【医師執筆】無痛分娩で使う麻酔とは?処置は痛いの?

2023.09.21

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監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。

欧米では主流となっている「無痛分娩」ですが、近年日本でも無痛分娩を行う施設は増加傾向にあります。

「無痛分娩に興味はあるけど本当に安全なの?」「そもそも麻酔の処置自体が痛そう」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、麻酔科医の郷 正憲先生に無痛分娩で使う麻酔の特徴や、麻酔の処置について詳しく教えていただきます。

無痛分娩とは

分娩をする際に痛みがあるのは当然だという風な考え方は過去のものとなっています。

確かに痛みを感じることによって母子の関係が良好になるという説もあるにはありますが、無痛分娩という痛みを抑えるような分娩をすることによっても特にそのようなことは変わってこないという風な研究結果も出てきてますから、無痛分娩ができるのにわざわざ行わないという風な選択肢はこれからはなくなってくるかもしれません。

実際に無痛分娩をどのようにしているのかということについて簡単に説明しましょう。

分娩をする時に全身麻酔をかけてしまうと麻酔の薬が赤ちゃんに移行してしまって生まれてきた赤ちゃんが麻酔がかかった状態で出てきてしまいますので非常に危険です。ですので全身麻酔は行われません

お腹から下の処置だから下半身麻酔をすればいいのではないかと考えるかもしれませんが、分娩の際にはしっかりといきむことによって赤ちゃんを出すという風な力が必要になります。このような力がかからなくなってしまいますから分娩ができなくなってしまうのです。そこで無痛分娩の際には「硬膜外麻酔」という麻酔を利用して分娩を行うのです。

無痛分娩で用いられる硬膜外麻酔とは

硬膜外麻酔というのはどのようなものなのでしょうか。

人の脊髄というのは「硬膜」という膜に包まれています。脊髄から体の様々な場所へ向かう神経は硬膜を貫いて外に出てきてそして体の色々な場所へと向かっていきます。ですので硬膜の外の部分に局所麻酔薬を浸透させることで、硬膜から出てきた神経をブロックし、痛みを感じにくくすることができるのです。

薬を1回だけ投与することも可能ですがよくされるのがチューブを残しておく処置です。硬膜外の空間にチューブを残しておいて必要に応じて薬を投与することで麻酔が効いている範囲や強さをコントロールすることができます。

特に無痛分娩の場合には麻酔を効かせすぎると痛みは確かになくなりますが、筋力もブロックされてしまって分娩が進まなくなってしまいます。そのため患者さんの痛みの状況を見ながら少しずつ薬を追加していくような処置が取られます。

このことからわかるように、無痛分娩と言っても完全に痛みがないのではなく、痛みを和らげてあげるのが主眼に置かれている麻酔と考えていただくといいのではないでしょうか。

この硬膜外麻酔のチューブは、分娩した後しばらく残しておくこともあります。分娩が終わった後、子宮が元のサイズに戻ろうとする時に痛みを感じることがありますこの痛みも抑えるためにチューブを残しておいてある程度の時期にチューブを抜くという風にしている病院も多いようです。

硬膜外麻酔の処置は痛い?

硬膜外チューブを入れると分娩が楽になるとは分かっていても、チューブを背中の方から入れるとなると非常に恐怖と痛みに対する不安が出てくるのは当然と思われます。ですがなるべく痛くないようにするために様々な工夫をしています。

まずはチューブを入れる場所に局所麻酔をします。この局所麻酔もなるべく細い針を使って行います。また元々背中というのは体の他の部分に比べて鈍感なことが多く、局所麻酔自体も他の場所にする局所麻酔よりもかなり弱い痛みで済むことが多いのです。

そうして局所麻酔をした場所に針を入れていきます。この針は確かに太いのですが、局所麻酔を既にしているところであれば特に痛みなく目的のところまで針が届くことがほとんどです。針が目的の場所まで届いたら針の中にチューブを入れていき一定の深さまでチューブが入ったら針を抜いてきます。そしてチューブを固定すれば硬膜外麻酔の処置は終了です。

熟練した医師が行えば、だいたい10分程度で終わる処置になります。
なお、無痛分娩の際には2箇所の硬膜外麻酔を併用することがあります。その場合には局所麻酔をする場所も2箇所になりますのでやや痛みが多いかもしれませんが、それでもその後やってくる分娩の痛みに比べると圧倒的に弱い痛みです。どうぞ安心して処置を受けていただけたらと思います。

まとめ

今回は麻酔科医の郷 正憲先生に無痛分娩で使う麻酔について教えていただきました。

「無痛」分娩という名前がついていますが、実際には完全に痛みをなくすのではなく、痛みを和らげることが目的の麻酔となります。

麻酔の処置自体は、局所麻酔を行った上で硬膜外チューブを入れるため、できるだけ痛みが軽減できるように工夫されています。

施設側の都合やご自身や赤ちゃんの状態によっては必ずしも無痛分娩が行えるわけではありませんが、無痛分娩に興味がある方は、ぜひお近くの無痛分娩を行っている施設を探してみると良いでしょう。