糖尿病の基礎知識〜最新治療と気になる費用〜

2023.06.21

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監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

さまざまな病気を合併しやすい「糖尿病」の患者数は、予備軍を入れると国内で約2000万人といわれています。糖尿病患者数は近年増加傾向にあり、今後もさらなる拡大が予想されます。身近な病気でもある糖尿病の正しい知識を学び、病気の早期改善と発症予防につなげることが重要です。

この記事では、医師監修のもと糖尿病の症状や治療法などについて解説していきます。

糖尿病とは

糖尿病とは、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の不足や機能低下により、高血糖の状態が続く病気です。

平成28年度の厚生労働省の調査によると、国内の糖尿病患者は約1000万人、疑いのある人でも約1000万人いるとされています。

糖尿病患者は年々増加してきています。その原因として、食生活や生活習慣の変化、日本人口の高齢化などが考えられています。

糖尿病にはインスリンが分泌できない「1型糖尿病」と、インスリンの量が少ない、あるいは効果が出にくい「2型糖尿病」の2種類に分かれます。一般的に「糖尿病」というと2型糖尿病を指すことが多く、糖尿病を抱える人の9割以上が2型糖尿病であるといわれています。

糖尿病の症状

糖尿病では、主に以下のような初期症状があらわれます。

  • 皮膚の乾燥
  • 感覚の低下または異常
  • 頻尿
  • 目のかすみ
  • 喉の渇き
  • 体重の減少
  • 疲労感
  • 免疫の低下   など

これらの初期症状はゆっくりと少しずつあらわれるため、はじめのうちは糖尿病だと気が付きにくいのが特徴です。

糖尿病の合併症

糖尿病が進行すると、以下のような合併症をともなうことがしばしばあります。

  • 糖尿病網膜症
  • 糖尿病性腎症
  • 糖尿病神経障害

これら3種類の合併症はまとめて「3大合併症」と呼ぶことがあります。

それぞれの合併症について詳しくみていきましょう。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症とは、目の網膜の障害です。

高血糖の状態が続くと、網膜に酸素や栄養を送っている毛細血管に大きな負担がかかります。それにより眼底出血や網膜剥離が起こることがあり、最悪の場合視力の低下や失明につながります。

糖尿病網膜症は、突然視力の低下や失明などの症状があらわれるわけではありません。「単純網膜症」といわれる初期段階から、「糖尿病網膜症」「増殖網膜症」という段階を経て、徐々に症状が悪化していきます。

糖尿病を患っている方は、現時点では視力低下などの症状がみられなくても、定期的に眼科を受診し、目の状態をチェックするようにしましょう。

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症とは、腎臓の機能が低下する障害です。

高血糖の状態が続くと、血液を綺麗にする働きの腎臓に負担がかかり、腎臓の機能が低下してしまいます。

初期の糖尿病性腎症は無症状の場合が多く、自覚しにくいのが特徴です。糖尿病性腎症が進行すると高血圧やむくみなどの症状が現れ、最終的に腎臓の機能不全により人工透析が必要となります。

糖尿病神経障害

糖尿病神経障害とは、神経に起こる障害です。主に運動障害・知覚障害・自律神経障害などの症状がみられます。

運動障害では手足や目の動きが悪くなることで歩きにくくなったり、物が二重に見えたりします。感覚障害では痛みや冷たさを感じにくくなる、手足が痺れるなどの症状が中心です。自律神経障害は、活動する「交感神経」とリラックスする「副交感神経」のバランスが乱れます。そのため立ちくらみや頻脈・徐脈など、自律神経に関わる症状が現れます。

その他の合併症

上記で挙げた3大合併症以外にも、糖尿病では以下のような合併症をともなうことがあります。

  • 心臓病(虚血性心疾患)
  • 脳卒中
  • 下肢の壊疽(えそ)
  • 歯周病   など

このように、糖尿病はさまざまな病気のきっかけとなることがあります。

また糖尿病による今後の不安や孤立感が原因となり、メンタル不調を引き起こすケースも多いです。英国の調査によると、糖尿病を抱えている3人のうち2人はメンタル面の問題を持っているという報告もあり、メンタルケアも並行して実施することが重要です。

糖尿病の治療法と費用

糖尿病の治療では、食事療法や運動療法などの生活習慣の改善に加えて、薬を使った治療が行われます。

ここでは、糖尿病の治療法と費用について詳しく解説していきます。

食事療法

糖尿病の治療として代表的なものの1つに食事療法があります。

食生活を見直し、栄養バランスを整えることで血糖値の上昇を防ぎます。食生活が乱れて糖質や脂質を過剰に摂取している人は、この食事療法が特に重要です。

食事療法は自宅で実施するので、特別費用はかかりません。定期的な栄養相談・診察を行う際は、3割負担で2,000円前後の料金を目安にしておきましょう。

運動療法

運動療法も糖尿病の治療として効果的です。

ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行うことで、糖質エネルギーが消費されます。さらにインスリンの効果も高まり、運動を継続するほど血糖値の低下が期待できます。

運動療法は自主的に行う必要があるので、この治療自体に費用がかかるわけではありません。

薬物療法

薬物療法とは、薬を使用して糖尿病の改善を目指す治療方法です。

糖尿病の薬物療法では、血糖値のコントロールを目的に、以下のような治療薬が用いられます。

  • 糖質の消化・吸収を調整する薬
    α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬 など
  • インスリンの分泌を促す薬
    スルホニルウレア薬、速効型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬 など
  • インスリンを効きやすくする薬
    ビグアナイド薬、チアゾリジン薬 など

このように糖尿病治療で用いられる薬は、多岐にわたっています。患者さんごとの体の状態や糖尿病のタイプによって適切な治療薬を使用して、血糖値のコントロールを目指します。

薬物療法の費用は、使用する薬の種類や量によっても異なりますが、1か月あたり3,000~5,000円程度を目安にしておきましょう。

糖尿病の最新治療

上記で紹介した治療法以外にも、糖尿病に対する新しい治療法の開発が進められています。

ここでは、今後期待されている最新の治療法についてご紹介します。

β細胞を増やす治療薬

1型糖尿病を抱えている人は、膵臓にあるインスリンを分泌する「β細胞」が壊されてしまいます。また2型糖尿病でも、加齢に伴い「β細胞」が減少するといわれています。この問題を解決するために「β細胞」を増やす治療薬が開発されています。

その詳細は、2型糖尿病の治療で広く使われている「GLS-1受容体作動薬」と、新しく開発している「ハルミン」と呼ばれる治療薬を組み合わせる方法です。臨床研究では、実際にβ細胞を増やすことに成功しており、1型糖尿病の新しい治療法として期待されています。

超音波療法

超音波を活用した糖尿病の治療法も米国で開発されています。超音波で特定の神経を刺激することで、血糖値のコントロール機能(耐糖能)やインスリンの効果が改善できるといわれています。

臨床実験では、実際に糖尿病の予防・改善の効果が実証されました。世界では、超音波や磁気などの刺激で神経を調節する技術「ニューモジュレーション」が注目されています。その1つである超音波療法には即効性があり、副作用も少ないといわれているため、安全性の高い治療法として今後が期待できます。

まとめ

糖尿病は少しずつ進行する病気なので、気付かないうちに症状が悪化するケースも多くみられます。糖尿病を放置すると重篤な病気につながる危険性もあるので、早期からの発見と対策が重要です。

糖尿病患者の増加を防ぐためにも、症状を理解しつつ、身体の変化に気づけるように意識してみましょう。また新しい治療法も開発中なので、今後は糖尿病を改善するための選択肢の幅も広がってくるでしょう。