【医師執筆】乳児の貧血に気づくためには?治療は必要?

2023.09.19

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執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医

小さな赤ちゃんも、鉄分が不足することにより貧血となり、夜泣き・睡眠不足などが現れることがあります。

貧血のイメージというと、大人では顔が青白く(赤さがない)、動悸・息切れなどの症状を思い浮かべるかもしれません。しかし乳児ではこのような一般的な貧血の症状が現れるわけではありません。では乳児の貧血に気が付くためにはどうしたら良いのでしょうか?

そこで今回は小児科医の武井 智昭先生に「乳児の貧血」について詳しく教えていただきます。

貧血とは

貧血とは、血液中のヘモグロビンという色素が低下した状態であります。原因は多数ありますが、乳児でも、成人でも、頻度が最も高いのは鉄分が低下した鉄欠乏性貧血です。赤血球に含まれるヘモグロビンには鉄が必要となっております。

乳児の鉄欠乏性貧血の原因としては、未熟児・早産時で多いものとしては、母体からの鉄のストックが少ないことが挙げられます。

また、生後6か月くらいになると、母体からの鉄のストックも使ってしまい、以後は鉄をしっかりと摂取できないという理由でも貧血となります。

母乳のみでのお子さん、鉄分が含まれている離乳食の進みが遅いお子さんも鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があります。市販の粉ミルクには鉄が加えられており、こちらのミルクで育った赤ちゃんの方が鉄欠乏性貧血になりにくい傾向があります

乳児の貧血の症状

乳児の鉄欠乏性貧血の症状は、成人の貧血の症状でみられるような顔色が青白いなどの症状、動悸、息切れなどはなく、見た目では判断が難しいです。このため、チェックするポイントとしては、小さな刺激でもすぐ泣いてしまうような易刺激性、注意力の低下、夜泣きなどがあります。

長期的な鉄欠乏性貧血が続いた場合には、泣き止まないことも続き、知能の発達に影響が生じる可能性が示唆されております。

貧血の診断

赤ちゃんが貧血かどうか見分けるには、血液検査を行い、ヘモグロビン・赤血球・鉄分の数値で診断を行います。WHOの基準では、ヘモグロビンの数値が11.0g/dL以下が基準となります。

乳児の貧血は治療が必要?

乳児の貧血の治療としては、原因が鉄欠乏性貧血であれば、鉄剤の投与や食事内容の変更などを行っていく必要があります。

また鉄欠乏性貧血以外の貧血が認められた場合には、原疾患の治療を行います。

ここでは、鉄欠乏性貧血の治療について詳しく解説していきます。

鉄剤の投与

1日に体重1kgあたり3〜6mgの鉄剤を数か月投与します。鉄剤はシロップ状であります。

鉄欠乏性貧血の場合、鉄剤投与により症状も1週間以内に改善していくことが多いです。ヘモグロビンの数値も1-2週間で正常となりますが、鉄のストックであるフェリチンの値が上昇し、体内に鉄が十分に蓄えられるには3ヶ月間ほど必要となります。このため、長期的な内服が必要です。

生後6ヶ月以降に鉄欠乏性貧血になっている赤ちゃんは、鉄剤を投与している2〜3ヶ月の間に離乳食が進み、鉄の摂取が食事で可能となるため、鉄剤の投与は減量、中止を検討します。

鉄剤の副作用としては、嘔気・嘔吐などの消化器の症状には注意をしてください。

食事内容の変更

鉄剤に比べて、食事摂取の内容を改めてみることも重要です。

母乳に加えて、鉄分が多い人工乳や10か月程度となればフォローアップミルクへの変更も検討してください。

また、離乳食の中でも以下のような食品には鉄分が多く含まれているため、積極的に摂り入れるようにしましょう。

  • レバーのペースト
  • 肉類
  • 大豆
  • 豆腐
  • ほうれん草
  • 海藻  など

肉類やレバーに含まれている動物性食品に含まれる鉄(ヘム鉄)の方が、吸収性が高いとされております。植物性食品に含まれる鉄(非ヘム鉄)と合わせて摂取するようにしましょう。

まとめ

今回は小児科医の武井 智昭先生に「乳児の貧血」について教えていただきました。

もし泣き止まない、刺激に過敏であるなどといった症状がある場合は、一度かかりつけの小児科に相談してみることをおすすめします。

生後6か月以降になると、鉄分のストックが減少して貧血になりやすいです。この時期になれば、離乳食をすすめるにあたりメニューに鉄分を含むような工夫もあるとよいでしょう。