【医師執筆】抗生物質が必要なのはどんな時?子どもに飲ませる際の注意点
執筆医師:武井 智昭(医療法人社団 柴健会 小谷クリニック)
慶應義塾大学医学部卒。日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医
近年では抗生物質が乱用された結果として、いざという時に抗生物質による治療が効果を発揮できないなど、薬剤耐性菌の出現が話題となっております。抗生物質は風邪のウイルスには効果がありませんが、細菌感染には効果が発揮されるため、重要な薬ではあります。
この一方で、日本ではこれまで、子どもに対しての抗生物質が乱用されてきており、薬剤耐性菌のほか、腸内細菌のアンバランスを引き起こして様々な症状が生じております。 今回は小児科医の武井 智昭先生に「抗生物質」について詳しく教えていただきます。
抗生物質が必要なのはどんな時?
様々な感染症の原因としては、抗生物質による効果が期待できる「細菌」、効果がまったくみられない「ウイルス」に大別されます。
抗生物質は適切に使用されれば、症状は速やかに改善されていきます。
細菌とウイルスの違いとは?
こどもの風邪のほとんど(報告では95~97%)は、200種類くらいと言われている様々なウイルス感染によって生じます。
この中には、おなじみの新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスから、ライノウイルス、アデノウイルス(プール熱)、手足口病の仲間のエンテロウイルス、ヒトメタニューモウイルス・・・・など多数あります。
この中で、インフルエンザウイルスに関しては、抗ウイルス薬(タミフルなど)がありますが、その他の抗ウイルス薬はないため、症状に応じた対応を行っております。風邪のほとんどは4-5日をピークに、免疫不全の持病がなければ、1週間程度で体内から排泄されていきます。
この一方で、抗生物質の効果がみられるものとしては、小児では中耳炎・咽頭炎・肺炎・気管支炎なおでは肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマなどがあげられます。 もし、よくあるカゼに対して抗生物質を服用して、こどもの症状(発熱・咳)が治ったとしても、抗生物質はウイルスには効果がなく、自然経過であることがほとんどであると思ってください。
抗生物質と対応する疾患について
抗菌薬の適正使用の観点から、小児で多い以下の疾患であれば抗生物質の服用が検討されます。
中耳炎
中耳炎の多くは風邪ウイルスが原因となりますが、悪化すると細菌の感染が併発します。鼓膜の状態や全身の状態を確認して、軽症であれば投与しません。
中等症以上、もしくは生活に支障があるレベルであれば、抗生物質が処方されます。耳は薬が届きにくいため、通常量の倍量を投与するケースもあります。
副鼻腔炎
頭痛、黄色や緑の鼻水が出ている場合のみでは、細菌感染である可能性は低いため、抗生物質はあえて使用しません。
ただし2週間以上、上記の症状が続き長引いている場合には抗生物質が投与される場合もあります。この場合では、菌を倒すのではなく、炎症をおさえるという目的で、抗生物質の投与量は約3分の1から2分の1を長期に投与します。
肺炎・気管支炎
症状が重く、呼吸困難がある場合には、風邪ウイルスに加えて、肺炎球菌・インフルエンザ菌などの合併と判断されるため、抗菌力の比較的優れた内服薬、入院の場合では注射薬が投与されます。
ノドの痛み
小児でノドの痛みを訴える場合、そのほとんどはウイルスによる症状であります。 この一方で溶連菌感染症による場合では、咽頭の迅速抗原検査を行い、陽性と判定された場合には1週間程度の抗生物質の内服が治療として行われます。
抗生物質を服用する際の注意点
前述の通りカゼの原因はほとんどがウイルスですが、抗生物質はカゼには効果がありません。いたずらに抗生物質を使用すると、後述する副作用のリスクがあるため注意しましょう。
抗生物質の副作用
内服薬の抗生物質では、腸内の細菌のバランスを変化させてしまう副作用がメインであります。とくに、小さなおこさんであれば、腸内細菌のバランスが崩れやすいために、下痢が続くことがあります。
このほか、長期に乱用すると、腸内細菌の乱れによりアレルギーの疾患が生じやすくなります。喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーもこの中に含まれると考えられます。
米国小児科学会では「小児への抗生剤投与は喘息の発症を増やす」という報告もあります。 また、薬剤耐性菌を生じるリスクがあるため、次回の抗生物質の投与の時に、効果を発揮しにくくなる事があります。
まとめ
抗生物質は、細菌感染の治療に効果を発揮しますが、ウイルス性の風邪に対しては効果がありません。
もし、抗生剤を医師から提案された場合、その目的・理由などをしっかりと聞いて、納得した上でお子さんに投与するようにしましょう。 また、抗生物質が余った場合、自分自身の判断で、お子さんのお熱の時にとりあえずあげる・・・ということは控えてください。