メディコレNEWS|【医師監修】おたふくかぜの合併症に注意!診断・治療
執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医
ある日突然、頬や耳の下が腫れて痛くなる。おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、こどもが罹患することが多いですが、成人でもかかることもあり、成人の方が症状として強くなる傾向もあります。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)はワクチンにより高い予防効果があるといわれていますが、
現在(2023年9月時点)において、任意接種となっています。
今回は小児科医の武井 智昭先生に、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)について詳しく教えていただきます。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎))とは
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、耳下腺(耳のした)・顎下腺(ほお)が、ある日急に腫れて、痛みを伴います。これらの組織は唾液腺であるため、固いものや辛いものを食べると痛みが強くなるため食欲が低下します。
また、これ以外にも発熱・倦怠感が生じることがあります。
発熱を認める場合には、3日間程度続いていきます。耳下腺の腫れは発症してから3日程度でピークとなり、次第に痛み・腫れも改善していきます。
耳下腺の腫れは、最初は片側だけですが、その後にもう片方も腫れることが多いため、左右あわせて1週間程度、持続する場合もあります。
耳下腺の腫れはありますが、皮膚の発赤などの変化はないこともポイントです。
おたふくかぜワクチンを2回接種した方では、耳下腺・顎下腺の腫れや痛みがほとんど見られず、発熱もない場合もあります。
感染経路は?
おたふくかぜを引き起こす「ムンプスウイルス」は感染力が強いウイルスです。主な感染経路としては、「飛沫感染」と「接触感染」があります。
ムンプスウイルスの潜伏期間は、2~3週間と長く、耳下腺が腫れる1週間前から、唾液にウイルスが分泌されております。
ムンプスウイルスに感染しても、約3割の方は症状が出ない不顕性感染となるため感染が広がりやすくなります。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の合併症に注意!
おたふくかぜが引き起こす合併症としては、以下のようなものが挙げられます。
- 髄膜炎、髄膜脳炎
- 難聴
- 精巣炎・卵巣炎
- その他(急性膵炎、関節炎) など
髄膜炎、髄膜脳炎
ウイルス性髄膜炎では、手足口病のエンテロウイルスと同程度に原因として多いのが、このムンプスウイルス感染による髄膜炎です。
一度解熱したのちに、再度の発熱を認め、嘔吐・頭痛が悪化した場合に疑われます。
髄膜炎の合併症の発生割合は約1%とされております。この状態になった場合には、食事や水分がとれず全身状態が悪化するため、入院になることも比較的多いです。
また発症率は0.02~0.3%と高くはありませんが、意識障害・けいれんなどを伴う脳炎にかかることもあります。
難聴
おたふくかぜにかかってから約2週間以降に、耳の聞こえ方に違和感を感じる場合があります。
本疾患による難聴の頻度はかなり低いですが、高度の感音性難聴となるため、人工内耳埋込術などの治療が必要となる場合があります。
精巣炎・卵巣炎
精巣炎は思春期以降の男性が罹患した場合、約20%程度でみられます。耳下腺の腫脹が改善してから1週間以内に陰嚢の腫れ・発赤・疼痛が見られます。
本疾患により不妊に至ることは少ないですが、精子の数が減少する傾向が報告されております
卵巣炎は、思春期以降の女性感染例の約5%にみられ、下腹部に疼痛を認めます。
その他
上記以外にも、急性膵炎・関節炎・心筋炎などの合併症も報告されています。
このように、おたふくかぜは様々な合併症を引き起こすことがあるため注意が必要です。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の診断・治療
おたふくかぜの診断としては、確定診断としては血液検査でムンプスウイルスのIgM抗体検査での陽性が所見となりますが、ほとんどの医療機関では問診・触診などで臨床的に判断いたします。
この一方で、おたふくかぜの診断はムンプスウイルスに感染していても無症状であることもあり、診断時には感染しているかどうかを完全に見極めることはできません。
おたふくかぜの治療として、特効薬である抗ウイルス薬はありません。
このため、発熱に対しては解熱鎮痛薬を使用するなど、対症療法となります。
また肉などの固いものを食べず、のどごしの良いゼリー、ヨーグルト、スープなどの栄養をとり、安静にして対応します。
いつから登園・登校できる?
おたふくかぜと診断された場合には、登園・登校に対して制限があります。
「耳下腺、顎下腺が腫れたあと5日後、かつ全身状態が良くなるまで」と規定がある出席停止対象の疾患であります。
幼稚園・保育園・学校によっては医師による「登園許可証」が必要なこともあるので、確認してみると良いでしょう。
おたふくかぜの予防
流行性耳下腺炎の予防するワクチンは1歳以上と、就学前1年間の2回接種により予防効果は90%以上とされております。
日本小児科学会からは、1回目の接種を生後12~15ヶ月、2回目の接種を5~6歳の間で推奨しております。
このワクチンは自己負担を要する任意接種であるため、日本のワクチン接種率は30%ほどにとどまっているといわれています。
費用は病院によって異なりますが、1回あたり4,000~8,000円程度であることが多いです。
まとめ
今回は小児科医の武井 智昭先生に、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)について詳しく教えていただきました。
おたふくかぜは感染力が強く、また感染しても約3割の方は症状が出ないため、幼稚園・保育園や学校、家庭内で感染が広がりやすく注意が必要です。マスクやうがい、手洗いなどの基本的な感染対策とあわせて、ワクチン接種を検討してみてください。