【医師監修】インプラントをする前に知っておきたい、メリットとデメリットとは
監修医師:若菜 康弘(若菜歯科医院)
鶴見大学歯学部大学院卒業。歯学博士。現在は若菜歯科医院の院長。
歯を失った場合にはさまざまな治療方法がありますが、その1つとして選択されるのがインプラントです。
1983年よりインプラント治療は開始されていますが、特に近年では入れ歯、ブリッジに続く第3の治療法として注目を集めるようになりました。
しかし、まだまだインプラントについて知らない方が多いのも実情です。
さらに、たくさんの魅力がある一方、費用面を含めてデメリットもあり、これらをしっかりと知っておくことが、より自分に合った治療を選択する道につながります。
今回は、インプラントをする前に知っておきたいメリット、デメリットについて詳しく解説していきます。
インプラントとは
そもそもインプラントとは、体内に埋め込む医療機器や材料の総称を指しています。聞き馴染みのあるものには人工関節や心臓のペースメーカーなどが挙げられます。
歯科で使うインプラントは人工歯根のことで、歯科インプラントというのが正式名称ですが、インプラントとと呼ばれるのが一般的です。そのため、ここからもインプラントという名称でご紹介していきます。
インプラントは、失われた歯の場所に埋め込むことで歯を補うための治療法です。
これまでは、虫歯で歯が失われたり、ケガをして歯が欠けたり抜けたりした場合にはブリッジをかけたり、入れ歯を作ったりするのが一般的でした。
しかし、インプラントという治療が多くの歯科でできるようになったことで歯を補うための新しい治療法として注目されるようになりました。
インプラントの構造について
インプラントの治療を知るためにはインプラントの構造も知っておきましょう。インプラントはおもに3つのパーツから作られています。
1つ目のパーツはインプラント体と呼ばれ、歯根部の役割を担います。この部分を顎骨の中に埋め込み、人工歯を装着します。
2つ目はアバットメントといい、インプラント体の上に取り付けて、歯根部と人工歯を結合させるものです。
3つ目は人工歯という歯にあたる部分でこの3つの部品でインプラントを作り上げていきます。
インプラントはチタンあるいはチタン合金という素材から作られており、近年ではよりインプラントと骨が結合できるようにさまざまな改変が結合部にほどこされています。
インプラントの治療期間は?
インプラントを顎の骨に埋入した後は、インプラントが骨としっかりと結合するために一定の期間が必要となるのですが、どのくらいの期間が必要になるかは、個人差やインプラントとの相性もあります。
そのため、治療が完了するまでには数カ月から1年程度かかることがあります。
これだけの長い時間をかけてインプラント施術をしているので、できれば長持ちさせたいと思う方が多いかもしれません。
インプラントがどのくらいの寿命があるのかどうかも、インプラントの素材や相性にもよるのですが、10年間の残存率は、部分欠損の場合上顎は91%前後、下顎は96%前後です。また、無歯顎の上顎は80%前後、下顎は97%前後になり、かなり高い確率で10年間はインプラントを残すことができます。
インプラントのメリットとデメリット
ここからはインプラントのメリットやデメリットについて詳しくご紹介します。
インプラントのメリット
インプラントをするメリットは主に4つあります。
残存している歯への負担がない
1つ目は残存している歯を活かして治療できるという点です。
入れ歯やブリッジなど他の治療ではあえて、残っている歯を抜いたり、削ったりすることがあります。しかし、せっかく残している歯を傷めるという選択肢はあまり望ましいものではありません。
インプラントは、残存している歯には手をつけずに治療ができるので、残した歯への負担がほぼありません。
美しい歯が手に入る
2つ目は審美的な点です。
インプラントはレジンと呼ばれるプラスチック、セラミックと呼ばれる陶器、セラミックとレジンを混ぜたハイブリッドセラミック、金合金などの素材から作られており、見た目は自分の歯そっくりです。
そのため、インプラント治療をしているとはばれにくいです。さらに真っ白な美しい歯が手に入るので審美的な面でも魅力となります。
自分の歯と変わらない機能性
3つ目は、自分の歯と同じくらいの機能が得られることです。
入れ歯やブリッジでは歯肉の上に装着しているという状態であり、根本を作ってはいません。そのため、噛み心地や着け心地に違和感を感じたあり、思いっきり噛むと歯がぐらついたりすることがあります。
しかし、インプラントは顎の骨に根本をしっかりと固定した状態で人工歯をつけているので、噛み心地は自分の歯とほとんど大差ありません。外れる心配もないので、そのリスクにおびえることなく大きな口をあけて笑ったり、話をしたりできるのです。
日頃の手入れが簡易的
4つ目は日頃の手入れが簡易的な点です。
入れ歯やブリッジの場合は食後に取り外してからブラシできれいにして、専用の洗浄液につけて洗浄をします。
洗う手間がかかるほか、洗浄剤を購入しなければならないため長い目で見てコストはかかるといえます。しかし、インプラントは通常の歯ブラシで自分の歯と同じように磨くだけでよいため、手軽にできます。また、専用の研磨剤などは必要なく、普段使用している研磨剤や洗口液を使えるので、余分な出費もかかりません。
もちろん、定期的なメンテナンスは必要になりますが、日頃の手入れが簡易な点はうれしいといえるでしょう。
インプラントのデメリット
インプラントのデメリットは主に3つあります。
誰しもが受けられるわけではない
1つ目は誰しもが手軽に受けられる施術ではないという点です。
インプラント治療は手術が必要なため、全身状態が悪い場合には適用が難しいことがあります。
例えば、以下のような病気に罹患している場合には、手術が受けられないことがあります。
- 高血圧症や心臓疾患などの循環器系疾患
- 喘息などの呼吸器系疾患
- 糖尿病
- 骨粗鬆症
- 腎臓や肝臓の機能障害
また、服用している薬を止めて手術をすると全身状態に影響を及ぼす場合や顎の骨が充分に無いという場合には手術ができません。手術が必要であるがゆえに誰でも手軽に治療が受けられないという点がデメリットになるといえます。
高額な費用がかかる
2つ目は費用がかかる点です。
入れ歯やブリッジは健康保険が適用されますが、インプラント治療は保険が適用されません。そのため、かなり高額な費用がかかります。
しかし、平成24年4月から以下の症例については保険適用となりました。
- 外傷や腫瘍等の病気で顎骨を失った場合
- 骨移植をおこなって再建した場合
- 先天的に歯や顎骨を欠損している場合
定期的なメンテナンスが必要
3つ目は定期的なメンテナンスが必要という点です。
インプラント治療は、治療後も定期的なメンテナンスが必要です。日頃のブラッシングなどのケアではインプラントをよい状態に保ち続けることはできません。インプラントの寿命を延ばすためにも治療をした歯科でのメンテナンスは必須といえます。
装着後1カ月、3カ月、6カ月、1年と1年以内は特に細かいメンテナンスが必要になるので、忙しくてメンテナンスに行く時間の確保が難しいという場合にはこの点もデメリットとなるでしょう。
インプラントはいくらかかる?
インプラントは健康保険適用外の治療であるため、費用は施術をする歯科医院によって異なりますが、一般的に治療全体で見ると30万〜40万円程度かかるのが一般的です。
ただし、インプラントは医療費控除の対象となるため、治療費の負担軽減ができるといえます。もしも治療に30万円かかってしまったのであれば、4万円程度は返ってきます。
まとめ
抜けた歯を補う治療として注目が高まるインプラント。
自分の歯と同じ機能を保ちつつ、見た目もきれいな歯に仕上げられる一方、時間も費用も掛かります。
更に手術が必要となるため、全身状態の管理も必要です。
インプラントの治療を受けようと検討される際には、まず自分がインプラント治療を受けられるのかどうか、歯科医院を受診してカウンセリングを受けることをおすすめします。
まずは、歯科でのカウンセリングをぜひご検討ください。