健康診断で不整脈といわれたら~最新治療と気になる費用~
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
何らかの原因により脈拍が一定の状態ではなくなる不整脈。不整脈には心配のないものと治療が必要なものがあることをご存じでしょうか。
不整脈で受診する人の9割は治療が必要のない不整脈といわれています。しかし中には、命にかかわる不整脈もあるため、健康診断で不整脈を指摘された方は、精密検査を行い、不整脈の種類を特定する必要があります。
この記事では、医師監修のもと不整脈の種類と、その中でも治療が必要な不整脈について詳しく解説していきます。
不整脈とは
一般的に、正常な脈拍数は1分間に60〜100回とされています。しかし何らかの原因により脈拍が一定でなくなる状態のことを不整脈といいます。具体的には「脈が速い(頻脈)」「脈が遅い(徐脈)」「脈が不規則」などが挙げられます。
心臓は、全身に血液を送り出すポンプとしての役割を担っています。脈拍のリズムは、右心房の「洞結節」から出る電気によって決まり、電気は心房を通って「房室結節」に辿り着くことで心室を動かして血液を全身に送り出しています。
心臓は1日に約10万回動いているのですが、その中で一回でも乱れたものがあれば、それは不整脈とされます。不整脈は、健康な人でも気が付かないうちに起こっていることもよくあります。
まずは不整脈の3つの種類についてみていきましょう。
期外収縮
期外収縮は正常なリズムの中に時々不規則な拍動があらわれるものをさします。不整脈の中でも最も多く発生するものです。
期外収縮は、主に洞結節ではない別の場所から電気が早めに出てしまうことが原因となり発生します。脈拍を測っている途中に脈が飛んだと感じたり、胸がドキドキする・胸がつまるような感じがするなどの自覚症状があらわれることもあります。
健康診断などで期外収縮を指摘された人のうち、およそ95%は治療の必要がないといわれています。しかし期外収縮は、心筋梗塞や心筋症でも発生することがあり、その場合は危険な不整脈に移行することがあるので注意が必要です。
頻脈性不整脈
頻脈性不整脈は、脈が速くなる不整脈のことです。頻脈性不整脈では、胸がドキドキする感じ・息がしにくい感じ・めまい・立ちくらみ・失神などの症状があらわれることがあります。
頻脈性不整脈の場合、脈拍数は1分間に120回以上、多くなると400回にも及ぶケースもあります。このように脈拍が異常に早くなってしまうと心臓は動きが伴わず、血液を全身に送り出すことができなくなってしまいます。
頻脈性不整脈の中でも、「心室細動」と「心室頻拍」という心室の異常の場合は、突然死につながる恐れが高まります。もし健康診断などで頻脈性不整脈を指摘されたり、気になる症状があれば早めに医療機関を受診するようにしましょう。
徐脈性不整脈
徐脈性不整脈とは、脈が遅くなる不整脈のことです。徐脈性不整脈では、めまい・失神・過度の疲労感・息切れなどの症状があらわれることがあります。
徐脈性不整脈の場合、脈拍数は1分間に60回未満となります。このように脈拍が遅くなってしまうと、必要な酸素を体中に行き渡らせることができなくなってしまいます。命にかかわるケースは少ないのですが、日常生活に支障をきたすことがあるので注意が必要です。
治療が必要な不整脈とは
一口に不整脈といっても、特に治療の必要のない不整脈もあれば、命にかかわる不整脈もあります。もし健康診断で不整脈を指摘された場合や、気になる症状がある場合には、医療機関を受診し、適切な検査を行うようにしましょう。
ここでは、治療が必要な6つの不整脈について解説していきます。
発作性上室性頻拍
発作性上室性頻拍とは、突然脈が速くなり、しばらく続いたあと急に元に戻る不整脈のことです。1分間に脈拍数は150回ほどと、速くなるのが特徴です。動悸のあとにふらつきやめまいなどの症状があらわれることがあります。
心房細動
心房細動とは、心臓内の「心房」に異常が起こり、細かく震えたような脈となる不整脈のことです。主な症状として、脈の乱れや動悸、めまいなどが挙げられますが、約半数の人は自覚症状があらわれません。
心房細動では、心臓の中で血液が停滞するため血栓ができやすくなります。それにより心房細動がない人に比べて、脳梗塞のリスクが約2~7倍高まるとの報告があります。
心房粗動
心房粗動とは、心房細動と同じく「心房」の異常ですが、リズムが規則的な不整脈のことです。主な症状として、動悸や失神が挙げられますが、無症状の人もいます。
脈拍が早くなればなるほど動悸などの症状があらわれやすく、命にかかわることもあります。
心室頻拍
心室頻拍とは、脈が速くなる頻脈性不整脈の一つで、脈拍数は1分間に120〜250回にもなります。
心室頻拍は、心筋梗塞や心筋症などの心疾患により発症するケースが多く、心室細動に移行し、命にかかわることもあります。
心室細動
心室細動とは、心室がけいれんを起こしたような状態になる不整脈のことです。心室細動は突然死につながることが多く、不整脈の中でも最も危険なタイプといわれています。
心室細動になると、血液を全身に送り出せなくなる心停止の状態に陥り、すぐに治療しなければ死に至ります。
洞不全症候群
洞不全症候群とは、心臓を動かす働きをもつ「洞結節」という箇所に異常が生じて、徐脈になる不整脈のことです。重度の洞不全症候群となると、めまいや失神などの症状があらわれることがあります。
不整脈の治療と費用について
不整脈の治療は主に内科(循環器内科)で行われます。
健康診断で不整脈を指摘された場合は、内科を受診し、より詳しい検査を行う必要があります。検査の結果、問題ない不整脈ということが分かれば経過観察となることも多いですが、
不整脈の治療とは
検査の結果、医師が必要と判断した場合は薬物療法・デバイス治療(ペースメーカーなど)・カテーテルアブレーション治療・手術療法が検討されます。
ここでは、それぞれの治療の特徴と費用について解説していきます。
薬物療法
不整脈による症状が出ている場合には、薬物療法が行われます。不整脈における薬物療法は、不整脈の種類によって不整脈の発生を予防する、不整脈発生の頻度を減らす、不整脈の症状を軽減するための薬などが用いられます。
デバイス治療
不整脈による強い症状がある場合には、デバイス治療が行われることがあります。主に、徐脈による失神などの症状がある場合にはペースメーカーの取り付け、心室細動や心室頻拍などの頻脈がある場合には植込み型除細動器(ICD)などの取り付けが検討されます。
カテーテルアブレーション治療
頻脈の原因となっている箇所が明らかな場合には、カテーテルアブレーション治療が行われることがあります。心臓内部にカテーテルを入れて、不整脈の原因である心筋組織を焼き切ることで、不整脈を根本的に治すことが可能です。
手術療法
上記の治療で改善されない不整脈に対しては、手術療法が行われることがあります。手術療法の一例として、心房細動に対するメイズ手術や、心筋梗塞を合併している場合に行われるドール手術などがあります。
不整脈の治療費について
健康診断で不整脈を指摘された、もしくは気になる症状があり医療機関を受診した際の治療費の目安は以下の通りです。
不整脈の治療費(3割負担の場合)
初診費:約5,000~1万円(検査費・薬代含む)
再診費:約2,000~3,000円
検査方法や薬の種類によって金額は変動することがあります。詳しくは受診する医療機関までお問合せください。
まとめ
不整脈には生理的なものもあり、9割の人は治療の必要はない不整脈であるといわれています。しかし、中には適切な治療を行わないと命にかかわるような不整脈もあります。
不整脈の治療方法は確立しているため、きちんと治療をすれば不整脈を抑え安心して生活することができます。健康診断で不整脈を指摘されたり、気になる症状があれば、まずは医療機関で適切な検査を受けるようにしましょう。