【医師執筆】こどものチック症とは、原因や症状・治療について解説

2023.09.05

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執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

子供が急に、なにもしていなくても、まばたきを強く繰り返す、肩をすくめる、咳払いをする、ひどい場合には、奇声をあげる・・・・。こうした症状を繰り返すとご家族はチック症ではないのかと心配になりますよね。

チック症は突発的に同じ動きを繰り返す症状ではありますが、この多くは成長とともに改善していきます。ただ、この一部には治療が必要となり放置しておくと後遺症を残す可能性があります。

今回は小児科医の武井 智昭先生にこどものチック症について教えていただきます。

チック症の定義

チック症は、自分の意思とは無関係に、同じ動きを突発的に繰り返します

症状が1年以下のものは「一過性チック障害」、症状が1年以上持続し、3ヶ月以上続けてチック症が消えないものは「慢性チック障害」と定義されております。

チック症は男児に多くみられ、発症年齢の多くは小学校低学年(学童期)であります。そしてチック症の多くは18歳にはほぼ消失、あるいは軽快していくといわれています。

チック症の原因・合併症

チック症の発症は約1%程度とされており、珍しい疾患・症状ではありません。

この原因としてはまだ判明しておりませんが、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症(ADHD)の傾向がある子どもに合併しやすいです。前述の疾患を含めて、先天的な脳機能発達の偏りとされておりますが、明らかな原因や遺伝性は不明であります。

仮説としては、脳の神経伝達物質であるドーパミン・セロトニンの分泌の変化によるものと考えられております。チックは子育て、学校や家庭環境の後天的な要素ではないので、お子さんがチック症と診断されても、自分・家族を責めないでください。

チック症の診断

チック症の診断は、本人とご家族の面談・問診によって実施され、特別な心理検査などは実施しません。

このため、自宅での様子を記録にとり、必要であれば動画を撮影した上で、かかりつけの小児科、あるいは児童精神科の受診をすすめます。

チックの症状

チック症の症状は「運動チック」と「音声チック」に分類され、両者が合併することも多いです。

運動チック

運動チックは、「単純運動チック」と「複雑運動チック」に分類されます。

単純運動チックは、顔をしかめる、肩をあげる、まばたきをする、首を振るなどの頭部・頸部・体幹の上部の瞬間的な動きを繰り返します

持続時間が長い複雑運動チックは、単純運動チックと比べて全身の筋肉の動きがみられます。体を後方にそらす、拍手、ジャンプ、四肢の曲げ伸ばしなどを繰り返します。

音声チック

運動チックと同様に、音声チックにも「単純音声チック」と「複雑音声チック」に分類されます。

単純音声チックは咳払いをする、鼻を鳴らす、奇声をあげるなどの行動を繰り返します。新型コロナウイルス流行期で咳払いをされると親御さんも周囲の目が気になりますが、無理して止めると逆効果になります。

複雑音声チックでは、状況に合わない言葉を繰り返し発したり、卑猥な言葉を発したり(汚言)、人を侮辱する、罵倒するなどの行動が見られます。

音声チックを伴って多彩な運動チックが一年以上続くものは、「トゥレット症候群」と呼ばれて、予後も不良であるケースがありますので内服治療などが必要であります。

チック症の治療

単純型の運動チック・音声チックであればそのほとんどが自然治癒していきますから、内服薬は使用せず経過を見ていきます

自分が不安な気持ちであったり、時間をもてあそんでいるときにチックの症状が現れることが多いため、緊張や不安を取り除く、学校や家庭での不安要素を取り除く、熱中できるものを見つけるなど、他へ注目をそらすことがポイントです。これらのチックの場合であれば、その多くは1年以内に自然に改善していくことが多いです。

この一方で複雑型の音声チック・運動チックがみられ、日常生活に支障をきたすと判断される場合は、児童精神科において、内服治療が実施されます。抗不安薬(不安や強迫行動を抑えるクロニジン)、抗精神病薬(ハロペリドール)の内服が必要となります。

これらの薬には副作用に注意する必要があるため、最低限の内服にしながら、環境整備や不安をとっていくことが大事です

周囲の対応について

チック症の症状がみられると家族は心配をして、指摘したり、無理に止めさせようとしますが、これは逆効果となり悪化することが多いです。

こどもがチック症を認めても、無理してやめさせずに見守り、話を聞いてあげたり、不安やストレス解消を一緒にして自然に接するようにしましょう。

チック症の症状をみると、周囲の方が戸惑ったりビックリしたりすると、子供本人がストレスを感じることもあるため、学校などにチック症について理解してもらうことも重要であります。

まとめ

今回は小児科医の武井 智昭先生にこどものチック症について詳しく教えていただきました。

チック症は学童期の児童によくみられる症状であり、多くの場合は自然治癒していきます。ただし音声チックを伴う運動チックが1年以上続く場合や、日常生活に支障をきたす症状がある場合は、内服治療が必要になることもあります。

チック症状の対応は、周囲の大人が日常生活の様々な面で心理的な配慮を行うことが重要です。こどもの症状をよく理解し、できるだけストレスを取り除いてあげながら自然に接するようにしましょう。