分からない痛みがあると思えば2-3日して皮疹が出てくる、というのが良くある経過です。

神経が傷害されますから、ウイルスが増えているときに神経障害性疼痛が起こってくるのはもちろん、傷害された神経が修復される事から感染が落ち着いた後も神経障害性疼痛が残ります。特に神経はなかなか治らず、かなりの期間痛みに苦しむ方も多くいます。

神経障害性疼痛に準じた投薬や神経ブロックなどの治療が適応になる事が多くあります。

三叉神経痛

三叉神経というのは、脳神経の一種で顔面の感覚を覚知する神経です。脳自体から直接出てくる神経で、脳から出た後三本に分かれて走行することから三叉神経という名前がついています。

三叉神経は分布に特徴があります。一本目は眼球の上にある穴を通って頭蓋骨の中から顔面に出てきます。そして、眼より上の皮膚感覚を支配します。二本目は眼球の下の穴から出てきて眼球の下、口の上までの感覚を支配します。三本目は顎から出てきて口より下を支配します。これらの神経が左右一対有り、顔面を六分割して支配しています。

三叉神経痛は、これらの神経領域一本か二本の領域に痛みを感じる病気です。原因ははっきりしないこともありますが、多くの場合、神経が脳から出てきた場所で血管によって圧迫されることで痛みを生じてしまうのです。

治療は手術で神経の圧迫を除去するものが選択されます。もちろん、投薬なども行われます。

複合性局所疼痛症候群

 非常にややこしい病気です。軽微な外傷や、もしくは全く外傷がないのに神経障害性疼痛が起こってくるものです。脳と脊髄による痛みの信号の処理に異常が生じていることが原因と言われています。

外傷の種類によってⅠ型とⅡ型に分かれます。

Ⅰ型が神経以外の外傷があった後におこってくるもので、反射性交感神経性ジストロフィーと呼ばれていたものになります。

Ⅱ型がカウザルギーと呼ばれていたもので、神経組織の損傷に起因します。どちらの病型も若年成人に最も多くみられ、女性では2-3倍多くみられると言われています。

症状は個人差が大きく、一定しません。ただ、特徴的なものとして灼熱痛と言われる痛みがある場合があります。前述のように、熱くもないのに非常に熱く感じる症状です。

非常に強い痛みを感じることもありますから、生活の質が著しく低下します。

まとめ

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に神経痛の痛みや種類について詳しく教えていただきました。

神経痛は早期に治療を開始することで抑制系の抑制も軽い段階で治療が開始できるため、治療効果が強く得られる事が多くなります。

辛い症状がある場合には、早めにペインクリニックを受診するようにしましょう。