【医師監修】コロナ禍で急増した『摂食障害』とは

2023.03.30

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監修医師:伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
専門領域は精神科(心療内科)、精神神経科、心療内科、 美容皮膚科、産業医。

拒食症」や「過食症」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。これらは摂食障害といわれる精神疾患の一種です。決して珍しい病気ではなく、現在日本における摂食障害の患者数は約20万人といわれています。

摂食障害、特に拒食症を患っている方の多くは、10代~20代の若い女性です。特にコロナ禍において、摂食障害で悩む若い女性からの相談が急増しているとの報告もあります。

摂食障害の怖いところは、ただのダイエットのつもりが、摂食障害につながり、そして最悪の場合命にかかわることがあるということです。この記事では、摂食障害について、またその治療について詳しく解説していきます。

摂食障害とは

摂食障害とは、摂食、つまり食べることに関する何らかの異常がみられ、心身に影響を及ぼす精神疾患の一種です。

摂食障害の主な種類としては ①拒食症(神経性やせ症) ②過食症(神経性過食症・過食性障害) ③その他の摂食障害 の3種類が挙げられます。それぞれの違いは以下のとおりです。

拒食症(神経性やせ症)

拒食症は、やせたいという強い思いから発症するケースが多いです。

客観的にみたら、十分やせている状態であっても、太ることに対する強い恐怖心から、極端な食事制限を続けてしまいます。食事制限だけでなく、過度な運動を続けてしまう、食事をしたあとに嘔吐をしたり、下剤などを使って無理に排出しようとしたりする行為がみられることもあります。

ダイエットによりBMI(体重kg ÷ (身長m) 2)が17を下回る、体重の増加に強い恐怖心がある、生理が止まるなど身体への影響がある場合は拒食症が疑われますので、早めに医療機関を受診しましょう。

過食症(神経性過食症・過食性障害)

「過食症」と聞くと「拒食症」の逆、とイメージする方も多いかもしれませんが、実はどちらもその根底にあるのは「痩せたい」という強い思いです。

過食症とは、食事量のコントロールができなくなり、明らかに多い食事を食べてしまうことをさします。自身の食べたいという気持ちやお腹が空いたかどうかは関係なく、食べることが止められないのが特徴です。

食べすぎてしまったことに対する代償行為として、無理に嘔吐をしたり、下剤などを使って排出しようとしたりする場合は、体重の変化がみられないこともあるので、過食症では必ずしも肥満になるわけではありません。

やせることへの強い意識から拒食症と過食症を繰り返すこともあります。一時的ではなく、数か月にわたって過食が続く場合や過食による代償行為(嘔吐など)がみられる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

その他の摂食障害

その他の摂食障害として、夜間や睡眠時に過食が起こる「夜間摂食障害」や「睡眠関連摂食障害」、特定の食品しか食べられない「選択的摂食障害」、氷や髪の毛や土などの栄養がないものを食べてしまう「異食症」などがあります。

いずれも、自分自身の意思でコントロールするのは難しいため、心身への影響や生活に支障が出るようなことがあれば、早めに医療機関を受診しましょう。

摂食障害による二次障害

摂食障害では、やせすぎや太りすぎといった身体的変化の他に、さまざまな心身の病気を引き起こすケースが多いため注意が必要です。具体的な二次障害の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 逆流性食道炎
  • 栄養失調
  • 高血圧や糖尿病
  • 便秘
  • 貧血
  • 月経不順
  • うつ病や不安障害などの精神疾患

摂食障害は、実は精神疾患の中でも最も死亡率の高い病気であるということは、あまり知られていないかもしれません。特に拒食症における死亡率が高いことが分かっており、極端な食事制限により体が低栄養の状態に陥り、急死に至るケースもあります。

自分自身、または周囲の人に摂食障害が疑われる場合は、できるだけ早く医療機関を受診し、専門医による治療を受けるようにしましょう。

摂食障害の治療と費用について

摂食障害は心理的な要因と社会的な要因が組み合わさって発症すると考えらえています。そのため、ただ食事の改善を促すだけでは根本的な治療にならず、その背景にあるこころの問題を解決していくことが非常に重要です。

人それぞれ、その背景に隠れているものは異なるので、治療にあたっては患者さんと医師との間でその隠されている本当の原因を見つけ出し、それに合わせた適切な治療を進めていくことになります。

摂食障害の治療では、主に以下のような治療法が用いられます。

  • 薬物療法
  • 食事・栄養療法
  • 心理療法
  • 認知行動療法
  • 対人関係療法

重度の拒食症がみられ、心身の衰弱が著しいと判断された場合には、入院治療となることもあります。治療は長期にわたることもありますが、きちんと専門医の指導のもと治療を続けていくことで元の生活を取り戻すことが可能になります。

摂食障害の治療は主に心療内科にて行われます。どこの病院を選べば分からない、またはいきなり心療内科にかかるのに抵抗を感じるという方は、かかりつけの内科や産婦人科や小児科で相談してみると良いでしょう。

心療内科における治療費の目安(3割負担の場合)

初診:3,000~5,000円程度
再診:1,000~2,000円程度

治療費に関するご不安がある方は、精神疾患の治療が通常の3割負担から1割負担に減免される自立支援医療制度などもが活用できる場合もあるので、主治医もしくは自治体の窓口までお問合せください。

まとめ

摂食障害は決して珍しい病気ではなく、誰にでもかかりうる病気です。もし身近な人に摂食障害のような症状があったら、「もっと太らないと」「ちゃんとご飯を食べなさい」というような言葉はかけてはいけません

摂食障害は本人の意思でコントロールすることは難しく、専門医の指導のもと適切な治療を受けることが重要です。症状が悪化すると、治療が困難になってくるケースもあるので、できるだけ早めの医療機関の受診を心がけましょう。