【医師監修】糖尿病は健康診断を受けていれば安心?糖尿病疑いとは?

2023.06.21

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監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。

「糖尿病の疑いって何?」「健康診断で問題なければ糖尿病を心配しなくてよいの?」など、糖尿病に関することで疑問をお持ちの方はいませんか?

糖尿病には「食事制限がある」「定期的な通院が必要でめんどう」のようなマイナスイメージをお持ちの方が少なくありません。そのイメージから、健康診断で糖尿病疑いと指摘されたにも関わらず、再検査を先送りにしてしまう方もいるでしょう。

今回は、健康診断が糖尿病の発見に役立つのか、そして糖尿病の疑いといわれたらどうすればよいのかについて解説します。

健康診断で行う糖尿病に関する検査

一般的な健康診断の中で糖尿病に関する項目は主に「空腹時血糖(あるいは随時血糖)」と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の2種類があります。

それぞれの項目と診断基準についてみていきましょう。

空腹時血糖

空腹時血糖は、最後の食事から10時間以上経過したところで測定した血糖値のことです。食事に影響されない状態の安定した値を調べることで、糖尿病の可能性があるかどうかを判断できます。

空腹時血糖の基準値は以下の通りです。

血糖値(mg/dL)〜99100〜109110〜125126以上
正常正常高値境界型(糖尿病予備軍)糖尿病型

最後の食事から10時間あけられなかった場合は、3.5時間以上あけた「随時血糖」を使うこともあります。随時血糖の場合は基準値が異なり、200mg/dLで糖尿病型と診断されます。

また正常高値の方でも、詳しく調べてみると糖尿病と診断されることがあります。「正常」とついていても油断せず、再検査の指示があれば従うようにしてください。

境界型と糖尿病型の方は、再検査にて「ブドウ糖負荷試験」が行われることが多いです。

ブドウ糖負荷試験では、ブドウ糖を溶かしたサイダーのような液体を飲み、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を測定します。それにより空腹時だけでなく食後の血糖値の動きをみることができ、より確実に糖尿病かどうかの判断ができます。

HbA1c

HbA1cは、血液中のヘモグロビンのうちブドウ糖がくっついたものの割合のことで、過去1~2か月の血糖値の良し悪しを反映する指標となります。HbA1cの数値が高ければ、過去1~2か月間の血糖値が高かったと推測されます。

HbA1cの基準値は以下の通りです。

HbA1c(%)〜5.6〜6.0〜6.56.5以上
正常正常高値境界型(糖尿病予備軍)糖尿病型

HbA1cは、血糖値とは異なり食事のたびに上がったり下がったりはしません。そのため健康診断の数日前から食べ物などに気をつけたとしてもHbA1cの数値は変動せず、糖尿病かどうかの判断基準として使用できるのです。

実際に糖尿病と診断されたあとも、血糖値のコントロールがうまくいっているかどうかを判断する基準として、HbA1cが使われます。

健康診断で見つかりにくい「隠れ糖尿病」

健康診断では空腹時血糖とHbA1cを調べますが、じつは「空腹時血糖とHbA1cが低かったから、糖尿病は全く問題ない」というわけではありません。

それは「隠れ糖尿病」といわれる食後高血糖の可能性があるからです。

隠れ糖尿病とは?

隠れ糖尿病とは、空腹時血糖やHbA1cの数値は問題ないけれど食後の血糖値が高い状態のことを指します。

血糖値を下げるのは、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンです。
血糖値は食事を摂ると一時的に上昇しますが、通常であれば「インスリン」の働きで食後2時間以内には元に戻ります。ところが、インスリンがうまく働いていなかったり、分泌量が少なかったりすると、食後2時間たっても血糖値が下がり切らない「食後高血糖となります。

食後高血糖かどうかを見分けるためには「75g経口ブドウ糖負荷試験」の検査が必要ですが、これは通常の健康診断や人間ドックなどでは行わないことが多いです。

食後高血糖の状態が続くと糖尿病につながることもあるため、もし「昼食後に異常な眠気におそわれる」「喉が渇いて水をたくさん飲んでしまう」などの症状があれば、一度医療機関を受診することをおすすめします。

HbA1cが正しい数値にならない場合もある

前述の通り、HbA1cは糖尿病の診断に広く用いられる項目の1つです。しかし場合によっては、このHbA1cが正しい数値にならないこともあります

例えば貧血の方は、赤血球の寿命が通常よりも短くなる影響で、HbA1cの数値が高くなりがちです。逆に貧血の治療をしている方(鉄剤を飲んでいたり、注射薬を使っていたりする方)は、赤血球の寿命が伸びてくることでHbA1cの数値が低くなることがあります。

また、タバコを吸う方やCOPDなどの肺疾患がある方、心不全の方などは体が酸素不足になることで赤血球が増える傾向にあり、HbA1cの数値が低く出てしまうケースもみられます。

このようにHbA1cの数値が正しく反映されない可能性がある場合には、「グリコアルブミン」という指標が有用です。このように糖尿病の疑いで再検査となった場合には、一人ひとりの状態に合わせて検査方法を変えることもあります。

健康診断で糖尿病が疑われたら

健康診断で糖尿病の疑いと指摘されたものの、忙しくなかなか再検査に行く時間がとれないという方もいるかもしれません。しかし再検査はできるだけ早いうちに行くようにしましょう

ここでは健康診断で糖尿病が疑われた場合の再検査について解説していきます。

再検査の必要性について

早めに再検査を行うことで、現在の体の状態を正確に調べ、適切な対応をとることができます。糖尿病予備軍(境界型)の方は「まだ糖尿病じゃないから大丈夫」と油断をせずに、糖尿病を発症させないための対策を講じる必要があります。

また前述の通り、HbA1cの数値が貧血などの原因で正しく反映されなかった可能性もあります。詳しく検査することで、糖尿病の心配はないと安心することができるかもしれません。

糖尿病予備軍の方は、数年以内に糖尿病を発症する可能性が高いといわれています。また糖尿病予備軍の段階から動脈硬化の進行が始まることがわかっています。

動脈硬化は高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などあらゆる病気を引き起こす原因となります。さらに糖尿病が発症した時点で、インスリンを分泌する力はすでに30〜40%程度にまで落ちているといわれています。

健康診断で糖尿病の疑いと指摘されたら、なるべく早いうちに再検査に行きましょう。

再検査はどこで行う?

糖尿病の再検査は、かかりつけの内科がある場合には、そちらで再検査の相談をすると良いでしょう。

とくにかかりつけの病院がない場合には、「内科」を標榜しているクリニックを探してください。「糖尿病内科」「内分泌内科」などは糖尿病を専門的に扱う診療科ですが、再検査の段階であれば、必ずしもそういったクリニックにかかる必要はありません。

糖尿病はきちんと通院を続けることが大切です。通いやすさ・予約が取れるかどうかなど、ご自身が通院を続けられるような条件が整っているかも医療機関選びのポイントになります。

まとめ

今回は、健康診断における糖尿病の検査と、「糖尿病の疑い」がわかったときにどうすべきかについて解説しました。

糖尿病は、健康診断だけでははっきりとした診断をつけることはできません。健康診断で糖尿病の疑いを指摘された方は、しっかりと再検査をおこない、早期発見につとめましょう。