五十肩になったらどうする?~最新治療と気になる費用~
監修医師:郷 正憲(徳島赤十字病院)
保有免許・資格は日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。主な著書は『看護師と研修医のための全身管理の本』。
「肩に激しい痛みがある」「夜寝ている間も肩が痛い」「腕を後ろに回せない」など肩の症状でお悩みはありませんか。
そのつらい症状はもしかしたら五十肩かもしれません。
今回は五十肩について、主な症状・セルフチェック方法・治療方法や費用について詳しく解説します。肩の痛みや動かしにくさで困っていることを解消しましょう。
五十肩とは
五十肩の正式な名称は「肩関節周囲炎」といいます。発症するのは50歳前後が最も多く、生涯で五十肩になる人は人口全体の約2%といわれています。
自然回復することもありますが、症状が軽快するまで1年前後かかります。
なかには回復まで数年以上要するケースもあるため、適切な治療が必要です。
五十肩の原因や病態、症状について詳しく見ていきましょう。
五十肩の原因・病態
五十肩を発症するはっきりした原因は分かっていません。
肩の痛みが生じるメカニズムは、肩関節を構成する靱帯・腱・骨・軟骨の老化や変性により、関節の周囲に炎症が起きるためだと考えられています。肩関節に炎症が起きた後に、関節を包む関節包や動きを良くする滑液包に癒着が起きることで肩関節の動きに制限が現れます。
五十肩は問診・診察・画像診断(レントゲン撮影、MRI、超音波検査、関節造影など)を行って判断されます。
ほかの疾患や怪我など明らかな原因があって肩の痛みや肩関節の動きが悪くなっている場合は、五十肩には含まれません。
五十肩の症状
五十肩で主に見られる症状は、肩の痛みと肩関節の動きが制限されることです。
五十肩には時間の経過で症状が変わる特徴があり、病期は急性期・拘縮期(慢性期)・回復期の3つに分けられます。
病期ごとにどのような症状が現れるか解説します。
急性期
急性期は五十肩が発症してまもなく、肩関節周囲の炎症が最もひどい時期です。
動かすと激しい痛みがあります。夜間寝ているときや安静にしているときでも強い痛みが生じるため、日常生活に大きな支障が出ます。
拘縮期(慢性期)
肩関節の炎症はだんだん治まり痛みが軽くなってきます。しかし関節包や滑液包の癒着が起こるため、肩関節全ての方向で動きが制限されます。
関節の可動域を超えて動かそうとすると強い痛みが生じます。なかには肩のだるさや重さを感じる人もいます。
回復期
時間の経過とともに肩関節の癒着がだんだん消えていきます。夜間や安静時の痛みはほとんどありません。肩関節を可動域いっぱいまで動かすと痛みが生じます。
肩の動きに制限が残っていますが、リハビリやセルフケアで改善できます。
五十肩のセルフチェック
肩の痛みや肩関節の動きが悪くて気になる人はセルフチェックをしてみましょう。
以下の項目に当てはまるときは五十肩の可能性があります。
【五十肩のチェックリスト】
- 肩に激痛が走ったことがある
- 夜間に肩の痛みがひどくなる
- 肩の痛みがある方を下にして眠れない
- 寝返りを打つと痛みが走る
- 両腕を肩の位置から真上に上げられない
- 服を着たり脱いだりしたときに激しい痛みを感じる
- 両腕を背中に回すことができない
五十肩の疑いがあれば、次の3つの行動に気をつけるようにしましょう。
- 痛みが強いのに肩を無理やり動かす(マッサージやストレッチを含む)
→肩の炎症や痛みがひどくなり治癒が遅れます。 - 痛みがあるほうの肩を下にして寝る
→肩に大きく負担がかかり、症状が悪化したり夜間痛がひどくなったりすることがあります。 - 長期間何もしないで放置する
→自己判断はほかの疾患を見逃したり、回復が遅れたりする原因につながります。
五十肩の治療と費用について
五十肩の治療は、原則的に保存療法で経過を見ます。
保存療法には、痛みを抑えるための薬物療法とリハビリなどの理学療法があります。保存療法を続けていても改善がみられない場合に手術を行う場合があります。
それぞれの治療方法と費用について詳しく見ていきましょう。
薬物療法
薬物療法は主に痛みや炎症を抑えて、日常生活を過ごしやすくする目的で使われます。
内服薬・外用薬
主にロキソニンやボルタレンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や湿布剤、テープ剤が使われます。
外来処方箋料(3割負担の場合)
約200円
肩甲上神経ブロック注射
肩関節と肩甲骨周辺を支配している肩甲上神経に局所麻酔薬の注射をします。痛みの伝達がブロックされるため鎮痛効果が得られます。
肩甲上神経ブロック注射費用(3割負担の場合)
約500~660円(初・再診料などは別)
関節内ステロイド剤注射
ステロイド剤には強力な抗炎症作用があります。夜間や安静時に強い痛みが生じているときに大変有効です。肩関節内に薬液を直接注射します。
ただしステロイド剤注射は頻繁に行うと軟骨や腱がかえってもろくなるため、長期にわたる使用はできません。
関節内ステロイド剤注射費用(3割負担の場合)
約300~400円(初・再診料などは別)
関節内ヒアルロン酸ナトリウム注射
ヒアルロン酸は関節内の滑液に含まれる成分で、関節の動きを滑らかにして痛みを抑えます。
注射は1週間から2週間の間隔をあけて、5回ほど打つのが一般的です。
関節内ヒアルロン酸ナトリウム注射費用(3割負担の場合)
約500~600円(初・再診料などは別)
トリガーポイント注射
トリガーポイント注射は、筋肉が固くなっていて圧迫すると痛みを感じる部位に局所麻酔薬や消炎鎮痛剤を注射する治療です。痛みを緩和し、筋肉の緊張を緩める効果があります。
通常3~5回ほど継続して注射を行います。
トリガーポイント注射費用(3割負担の場合)
約300~400円(初・再診料などは別)
理学療法
理学療法は薬物療法と同時に行われます。理学療法には肩関節の動きを円滑にしたり、肩周辺の筋緊張をやわらげたりする目的があります。
運動療法
急性期の激しい痛みが軽減し、拘縮期に入るころからリハビリを始めます。
腕をさまざまな方向に動かせるようにする可動域訓練や、疼痛による安静で落ちた筋肉を回復させる筋力訓練があります。
リハビリ費用(1回あたり・3割負担の場合)
1単位(20分)約560円、2単位(40分)約1,110円(初・再診料などは別)
物理療法
物理療法は超音波、マイクロ波、低周波などの機器を使用する治療です。肩関節周辺の血行改善や筋痙縮を軽くする目的があり、リハビリと併用して行われます。
物理療法費用(3割負担の場合)
約100~150円(初・再診料などは別)
手術療法
薬物療法や理学療法を続けていても、肩関節の動きが改善しない場合は手術が行われます。
麻酔下徒手的授動術(サイレント・マニュピレーション)
サイレント・マニュピレーションは、手術をせずに固く動きにくくなった肩関節の可動域を広げる治療方法です。入院せず外来診療で行えます。
首もとにある肩関節の神経の根本に、超音波画像を使って確認しながら麻酔薬を注入します。 麻酔が効いたら、医師が患者さんの肩関節をあらゆる方向に動かしながら癒着している関節包を広げていきます。施術当日は麻酔が効いているため三角巾を着用します。
施術翌日から可動域の改善と癒着予防のためリハビリを開始します。再発を防ぐために1~3カ月ほど継続通院が必要です。
麻酔下徒手的授動術費用(1回あたり・3割負担の場合)
約6,000円
鏡視下肩関節包解離術
鏡視下肩関節包解離術は、内視鏡を用いながら肩関節の癒着部分を切り離す手術で、全身麻酔下で行われるため数日~1週間程度の入院が必要です。
肩に5mm程度の小さな穴を数カ所あけて、そこへ内視鏡を入れます。内視鏡で確認しながら肩の関節包をぐるっと1周切開していきます。手術直後は肩関節の可動域が広がりますが、動かさないでいると症状が再発してしまうため早期よりリハビリが必要です。
ただし術後は痛みがあるため、神経ブロックや鎮痛剤で症状を抑えながらリハビリを行います。
鏡視下肩関節包解離術費用(3割負担の場合)
約20~30万円
まとめ
五十肩は医学用語で肩関節周囲炎といい、主な症状は肩の強い痛みと肩関節の可動域制限です。症状が軽快するのに1年程度のこともあれば、数年以上かかるケースもあります。
治療は痛みを抑える薬物療法と肩の動きや筋緊張を改善する理学療法を併用するのが一般的です。しかし肩関節が固まって動きにくさが長引く場合は手術を行うことがあります。 激しい肩の痛みや肩関節の可動域制限を早く改善するために、適切な治療を受けるようにしましょう。