不妊症の定義や割合は?女性と男性の不妊症について詳しく解説
監修医師:馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
筑波大学医学専門学類卒業 。 現在は宮の沢スマイルレディースクリニック(札幌市)院長として勤務 。専門は産婦人科。
不妊症は、なんらかの原因により健康な男女が性交をしているのにもかかわらず一定の期間妊娠しないことを指します。一度も妊娠を認めない「原発性妊娠」と過去に妊娠の経験がある場合の「続発性不妊」に分かれます。
不妊治療というとハードルが高いと感じたり、検査をすることに抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし年齢を重ねるごとに妊娠しにくくなるため、不妊かもしれないと悩んでいる方は、できるだけ早めに検査・治療を行うことが勧められます。
ここでは、医師監修のもと不妊症の定義や割合、男女それぞれの不妊症について詳しく解説していきます。
不妊症とは
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
一般的に、避妊をせずに排卵日付近に性交をした場合の妊娠の確立は約20%といわれています。これが1年間では約80~90%となりますが、1年を経過しても妊娠に至らなかった場合には、不妊症の検査や治療をすることが勧められます。
ただし妊娠確率は年齢によっても変動してくるので、35歳以上のカップルの場合は半年程で治療を開始するケースもあります。
妊娠を希望しているにも関わらず、一定期間妊娠に至らないという場合は、一度体の状態を調べるためにも検査を行うことをおすすめします。
不妊症の割合
以前は不妊のカップルは約10組に1組といわれていました。しかし近年、初婚年齢の上昇や、「子どもを持ちたい」と考える年齢が上昇してきたことにより、不妊のカップルは増加傾向にあるとの報告もあります。
これは決して日本だけの問題ではありません。2023年4月WHO(世界保健機関)は、世界全体で一生のうちに不妊症を経験する人の割合は約17.5%と発表しました。
前述の通り、妊娠率は男女ともに年齢を重ねるにしたがい、低下していきます。その一方、初婚年齢の上昇などの要因により、高齢出産(35歳以上の初産婦)の割合は増加傾向にあります。
高齢出産は母子共に健康リスクが生じる可能性が高まることも事実です。しかし高齢出産だからと言って必ずしも妊娠・出産を諦める必要はない、ということも頭に入れておくと良いでしょう。
女性の不妊症
「不妊症」とはそれ自体が病気というわけではありません。しかしさまざまな病気や体の状態が不妊症の原因となっていることもあり、その場合は原因となっている病気に対する治療が行われます。
ここでは女性の不妊症の主な原因や治療について詳しく解説していきます。
女性の不妊症の原因
女性の不妊症の原因としては主に以下のようなことが挙げられます。
- 排卵の障害
- 卵管の閉塞
- 着床の障害
- 免疫によるもの
- 黄体ホルモンの分泌不全
- 加齢による影響 など
女性の不妊症が疑われる場合は、内診・超音波検査・子宮卵管造影検査・血液検査などを行い、不妊の原因となっている疾患などがないかどうかを調べます。
ただしこれらの検査を一通り行っても、特別な原因が見つからないというケースも少なくありません。こういった原因不明の不妊症のことを「機能性不妊症」と呼びます。
また上記のような原因が複数組み合わさっている場合や、女性側男性側それぞれに不妊の原因がある場合など、不妊症にはさまざまな要因が考えられます。
女性の不妊症の治療
不妊症の治療は、原因が特定されていれば原因や状況に合わせた治療を行います。
主な治療は以下の表の通りです。
原因 | 治療 |
排卵の障害 | ・ホルモン製剤などを用いて排卵誘発を行いながら、タイミング法や人工授精を行う |
卵管の障害 | ・体外受精を行う |
着床の障害 | ・体外受精を行う ・顕微受精を行う |
免疫によるもの | ・人工授精を行う ・体外受精を行う |
黄体ホルモンの分泌不全 | ・ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)で黄体ホルモンの分泌刺激を行う ・黄体ホルモン剤を使用する |
原因不明(機能性不妊症) | ・排卵に合わせて性交渉のタイミングを図る ・排卵誘発法を行う ・人工授精を行う ・体外受精を行う |
タイミング法
タイミング法とは、排卵の約2日前の最も妊娠しやすいと言われている時期に性交を持つようにする方法です。卵胞の大きさや尿中のホルモンを測定し、排卵日を推定します。排卵日の周辺で数回の通院が必要になります。
排卵誘発法
排卵誘発法とは、内服薬や注射で排卵を促す方法を指します。
人工授精
人工授精とは、マスターベーションで採取した精液から良好な精子を取り出し、最も妊娠しやすい時期に子宮内に注入する方法です。
体外受精・顕微授精
体外受精や顕微授精は、生殖補助医療といいます。膣の方から細い針を穿刺して卵巣から卵子を取り出し、体外で精子と受精させ、数日後に子宮内に受精卵(胚)を戻す方法です。
男性の不妊症
不妊症は、女性に原因があるとイメージされる場合が多いですが、男性に原因がある場合と、女性側に理由がある場合は、ほぼ同じ割合だといわれています。
ここでは男性の不妊症の原因について詳しく解説していきます。
男性の不妊症の原因
男性の不妊症の原因としては主に以下のようなことが挙げられます。
- 造精機能の障害
- 精路通過の障害
- 性機能の障害
- 加齢による影響 など
男性の不妊症が疑われる場合は、精液検査・超音波検査・血液検査などを行い、不妊の原因となっている障害がないかどうかを調べます。
男性の不妊症の治療
男性の不妊症の場合も、女性と同様に原因や状況に合わせた治療が行われます。
主に以下のような治療があります。
原因 | 治療 |
造精機能の障害 | ・人工授精を行う ・体外受精を行う ・顕微受精を行う |
精路通過の障害 | ・精路再建手術を行う ・精巣精子採取術を行い、顕微授精を行う |
性機能の障害 | ・勃起障害治療薬などでの治療を行う ・マスターベーションの方法を矯正する ・逆行性射精ではプソイドエフェドリン・イミプラミンなどの薬剤で治療を行う ・人工授精を行う |
精路再建手術
精路再建手術とは、精子の通り道に閉塞がある場合にその部分をとりのぞく手術を指します。
精巣精子採取術
精巣精子採取術とは、陰嚢の皮膚を小さく切り、精巣組織の一部を採取する手術を指します。採取した精子は、顕微受精で卵子と受精させます。
まとめ
不妊症は、カップルの4組に1組の割合で男女や年齢問わず誰もが起こりうる可能性のあるものです。
不妊症の主な原因は、男性側、女性側、または両方そして原因不明なものまでさまざまです。
不妊症の治療は長期にわたる場合もありますが、原因をもとに適切な治療を継続していくことで、妊娠が期待できます。
妊娠を望む健康な男女のカップルに性交があっても一定期間妊娠がなければ、早めに医療機関を受診するようにしましょう。