【医師監修】COPDの症状と治療方法について
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
長年の喫煙習慣によって発症するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。厚生労働省の発表によると2021年のCOPDによる死者数は16,384人、COPD患者数は全国で約530万人と推定されています。
COPDの代表的な症状には、慢性的な咳や痰、階段の昇り降りなどの日常動作時の呼吸困難感などが挙げられますが、自覚症状がない患者さんも多く、気が付いた時には病気が進行しているというケースも多くみられます。
COPDは最悪の場合命にかかわる病気です。そのためCOPDを発症させないこと、そして発症してしまった場合には、適切な治療を受け進行を止めることが重要です。
ここでは、COPDとはなにか、また最新の治療や費用について医師監修のもと詳しく解説していきます。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは、タバコや大気汚染などの有害物質を長期間吸入することで生じる進行性の肺疾患です。これらの汚染された有害物質を繰り返し吸い込むことで肺胞や気管支に炎症が起こり、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
COPDは高齢になってからかかる病気というイメージがあるかもしれませんが、若い人でもかかることがあります。海外の調査データによると、45~54歳のCOPD患者さんは65歳以上の中高齢の患者さんと比較して、「日常生活に大きな影響を及ぼしている」と感じる方が多いことが分かっています。COPDの症状が強くなると、これまで通りの日常生活を送ることが難しくなるケースも多く、QOL(生活の質)を低下させる一因となってしまいます。
COPDは一度発症してしまうと元通りの肺に戻ることはないため、かからないように予防することが最も重要です。ここではCOPDの原因と症状について詳しく解説していきます。
COPDの原因
COPDの原因はいまだ解明されていない部分もありますが、最も大きな原因は「タバコの煙」であることが分かっています。日本国内におけるCOPD患者の90%に喫煙歴があり、また喫煙者の15~20%がCOPDを発症すると考えられています。
タバコの煙以外にも、大気汚染や職業性の粉塵や化学物質、また呼吸器感染症や幼少期の呼吸器疾患がCOPDの原因になることもあります。
これらの原因により、肺の気管支やその先の肺胞などがダメージを受け続けて炎症を起こし、さまざまな症状があらわれます。
COPDの症状
COPDの主な症状として、以下のようなものが挙げられます。
- 長く続く咳
- 粘性の高い白~黄色、緑色の痰
- 運動時や日常の動作時の息切れ、息苦しさ など
COPD患者さんの多くは、階段をのぼるのがきつい・息切れがするなどといった症状がみられます。それにより自然と階段を避け、エスカレーターやエレベーターばかり使ってしまい、状態が悪化していることに気が付けないこともあります。COPDの症状は徐々に悪化していくことが多く、初期段階であれば自覚症状がみられないというケースも少なくありません。
またCOPDはこれらの症状とは別に、肺炎や肺癌などの他の呼吸器疾患や肺以外の全身の疾患を引き起こすリスクが高まることも明らかになっています。具体的には、COPDと以下のような疾患との関連性が報告されています。
- 全身性の炎症
- 体重減少などの栄養障害
- 骨格筋の機能障害
- 心・血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳血管障害)
- 骨粗鬆症(脊椎圧迫 骨折)
- 抑うつ
- 糖尿病
- 睡眠障害
- 緑内障
- 貧血 など
COPDは単なる肺の炎症ではなく、全身に影響を及ぼす病気だという認識をもち、早めに適切な治療を受けることが重要です。
COPDの治療と費用について
COPDと診断された場合は、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、COPDの治療方法と費用について解説していきます。
禁煙治療
COPDの治療において最も重要なことは、COPDの一番の原因であるタバコの煙を避けることです。一度COPDになってしまうと、肺を元の状態に戻すことはありませんが、禁煙によりCOPDの進行を遅らせることが可能です。
また禁煙により咳や痰、息切れなどの症状の緩和も期待できるため、医療機関でも積極的に禁煙治療が勧められます。
医療機関で受けられる禁煙治療には、禁煙外来があります。COPDの診断がなくてもニコチン依存症の度合いなどの一定条件を満たせば保険が適応されるため、一度受診をしてみることをおすすめします。
禁煙外来では、貼り薬または飲み薬の禁煙補助薬を用いて、医師や看護師による禁煙指導が行われます。COPDの予防にも禁煙は非常に効果的ですので、専門施設で禁煙外来を受け、1日でも早く禁煙を成功させましょう。
禁煙外来の治療費(3割負担の場合)
12週間(標準治療期間):約2万円
薬物療法
COPDの薬物療法では主に、気管支を拡張し、息苦しさなどの症状を緩和させる「気管支拡張薬」という薬を使用します。症状の重さや病状の進行状況などから重症度を判断し、効果と副作用をみながら薬剤が決定されます。また重症で増悪(COPDの症状が悪化し、いつもの治療では改善されない状態)を繰り返すような場合には、ステロイド薬を使用することもあります。
COPD増悪は、風邪やインフルエンザなどの感染症によって引き起こされることが多く、命にかかわる恐れもあります。そのためインフルエンザワクチンなどを接種し、増悪の予防をすることが重要です。
呼吸リハビリテーション療法
COPDの治療では、前述の禁煙治療と薬物療法に加えて、呼吸リハビリテーションを行うと治療の効果が高まるといわれています。COPD治療における呼吸リハビリテーション療法では、主に以下のような指導が行われます。
- 呼吸法の指導
- 息切れを起こしやすい日常動作の工夫を訓練する
- ストレッチや有酸素運動、筋トレなどの運動療法
COPDになると、動きを伴う日常生活活動が苦しくなることから、活動を控えてしまう患者さんが多くいます。しかし日常の活動量が低下することによって、動くことに伴う苦しさや不調がさらに増加するという悪循環に陥ってしまうことがしばしば問題とされています。この悪循環を断ち切るためにも、運動療法をはじめとしたリハビリテーションを行うことが効果的であると考えられます。
COPD治療の費用(3割負担の場合)
初診:約3,000~5,000円
再診:約1,000~2,000円
COPDの治療費は、症状や病状の度合いによって変動します。また急性増悪が生じている場合は入院治療となることもあり、数十万円の費用がかかることもあります。
まとめ
COPDは一度かかってしまうと完治させることは難しい進行性の病気です。だんだんと症状が悪化していくことから初期症状に気が付きにくい場合も多いので、特に長年の喫煙習慣がある方は、定期的に健康状態をチェックすることが重要です。
COPDと診断された場合は、病状を悪化させないために、禁煙と医療機関での適切な治療を受ける必要があります。階段をのぼる時や日常生活における動作で息切れなどの症状がある方は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。