大人のぜん息は治せる?
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
ぜん息というと子どもの病気だと思っている方も多いかもしれませんが、実は大人になってからぜん息を発症することもあります。
せきが止まらないことがある、息をするときにゼーゼーやヒューヒューと音がするなどの症状がある方は、もしかすると成人ぜん息かもしれません。
この記事では、医師監修のもと成人ぜん息の症状や原因、また最新治療と費用について詳しく説明していきます。
成人ぜん息とは
「ぜん息」とは、何らかの原因で気管支に慢性的な炎症が起こって粘膜が過敏になり、気道が狭くなることで発作的にせきと痰、ぜい鳴、呼吸困難などが出現する病気です。中でも20歳以上の成人でぜん息の症状があることを「成人ぜん息」と呼びます。
成人ぜん息は小児ぜん息から移行するケースや、小児ぜん息が一度治まってから大人になって再発するケースもありますが、実はそれ以上に成人になってから初めてぜん息症状があらわれるケースが多いといわれています。
国立病院機構ネットワーク共同研究による成人ぜん息の実態調査によると、大人になってからぜん息を発症する人は、大人のぜん息患者の70〜80%を占めることが明らかになっています。そのうち40~60代の中高年で初めて成人ぜん息を発症した人の割合は約60%でした。
小児ぜん息と成人ぜん息ではどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、成人ぜん息の症状や原因について詳しく解説していきます。
成人ぜん息の症状
基本的には、成人ぜん息も小児ぜん息も同じような症状があらわれます。しかし、成人ぜん息は小児ぜん息に比べて慢性化・重症化しやすいという特徴があります。
成人ぜん息であらわれる症状の例は以下の通りです。
- 激しいせき
- 痰
- ぜい鳴(ぜいめい)
- 息苦しさ・呼吸困難 など
成人ぜん息によるせきは一般的に夜中や明け方に出やすく、息苦しさや呼吸困難を起こすほどの激しいせきが止まらなくなることもあります。他にも季節の変わり目など寒暖差がある時や、運動をした時、タバコの煙を吸い込んだ時などにもぜん息発作が起こりやすくなります。
またぜん息の症状として多くの方が思い浮かべる「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」という音(ぜい鳴)も成人ぜん息の特徴的な症状の一つです。子どもは元から気道が狭いためぜん息以外の原因でもぜい鳴が聞かれることがありますが、成人の場合はぜい鳴があればまずは成人喘息が疑われます。
成人ぜん息の原因
小児ぜん息も成人ぜん息も、根本的な原因は気道(空気の通り道)の炎症となります。
ぜん息は大きく分けて「アトピー型ぜん息」と「非アトピー型ぜん息」の2種類に分類されます。
アトピー型ぜん息とは、ダニ、ペット、カビなど、特定のアレルゲンによって気道に炎症が起きるぜん息のことです。
一方で、非アトピー型ぜん息とは、特定のアレルゲンがない、もしくはアレルゲンがあっても特定できないぜん息のことです。小児ぜん息は、アトピー型ぜん息が大半を占めますが、成人ぜん息は、アトピー型ぜん息が約6割、残りの約4割は非アトピー型ぜん息といわれています。
アレルゲンが特定できるアトピー型ぜん息に比べ、非アトピー型ぜん息は、どのような状況でぜん息発作があらわれるのかの特定が困難なことが多いです。そのため普段の生活において、ぜん息発作を起こさないように想定できる危険因子をできるだけ回避することが重要です。
ぜん息の危険因子
- アレルゲン
- ウイルス性呼吸器疾患(風邪・インフルエンザなど)
- 喫煙
- 食品・食品添加物
- 大気汚染
- 肥満
- ストレス、過労 など
成人ぜん息を放置するとどうなる?
成人ぜん息は、何らかの原因で気管支に慢性的な炎症が起こって粘膜が過敏になっています。そこに危険因子が関与することによって、気道粘膜が腫れて狭くなり、ぜん息発作が起こりやすくなります。
また成人ぜん息の適切な治療を受けなかったり、治療を中断してしまったりすると「気道リモデリング」という状態になりやすくなるといわれています。
「気道リモデリング」とは、慢性的な気管支の炎症により組織の繊維化が進んで硬くなり、気道が狭いままで元の状態に戻らなくなることです。それによりぜん息発作が起こりやすくなり、さらには発作が起きた時に重症化しやすくなってしまいます。
ぜん息が原因で亡くなる方は年々減少していますが、2021年時点でも年間1,038人がぜん息により亡くなっています。成人ぜん息は完治が難しい病気ではありますが、適切な治療と自己管理によってぜん息の症状をコントロールしていくことが重要です。
成人ぜん息の治療と費用
成人ぜん息は慢性疾患のため完治は難しいのですが、適切に薬を使っていくことで、辛い症状をおさえ重症化を防ぐことが可能です。前述の通り、重症化の原因となる気道リモデリングを起こさないためにも、早い段階から適切な治療を行い気管支の炎症を抑えることが重要となってきます。
ここでは、成人ぜん息の治療と費用について解説していきます。
薬物療法
成人ぜん息の使用する薬は大きく分けて「長期管理薬」と「発作治療薬」の2種類があります。
長期管理薬
成人ぜん息の長期管理薬は、主に気道の炎症を抑える薬(吸入ステロイド薬や抗アレルギーなど)と気道を広げて症状を改善させる薬(長時間作用性β2刺激薬、テオフィリン徐放製剤など)を組み合わせて使用します。
これらの長期管理薬は、症状がなくても毎日使用することが重要です。薬を使用することで一時的に症状がおさまっていても、気道の炎症は続いているため、自己判断で薬の使用を中断することは絶対にやめましょう。薬の使用について不明なことや不安なことがあれば、必ず主治医に相談してください。
発作治療薬
成人ぜん息の発作治療薬は、狭くなった気道をすばやく広げる薬(短時間作用性β2刺激薬、テオフィリン薬など)を発作が起きた時に使用します。発作治療薬には気道の炎症を抑える役割はないため、日々長期管理薬にて炎症を抑えながら、発作が起こった時にのみ発作治療薬を使用していきます。もし発作治療薬を使用しても効果がない時は、すぐに救急車を呼ぶか救急外来を受診するようにしましょう。
日常生活で心がけること
成人ぜん息の治療では、上記の薬物療法に加え、日常生活でぜん息発作を起こさないために以下のようなことを心がけることも重要です。
- 喫煙習慣がある人は禁煙する
- 喫煙所に近づかない、家族に喫煙者がいる場合は禁煙をお願いする
- 肥満の人は減量する
- こまめな換気、室内や寝具を清潔に保つ
- うがい、手洗い、マスクの着用など、風邪やインフルエンザの感染を予防する
- 花粉症の人は花粉対策と花粉症治療をする
- 天気予報をチェックし、気圧や気象の変化に注意する
- ストレスを溜めない など
成人ぜん息は環境要因によって症状が悪化したり、ぜん息発作が起きやすくなったりするため日常生活の管理をして、ぜん息のコントロールをしていくことが重要です。
成人ぜん息の治療費
成人ぜん息が疑われる場合は、呼吸器内科やアレルギー科を受診するようにしましょう。
成人ぜん息で医療機関を受診した際の医療費の目安は以下の通りです。
成人ぜん息の治療費(3割負担の場合)
初診:約5,000~1万円(検査費・薬代含む)
再診:薬4,000~8,000円(薬代含む)
成人ぜん息の治療費は処方される薬や検査の内容によって変動することもあるため、上記はあくまで目安としてください。
まとめ
成人ぜん息は、成人して初めて発症する人が70〜80%を占めています。成人ぜん息は慢性化・重症化しやすいといわれており、治療をせず放置しておくと、気管支の状態はさらに悪化し、最悪の場合命にかかわる恐れがあります。
夜間や朝方の長引く咳やぜい鳴などの症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。