心筋梗塞は予防できる?~最新治療と気になる費用~

2023.06.20

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監修医師:甲斐沼 孟(国家公務員共済組合連合会 大手前病院)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

「左胸が痛むことがある」「胸が締め付けられるような痛みがある」、こういった症状はもしかすると心筋梗塞の前兆症状かもしれません。

多くの方がご存じの通り、心筋梗塞は命にかかわる病気です。心筋梗塞を発症後いち早く治療を行うことで助かるケースも多くありますが、まずは日頃から心筋梗塞を発症させないための予防を行うことが重要です。

ここでは、医師監修のもと心筋梗塞とは何か、そして心筋梗塞の予防や治療方法について詳しく解説していきます。

心筋梗塞とは

心筋梗塞とは、心臓を動かす筋肉「心筋」に血液が送られず壊死する病気です。

心臓には、「冠動脈」という心臓自体に酸素や栄養を送っている血管があります。この冠動脈が詰まってしまうと、心筋に酸素や栄養が送られなくなり心筋が壊死してしまいます。

日本における急性心筋梗塞での死亡者数は、2021年は30,578人でした。年々やや減少傾向にありますが、日本全体の死亡原因として、悪性腫瘍(26.5%)に次ぐ2位が心疾患(14.9%)で、そのうち急性心筋梗塞の割合は14.2%です。

心筋梗塞の特徴的な症状は「突然の激しい胸の痛み」です。胸が押しつぶされる、強く締め付けられる、焼け付く感じなどの痛みを感じ、それに伴い吐き気や嘔吐、冷や汗があらわれることもあります。

ここでは、心筋梗塞の前兆症状と原因について解説していきます。

心筋梗塞の前兆症状

心筋梗塞を発症した人の約半数において、心筋梗塞を発症する前1〜2ヶ月の間に前兆症状があったとされています。心筋梗塞の前兆症状では、主に以下のような症状がみられます。

  • 胸の痛み
  • 胸の圧迫感
  • 胸焼け
  • 腕、肩、歯、あごの痛み(関連通)   など

これらの前兆症状が繰り返し起こっている、または以前よりも症状の程度が強くなっていると感じた場合は、心筋梗塞の発症リスクが高まっていることが考えられます。

前兆症状は心筋梗塞を発症した約半数の方にみられますが、残りの半数の方は前兆症状がなく、突然心筋梗塞を発症しています。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞は冠動脈が詰まって心筋に血液が送られず、心筋が壊死する病気です。では、冠動脈が詰まってしまう原因とは一体なんでしょうか。

それは「動脈硬化」です。動脈硬化とは、動脈の血管の壁が厚く硬くなった状態です。動脈の内腔にドロドロとしたプラークがついて血管が狭くなり、血栓が生じることで冠動脈が詰まりやすくなります。そしてその結果、心筋梗塞の発症リスクが高まります。

動脈硬化の他、以下のような疾患も心筋梗塞との関連が深いと考えられています。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症   など

これらの疾患は動脈硬化のリスク因子とも共通しており、心筋梗塞の発症リスクを高めることが分かっています。

また、他にも以下のようなものが心筋梗塞のリスク因子と考えられています。

  • 家族歴(親や兄弟に心筋梗塞の病歴がある)
  • 喫煙
  • 睡眠時間が短い
  • 過労
  • ストレス   など

家族に55歳未満で心筋梗塞を発症した人がいる場合は、本人の心筋梗塞の発症リスクがより高まるといわれています。また喫煙は心筋梗塞の死亡リスクを約3~4倍高めることがさまざまな研究から明らかになっています。

心筋梗塞の予防方法

心筋梗塞による死亡者の半数は発症後1時間以内に亡くなっているとの報告もあり、病院に到着する前に亡くなってしまう方が多いという特徴があります。そのため、心筋梗塞はまずは発症させない、つまり予防をすることが非常に重要です。

前述の通り、心筋梗塞の最も大きな原因となるのは動脈硬化です。そのため心筋梗塞の予防には、動脈硬化を起こさないことが重要です。ここでは、動脈硬化・心筋梗塞の予防策を5つご紹介します。

食生活

食生活の改善は高血圧などの生活習慣病予防につながり、動脈硬化・心筋梗塞の発生リスクを低下させます。1日3食バランスの良い食事を心がけ、塩分や脂質はできるだけ控えるようにしましょう。

禁煙

前述の通り、禁煙は心筋梗塞をはじめとするさまざまな心疾患や生活習慣病の発症リスクを高めます。しかし禁煙後、約2年経過すれば、喫煙していない人と同程度まで心筋梗塞の発症率を低下させることが分かっています。喫煙のリスクは分かっていてもやめられない、という人は禁煙補助薬や禁煙外来の利用を検討してみましょう。

運動

日常的に軽い運動をする習慣をつけましょう。心筋梗塞の予防のためには、筋トレなどの無酸素運動よりもウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。運動の習慣をつけるのが難しいと感じている方でも、できるだけ階段を使う、歩く時は早足にする、など普段の生活にプラスできる習慣を心がけると良いでしょう。

生活習慣病の管理

生活習慣病を放置していると、動脈硬化・心筋梗塞の発症リスクが高まります。現在、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を指摘されている方は、医師の指導のもとこれらの治療に取り組みましょう。

過労を避ける

過労やストレスは心臓に負荷を与え、心筋梗塞の原因となることが分かっています。長時間の残業や休日出勤、またそれにより睡眠時間が短くなっているなど、慢性的な過労やストレスが続いている方は、現在の働き方を見直してみましょう。

心筋梗塞の治療と費用について

前述の通り、心筋梗塞は発症後、病院に到着する前に亡くなってしまう方が多い病気です。しかし心筋梗塞は治療ができないというわけではありません。病院に到着後できるだけ早く治療を受けられれば、約9割の人は助かるともいわれています。

心筋梗塞を発症したら、一刻も早く詰まってしまった冠動脈を開通させなければなりません。この治療を「再灌流(さいかんりゅう)療法」といいます。

再灌流療法には主に、カテーテルによる冠動脈血行再建(PCI)血栓溶解療法があります。

カテーテルによる冠動脈血行再建(PCI)

心筋梗塞の発症後、約12時間以内であれば主にPCIが行われます。

手首の動脈からカテーテル(細い管)を心臓まで挿入し、詰まっている部分を風船で広げた後、ステントという金属製の筒を留置する治療方法です。一般的には、病院到着から90分以内にPCIを行うことが求められます。

血栓溶解療法

心筋梗塞の発症後12時間以内、かつPCIが2時間以内にできない時には、血栓溶解療法が行われることもあります。

静脈から点滴で、血栓を溶かす薬剤を投与する治療方法です。基本的にはPCIが第一治療となり、PCIができない場合などに血栓溶解療法が検討されるケースが多いです。

心筋梗塞の治療費

心筋梗塞の治療費(3割負担の場合)
約40~60万円(PCI実施の場合)

心筋梗塞の治療費は症状や治療方法によっても異なります。治療費は高額療養費制度が適用されるため、実際の負担額は年収に応じた自己負担額となります。

まとめ

心筋梗塞を発症した人のうち約半数は、1〜2ヶ月前位から胸の痛みや圧迫感などの前兆症状を経験しています。

こういった前兆症状のある方や、生活習慣病などの既往歴がある方、また喫煙や過労などのリスク因子をもつ方は、まずは心筋梗塞の原因となりうる生活習慣を改善し、予防に努めるようにしましょう。

心筋梗塞を発症後は、一刻も早く治療を受けることが重要です。突然経験したことのないような強い胸の痛みがあらわれた場合や、そのような人を見かけたら、迷わずに救急車を呼ぶようにしましょう。