梅毒とは〜最新治療と気になる費用〜
近年、感染者数が急激に増加している梅毒。梅毒は性的接触により「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染することで発症します。
梅毒に感染している女性が妊娠する、または妊婦への梅毒感染により、胎盤を通して胎児にも感染し、胎児の死亡や、産まれてきても障害が残ってしまうこともあります。
性感染症はなかなか人に相談しづらかったり、気になる症状などがあっても放置してしまう方も少なくありません。ただし梅毒は自然治癒することはほとんどなく、治療が遅れることでさまざまな全身症状を引き起こすリスクが高まります。
この記事では、医師監修のもと、梅毒の原因や症状、また検査や治療について詳しく解説していきます。
梅毒とは
梅毒とは、「梅毒トレポネーマ」という細菌により起こされる性感染症です。
日本では1948年に梅毒の報告制度ができて以来、梅毒患者は1967年(年間約11,000人)をピークに減少し、1,000人未満で経過していました。ところが2013年から1,000人を越すようになり、2016年以降急激に増加しています。そして、2022年には12月下旬の時点で12,757人の報告があり、報告制度以来最高の患者数となっています。
2021年の梅毒患者数の性別・年代別順位は以下の通りです。
男性 1位:20代後半 739人 女性 1位:20代前半 922人
2位:30代前半 693人 2位:20代後半 578人
3位:30代後半 687人 3位:30代前半 296人
女性は特に20代が多いのですが、男性は30〜40代まで600人台で大きな差はありません。(参考:国立感染症研究所:感染症発生動向調査事業年報.第4-1表)
梅毒の原因
梅毒は、感染経路により2つに分類されます。
先天梅毒:胎児が母体内で胎盤を通して感染したもの
後天梅毒:先天梅毒以外のもの
梅毒感染者のうちほとんどは後天梅毒であり、キスや性行為、性的接触により「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染することが原因となっています。
しかし近年、若い女性の梅毒感染者数の増加に伴い、先天梅毒の増加が懸念されています。妊婦が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児へも影響を及ぼします。
先天梅毒は、適切な治療をしないと約40%の確率で母子感染するといわれています。また先天梅毒の怖いところは、治療(服薬)をしても約14%では母子感染がみられるという点です。
現在妊娠中の女性だけでなく、今後妊娠を望む女性やそのパートナー、もちろんそれ以外の人においても感染を広げないために十分注意が必要です。
梅毒の症状
梅毒トレポネーマに感染すると、全身にさまざまな症状があらわれます。
しかし梅毒は症状が出る時期(顕症梅毒)と無症状の時期(無症候梅毒)を繰り返すため、症状がなくなったからといって梅毒が治ったわけではありません。無症状であっても、体内では梅毒トレポネーマが増殖し続けているため、早めに治療を受けることが重要です。
梅毒は、感染してからの期間により第1期〜4期に分類され、それぞれ異なる症状があらわれます。また感染してすぐは症状があらわれず、約3週間の潜伏期間を経て最初の症状が出現します。
第1期梅毒の症状
第1期梅毒とは、感染から約3週間~3か月の初期段階の梅毒をさします。
主な症状は以下の通りです。
- 性器や口にできる1〜2cm程度のしこり
- しこりが硬く盛り上がり、中心に潰瘍ができる
- 足の付け根のリンパ節の腫れ など
第1期梅毒のしこりや潰瘍は痛みを伴わないことが多いです。またこれらの症状は、放置していても約2〜3週間で消えていきます。
第2期梅毒の症状
第2期梅毒とは、感染から約3か月~3年経過した梅毒をさします。第1期の症状が消えたのち、二度目の潜伏期間を経て全身にさまざまな症状があらわれます。
第2期梅毒の特徴的な症状の1つに「バラ疹」というものがあります。
バラ疹は第2期の最も早い時期にみられ、体幹を中心に顔や手足に1cm程度のピンク色の発疹ができます。発疹の様子が小さなバラの花に似ていることから、バラ疹と呼ばれています。一般的に痛みやかゆみは伴わないことが多く、アレルギーや他の感染症との見分けがつきづらいこともあります。
他にも第2期梅毒では、以下のような症状があらわれることがあります。
- 丘疹性梅毒疹
(体幹や顔、手足に1〜2cm位の赤茶色の丘疹ができる) - 梅毒性乾癬
(手のひらや足の裏にできた丘疹性梅毒疹の上の皮膚がポロポロと剥がれる) - 扁平コンジローマ
(肛門の周りや外陰部に出現する平たく隆起した顆粒状のいぼ) - 梅毒性アンギーナ
(扁桃を中心に軟口蓋に発生する炎症) - 梅毒性脱毛
(頭皮全体または一部の脱毛) - 膿疱性梅毒疹
【多数の膿んだいぼができる) など
これらの症状は、一般的に数週間程度で自然に消えますが、再発を繰り返すこともあります。
第3期梅毒、第4期梅毒(晩期顕性梅毒)
感染から約3年経過した梅毒を第3期梅毒、約10年経過した梅毒を第4期梅毒といいます。
現在では抗菌薬の普及などにより第3期、第4期梅毒はほとんどみられません。しかし治療をせずに長期間放置していると、全身に炎症ができ、以下のような症状があらわれることがあります。
- 結節性梅毒疹(顔に赤茶色っぽいしこりができる)
- ゴム種(皮膚、骨、筋肉、肝臓や腎臓にできるゴムのような腫瘍)
- 大動脈炎や大動脈瘤
- 脊髄ろう(体の痛みや歩行障害や感覚障害、排尿障害など) など
梅毒の検査・治療
梅毒は早期にきちんと治療をすることで治る病気です。ただし治療が遅れたり、放置しておくと前述の通り全身にさまざまな症状を引き起こし、最終的には死に至ることもあります。
また妊娠女性が治療せずに梅毒の感染が胎児に及ぶと、胎児の死亡や産まれてきても障害が残ってしまうこともあります。
梅毒が疑われる場合は、できるだけ早めに検査を受けるようにしましょう。また梅毒は、性的接触によって感染するため、パートナーと一緒に検査・治療を受けることが勧められます。
梅毒の検査は、各医療機関または保健所にて血液検査(抗体検査)を行います。保健所での検査は原則無料、匿名で受けられます。ただし検査の結果、梅毒の感染が判明した場合は、医療機関での治療が必要となります。
薬物療法
梅毒の治療には、ペニシリン系抗生剤を使用します。これまで内服薬のみでしたが、日本では2021年に筋肉注射薬(ベンジルペニシリンベンザチン水和物)が承認され、治療の選択肢が広がりました。
内服薬は、病期によって2週間〜12週間継続して服用します。内服は長期間となりますが、症状がよくなっても自己中断せず最後まで飲みきることが重要です。注射薬の場合は1回の投与のみで治療が可能です。(感染から1年以上経過した梅毒の場合は、計3回の投与)
梅毒の治療費(3割負担の場合)
内服薬:約1,000~3,000円
筋肉注射:約3,000~9,000円
梅毒の治療は保険適用となりますが、もし保険証を使いたくないなどの事情があれば、事前に医療機関に相談してみると良いでしょう。
まとめ
梅毒の患者数は近年増加傾向にあり、2022年は報告制度開始から最大の患者数となっています。
梅毒に感染して症状が出ても、数週間経つと症状は消えます。ただしそれは治ったわけではなく、体内では細菌が増殖し続けています。
梅毒の検査は保健所であれば、原則無料・匿名で行うことができます。また梅毒は薬で治すことができるため、気になる症状や不安なことがあれば早めに検査を受けるようにしましょう。