花粉症は治せる?~最新治療と費用について~
監修医師:竹内 想(名古屋大学医学部付属病院)
医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積みました。 現在は主に皮膚科医・産業医として勤務しています。
冬の終わり頃から飛び始めるスギ花粉。毎年辛い鼻水や目のかゆみに悩まされているという方は多いでしょう。
日本耳鼻咽喉科学会誌にて発表された「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」によると、42.5%もの人が花粉症(花粉症の種類は問わず)であることが分かりました。中でも日本人に多いといわれるスギ花粉の有病率は38.8%。前回の2008年調査では26.5%だったため、この約10年間でスギ花粉に悩まされる方が急激に増えたことが分かります。
花粉症は一度発症すると治らないと思っている方も多いかもしれませんが、実は花粉症そのものを治す「根治治療」というものがあります。この記事では、花粉症の最新治療について、専門医の監修のもと詳しく解説していきます。
花粉症は治せる?
「花粉症」という言葉自体は、一般的に広く知られていますが、そもそも花粉症とは一体なんでしょうか。
花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉が体内に入ることで発症するアレルギー症状のことをさします。主な症状としては、鼻の症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまりなど)や目の症状(かゆみ・涙・充血など)、またのどのかゆみや皮膚のかゆみなどが挙げられます。
日本では花粉症の原因となる植物はなんと50種類以上あるといわれています。花粉症というと春をイメージする方も多いかもしれませんが、実際にはほぼ1年中何らかの花粉が飛んでいるため、春以外の季節でも花粉症の症状がみられることもあります。
花粉症による辛い症状は日常生活に支障をきたし、労働生産性を低下させます。パナソニック株式会社が行った調査によると、日本における花粉症の社会人の労働力低下による経済損失は、1日あたりなんと約2,215億円と推計されました。(参考:パナソニック「社会人の花粉症に関する調査」)
この辛い花粉症の症状に悩まされながら、「毎年のことだから仕方ない」と諦めてしまっていませんか?花粉症の治療は、飲み薬や点眼薬などを用いて、辛い症状を一時的に抑える「対症療法」が一般的ですが、最近では花粉症そのものを改善する「根治治療」を選択する方も増えてきました。それぞれの治療の特徴について詳しくみていきましょう。
花粉症の対症療法と費用について
ここからは、花粉症の対症療法である「薬物療法」と「レーザー治療」の効果と費用について解説していきます。
薬物療法
花粉症で処方される薬の種類はいくつかありますが、最近では「第2世代抗ヒスタミン薬」が主流になっています。第1世代の抗ヒスタミン薬は、眠気やだるさ・口の渇きなどの副作用が起きやすく、仕事や学校に行く前、また車の運転をする際には服用に注意が必要でした。
それらの副作用が改善されたのが第2世代抗ヒスタミン薬です。第2世代抗ヒスタミン薬は比較的副作用が出にくく、服用後は比較的早く効果が発揮されます。
薬物療法の費用(3割負担の場合)
約1,000円程度(1か月分)
ジェネリック(後発品)200〜300円(1か月分)
※別途診察料がかかります
最近では、同様の成分が含まれる市販薬も販売されていますが、市販薬の場合1か月あたり約5,000円の費用がかかります。病院に行く時間がとれないという方に市販薬は非常に便利ですが、長期的に服用することを考えると、費用面の負担は抑えられます。
また花粉症の治療薬を使う際は、花粉の飛散開始時期から服用を開始する「初期治療」が有効です。早い時期から薬の服用を開始することで、花粉症の症状があらわれてから服用を開始するよりも、ピーク期の症状を軽くしたり、薬の量を減らしたりする効果があるといわれています。
レーザー治療
鼻の粘膜をレーザーで焼くことで、アレルギー反応が起こりにくくなるという治療法もあります。痛みの感じ方は人それぞれですが、レーザー治療の前に局所麻酔をするため、強い痛みを感じることはほとんどありません。
レーザー治療では鼻症状(鼻水や鼻づまりなど)だけに効果が発揮されるため、目のかゆみなどは改善されません。レーザー治療はアレルギーに対する根本的な治療ではないので、多くの場合、数年で効果はなくなります。繰り返しの治療も可能なため、数年に1度治療を受ける必要があります。
レーザー治療の費用(3割負担の場合)
約1万円
※別途診察料がかかります
花粉症の根治療法と費用について
花粉症の治療には、一時的に症状をおさえるだけでなく、花粉症そのものを治す「根治治療」という方法があります。ここでは、根治治療ができる「アレルゲン免疫療法」について解説していきます。
アレルゲン免疫療法
花粉症の根治治療に、「アレルゲン免疫療法」という治療法があります。アレルゲン免疫療法では、花粉症の原因物質であるアレルゲンを少量ずつ体内に投与し、徐々に体を慣らしていきます。そうすることでアレルゲンに対する免疫ができ、花粉症の症状を緩和させる効果があります。
ただし現在アレルゲン免疫療法として治療可能なアレルゲンは「スギ花粉」と「ダニ」の2種類のみです。ヒノキ花粉など、その他のアレルギーがある方に対しては、現在のアレルゲン免疫療法では治療ができないため注意しましょう。
従来は皮下注射でアレルゲンを投与する「皮下免疫療法」が主流でしたが、近年は舌の裏側にアレルゲンを乗せて経口投与する「舌下免疫療法」が行える病院が増えてきました。
アレルゲン免疫療法の費用(3割負担の場合)
約2,000円(1か月)
※別途診察料がかかります
舌下免疫療法は初回の薬の服用は病院でする必要がありますが、2回目以降は自宅での服用も可能です。ただし、月に1度の通院が必要となる場合が多いです。
少量ずつアレルゲンを投与し、徐々に体に慣らしていくため、治療をはじめてもすぐに効果が出るわけではありません。数か月程度で効果を実感できる方もいますが、基本的には3~5年ほど治療を続ける必要があります。
花粉症の最新治療「オマリズマブ皮下注射」と費用について
近年、新しく登場した花粉症の治療法に「オマリズマブ(商品名:ゾレア)」という皮下注射があります。これは、花粉症の重症または最重症患者に対しては使われる薬で、体の中からアレルギーを起こす物質をなくす治療法として注目を集めています。オマリズマブは、従来「気管支喘息」と「特発性の慢性蕁麻疹」に対する治療薬として用いられていましたが、2019年12月より花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)への適応が追加されました。
アレルギー治療において高い効果が期待されるオマリズマブですが、残念ながら費用が高額というデメリットがあります。
オマリズマブ皮下注射の費用
約8,000〜3万円(1回あたり)
※人によって薬の投与量が変わるため、金額には大きな幅があります。
※1シーズンで1~2回の投与が必要です。
※別途診察料がかかります。
オマリズマブはまだ一部の医療機関でのみ取り扱っている治療方法ですが、辛い花粉症でお悩みの方は一度専門医に相談のうえ検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
花粉症の治療には「対症療法」と「根治治療」の2種類に加え、近年新しく登場した「オマリズマブ皮下注射」という治療法があります。毎年辛い花粉症に悩まされている方は、薬で症状をおさえるだけでなく、花粉症そのものを治す治療法もあるということを覚えておきましょう。自分に適した治療が見つかれば、花粉症に悩む辛い日々から解放されるかもしれません。