【医師監修】自律神経とは? 自律神経失調症の治療と費用を解説
監修医師:伊藤 直(平成かぐらクリニック院長)
専門領域は精神科(心療内科)、 精神神経科、 心療内科。
主な著書は『精神科医が教える 3秒で部下に好かれる方法』。
最近さまざまなメディアで「自律神経」という言葉を耳にしたり、書店では自律神経に関する本がずらりと並んでいるのを目にしたりする機会が増えたように感じます。
特に近年のサウナブームの中でサウナと自律神経の関係についてもしばしば語られ、多くの人にとって自律神経は馴染み深い言葉となったのではないでしょうか。
では自律神経とは一体なんでしょうか。一言でいうと、自律神経とは「生命維持に必要な身体の機能を調整している神経」です。この自律神経のバランスが乱れることで、心身にさまざまな症状があらわれ、自律神経失調症を引き起こすことがあります。
ここでは自律神経について、そして自律神経の乱れが引き起こす症状や、自律神経失調症の治療など、医師監修のもと詳しく解説していきます。
自律神経とは
人間の体の中には無数の神経が網の目のように張り巡らされています。神経には「中枢神経」と「末梢神経」があります。
中枢神経(脳や脊髄)から出された指令が末梢神経に届き、私たちは体を動かすことができるのです。
体を動かすというと手や足などの動きをイメージするかもしれません。しかしそれだけでなく心臓を動かしたり体温を調整したりするのも末梢神経の役割です。
このように心臓の動きや体温調整など、無意識のうちにコントロールする働きを「自律神経」と呼びます。
自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。それぞれの違いをみていきましょう。
交感神経とは
交感神経は主に日中活動している時に優位に働きます。私たちは朝起きてから通勤、通学、家事、運動さまざまな活動を行っています。こういった活動中は、瞳孔は開き、心拍数が高まるのですが、これが交感神経の働きです。
また緊張している時やストレスを感じた時、心臓の鼓動が早くなるのを感じるでしょう。それも交感神経の働きによるものといえます。
副交感神経とは
副交感神経は主に夜間などリラックスしている時に優位に働きます。交感神経とは反対に心拍数は下がり、筋肉を緩めるのが副交感神経の働きです。
消化や排せつ、細胞の修復など、健康な体づくりの土台となるのが副交感神経の役割です。
自律神経はしばしばアクセルとブレーキに例えられます。車が安全に走行するためにはアクセルとブレーキ、そのどちらの役割も必要です。
同様に人間の体も、交感神経と副交感神経のどちらもが正常に働くことが、心身の健康につながります。
自律神経が乱れる原因
交感神経と副交感神経はシーソーのように、24時間常にバランスをとりながら体の状態を調整しています。よく「自律神経の乱れ」といわれるのは、この交感神経と副交感神経のバランスが崩れた状態をさします。
特にストレス社会を生きる現代人は、交感神経が優位になった状態が続きやすく、自律神経のバランスがとれなくなってしまうことがあります。仕事や人間関係のストレスの他、大きな音や強い光が原因で気がつかないうちに体がストレスを感じていることも考えられます。
自宅でのリラックスタイム中は、できるだけテレビやスマホに触れず、副交感神経の働きを高める時間を作ると良いでしょう。
またストレス以外の自律神経が乱れる原因として、不規則な生活や女性ホルモンの分泌などが挙げられます。自律神経を整えるためには、できるだけ規則正しい食生活や睡眠を心がけることも重要です。
自律神経失調症の症状と診断基準
自律神経の乱れはさまざまな心身の不調を引き起こします。具体的には以下のような症状があらわれる場合があります。
- 疲労感
- 頭痛
- めまい
- 吐き気
- 下痢や便秘
- 月経不順
- 気分の落ち込み
- イライラ
自律神経の乱れによりこのような症状が出ることを「自律神経失調症」といいます。しかし上記のような症状がみられたら必ず自律神経失調症だ、と断言することはできません。これらの症状は自律神経失調症以外にも、さまざまな疾患に該当するためです。
「自律神経失調症」という名称は広く知れ渡っていますが、実は正式な疾患名ではなく、今のところ明確な診断基準はありません。そのため、症状や生活習慣の問診から他の病気の可能性を除外し、明らかな原因が見つからない場合に自律神経失調症と診断されることが多いです。
例えば長期間頭痛が続く、という症状で内科を受診した場合、まずは頭痛の頻度や痛む箇所などを問診します。
通常は症状に適した頭痛薬が処方され様子をみることが多いですが、緊急性のある頭痛だと判断された場合には脳神経外科などで頭部CTやMRIをすることもあるでしょう。
こういった一連の問診や検査を経て、明らかな原因がみつからない場合「自律神経失調症」という診断がおりるという流れです。
他にも医療機関によっては、心拍数や血圧などの変化から自律神経の働きを調べるといった検査方法を取り入れている場合もあります。いずれにせよ、自律神経失調症は自分自身や周囲の人が容易に判断できるものではありませんので、気になる症状があれば一度医療機関を受診してみましょう。
自律神経失調症の治療と費用について
自律神経を整えるためには、まずは規則正しい生活を送ることが重要となります。
以下のようなことを心がけ、改善できるところがないか自身の生活習慣を見直してみましょう。
- 一日三食のバランスのとれた食生活
- 早寝早起きを心がける
- お風呂にしっかり浸かる
- 適度な運動
生活習慣の改善でも症状が良くならない場合や日常生活に支障が出るほどの症状がある場合には、医師の判断のもと薬物療法が行われることもあります。
自律神経失調症が疑われる場合、まずは今起きている症状の中で一番辛い症状に該当する科を受診すると良いでしょう。
また症状が複数に渡る場合には、総合診療科への受診や、事前に医療機関に相談することをお勧めします。
自律神経失調症の症状は多岐に渡るため、一つ一つの症状、もしくは複数の症状に対して、薬が処方されます。
例えば、眩暈には抗眩暈薬、頭痛には鎮痛剤などの頭痛薬、腹部症状には整腸剤、不眠には眠剤などです。
自律神経失調症の治療費(3割負担の場合)
初診料:約3,000~5,000円(検査料込)
再診料;約1,000~2,000円
薬代:約1,000~2,000円(1か月あたり)
検査内容によって費用は大きく異なる場合もあるので、不安な方は事前に医療機関に確認してみることをおすすめします。
また自律神経失調症には鍼灸や整体、カイロなどの施術が効果的な場合もあります。しかしこれらは原則保険適用外となり、全額自己負担です。費用は1回あたり3,000~5,000円程度、定期的な通院が必要となります。
まとめ
私たち人間は心臓の拍動や体温の調整を意識して行うことはできません。そのため日常生活の中では、どうしても自律神経の働きに意識を向けることは難しいものです。
しかし意識して体と心を休める時間を作り、副交感神経の働きを活性化させることは可能です。お風呂の時間や寝る前の時間、好きな音楽や好きな香りで癒されながらリラックスタイムを過ごしてみてはいかがでしょうか。
自律神経に関して気になる症状があれば、自己判断をせず、早めに医療機関を受診し適切な検査・治療を受けるようにしてください。