【医師監修】乳がんのステージと治療方法について
監修医師:甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室)
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科を卒業後、心臓血管外科として勤務。国家公務員共済組合連合会 大手前病院 救急科医長を務め、現在はTOTO関西支社健康管理室に産業医として勤務。
乳がんは早期発見、早期治療により多くの方が完治しやすい病気といわれています。近年乳がんを発症する人が増加傾向にあり、それに伴い医療技術も年々進化してきています。
がんは必ずしも「治らない怖い病気」というわけではありません。適切な時期に適切な治療を受けることで再発リスクを抑え、根治を目指せる病気へと変化してきています。
ここでは、医師監修のもと乳がんのステージと治療方法について詳しく解説していきます。
乳がんのステージ分類
乳がんの進行程度を表す指標としてTNM分類というものがあります。
- T: Tumor(腫瘍)しこりの大きさ
- N:Lymph node(リンパ節)リンパへの転移状況
- M:Metastasis(転移)多臓器への転移状況
これらを総合的に診断し現在の乳がんの状態がどれくらいであり、どのような治療が必要となるのかを判断する指標となります。ステージは主に0〜4期に分かれており数が大きいほど進行度も高いといえます。
ステージごとの生存率
乳がんのステージごとの5年生存率は以下の通りです。
乳がんの5年生存率(実測)
- ステージ1:97.4%
- ステージ2:93.1%
- ステージ3:77.7%
- ステージ4:37.7%
参考:がんの統計2022「全国がんセンター協議会加盟施設における5年生存率(2011~2013年診断例)」
乳がんは早期発見であればあるほど生存率は高まります。腫瘍が比較的小さく、リンパ節への転移のない(またはあってもわずかである)ステージ1の乳がんであれば、5年生存率は97.4%と高い数字であることが報告されています。
乳がんの治療方法
乳がんの治療は病状にあわせた治療の選択だけでなく、本人のライフステージや年齢によっても変わることがあります。担当医とよく相談のうえで治療法を選択していくことが重要です。
乳がんの治療方法の選択は、一般的に乳がんのステージ分類に基づいて行われます。ステージⅢA期まではがんを全て摘出できる可能性のあるステージとされているため、治療の第一選択は手術となります。がんの進行具合によって手術だけでは治療が困難と判断された場合は、薬物治療や放射線療法が並行して開始されます。
乳がん治療で行われる手術は大きく分けて「乳房温存術」と「乳房全切除術」の2種類があります。それぞれの特徴についてみていきましょう。
乳房温存術
乳房温存術とは、乳頭や乳輪を温存し腫瘍を中心とした乳腺を部分的に切除する手術のことです。術後は放射線療法で、がん発生の可能性のある組織を放射線療法で消失させます。乳房温存術では胸に手術痕は残るものの、胸そのものは温存できるため見た目の大きな変化はありません。
ただし、以下のような場合には乳房温存術が適さないこともあります。
- 乳房内の石灰化が広範囲に広がっている
- しこりが離れた箇所に2つ以上ある
- 腫瘍が大きい
- 妊娠中である など
乳房を残しておけることは、乳房温存術の最も大きなメリットであるといえますが、一方で乳房を残しておくことで再発または新たな乳がんが発生するというデメリットもあります。
また乳房温存術の術後は、一般的に放射線治療が必要となるため、妊娠中など放射線治療ができない患者さんにおいては適さないこともあります。
乳房全切除術
乳房全切除術とは、がんが発生した部位側の乳房を全て切除する手術のことです。広範囲に渡り病巣部位を切除するため、再発の可能性は低くなるというメリットが挙げられます。
一方で、乳房全切除術を行うと片方の乳房が失われるため、ボディイメージの大きな変化を伴います。また乳房温存術と比べると傷の範囲も広いため、術後の痛みやしびれなどが強く残ることもあります。
全摘手術を行うことは女性にとって大きな喪失感を伴うものです。しかし最近では医療技術も進化しており乳房再建術も以前と比べ再現度も高く、片方の乳房と同じような形で形成することも可能です。
その他にも手術だけではなく術後専用の下着やシリコンパッドなどを使用して補正することもできます。シリコンパッドに関しては傷を守る役割も同時に果たすことができるため、手術を検討している間に一旦使用してみるのも良いでしょう。
乳房温存術と乳房全切除術はそれぞれメリットとデメリットが異なります。病状や体の状態によっては手術方法を選択できないこともありますが、医師とよく相談のうえで、最終的な治療方針を決定していくことが重要です。
乳がんの治療にかかる費用
がん治療は高額だというイメージがあり、治療を始めるにあたり経済的な不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。
乳がんの治療費は病状や治療方法、また医療機関によってもさまざまです。一般的に手術が必要となった場合の治療費の目安は以下の通りです。
乳がんの手術費用(3割負担の場合)
乳房部分切除術:約9〜12万円
乳房全切除術:約8〜15万円
上記手術費用に加えて入院費や食事代、薬代なども発生します。それらも含めて保険適用(3割負担)で約20〜40万円の自己負担額が必要となるケースが多いです。
民間の保険に加入している場合は担当者に事前に相談しておきましょう。加入内容によっては民間保険がカバーしてくれるため治療方法の選択肢が広がるほか、自己負担も抑えることができます。
その他にも高額な治療費となるため「高額療養費制度」が適応となります。この制度は個人の収入状況に応じて医療機関等の自己負担額の限度が定められており、それを越えた金額の場合は還付を受けることができます。
まとめ
乳がんは早期発見、早期治療により根治が目指せる病気です。
乳がんの治療方法は、本人の希望や年齢を考慮したうえで、最終的にはがんの進行度合いや体の状態に合わせて決定されます。乳がんの手術は特に女性のボディイメージへの大きな変化が伴います。不安な点や分からないことなどがあれば、必ず主治医に相談のうえ、納得のいく治療方法を見つけていくようにしましょう。
場合によってはセカンドオピニオンなどの手段を活用し新たな意見を参考にしながら、治療方法を決定していくこともおすすめします。
乳がんを治すことはもちろん、今後のライフステージなどについてよく考え、患者さん一人ひとりに合わせたベストな治療法を選択していくことが重要です。