【医師監修】食道がんは健康診断で分かる?どんな検査方法があるの?

2023.10.16

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監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。

今や国民の2人に1人が経験するというがん。医学が発達しているとはいえ、未だ根治しきれないがんも多く医療技術の進歩が待たれる疾患の一つです。

一方で、これからの医療はがんにならない体づくり、いわゆる予防医学にもスポットが当てられ、自身の食生活や生活改善をすることで、ただ長生きをするのではなく「健康的に生きる」ことへの重要性が叫ばれています。

今回は「食道がん」にスポットを当て、食道がんの早期発見の重要性や予防方法について解説しています。

食道がんとは

食道は、私たちの命を守るために、どのような役割を担っているのでしょうか。

食道とは、のどと胃の間をつなぐ細長い臓器を指し、口から食べた食物を胃に送り込む働きをしています。長さは25cm程度ですが、そのうちの約20cmが胸の中にあり、残りは首と腹部につながっています。

食道の出口には、胃の内容物を逆流させない機能が備わっていますが、食道そのものに、胃のような消化機能はなく、いわゆる食べ物の通り道としての役割をしています。

その食道部分の粘膜に発生するがんが「食道がん」です。

食道がんの特徴は?

食道がんの約半数は食道の真ん中あたりに発生すると言われていますが、一ヵ所だけでなく同時に数個できるケースも稀ではありません。

発生率はそれほど高くないものの早期発見が難しいことや、食道の周りにあるリンパ節に浸潤しやすく、発見したときにはすでに他の臓器に転移しているケースも多いため、厄介ながんの一つと言われています。

発症するのは圧倒的に男性に多く、年代は60〜70歳代がピークです。

食道がんは主に「扁平上皮がん」と「腺がん」の二つのタイプに分かれますが、「扁平上皮がん」は粘膜の表面にある上皮から発生するがんのことで、日本人の食道がんの9割以上がこのタイプです。

一方「腺がん」は、腺組織とよばれる上皮組織から発生し、日本人がかかる割合は10%以下と比較的少ないタイプのがんですが、欧米ではこのタイプが60〜70%を占め、最近では特に白人男性に増えているがんの一つです。

食道がんの検査方法

食道がんの検査方法は、以下のようなものがあります。

  • 血液検査(腫瘍マーカー)
  • 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
  • 超音波内視鏡検査
  • 上部消化管造影検査
  • CT検査
  • 頸部・腹部超音波検査
  • PET検査   など

最終的には、他の検査結果を含めて総合的に判断し、病名を確定します。

血液検査(腫瘍マーカー)

がん細胞が体の中にあると、がんによって生み出された、たんぱく質や酵素など、いわゆる「腫瘍マーカー」の数値が高くなり、血液検査で異常値を示すことがあります。

ただし、この方法はあくまでも補助的な方法で、飲酒や喫煙による生活習慣の乱れや、服用している薬によって数値が変化することもあり、診断を確定するものではありません

上部消化管内視鏡検査

口や鼻から内視鏡(カメラ)を挿入し食道の粘膜を直接調べる方法で、早期にがんを発見するために最も有効な検査です。
なぜなら内視鏡であれば、がんの場所を発見するだけでなく、病変の一部を採取して病理検査をすることで、確定診断ができるからです。

同時に「深さ」も確認することで転移の有無や、その後の治療方針の目安にもなり、がんの診断には欠かせません。

最近は、診断能力を上げるために疑わしい場所に特殊な光をあてたり、染色法といって、部位を染色して浮かび上がらせる方法など、ごく早期のがんも発見できるようになりました。

また、できるだけ患者の苦痛を減らすために、鎮静剤を使用して検査を行う医療機関も増えています。

超音波内視鏡検査

超音波(エコー)装置のついた内視鏡で食道壁などを検査する方法です。
食道がんがどの程度深く広がっているか、またリンパ節への転移はないかなどを調べることができます。

X線(レントゲン)検査

バリウムを飲み、食道の通過状態をX線で撮影します。
がんの場所や大きさなどを調べる方法としては一般的です。

CT検査・MRI検査

CTはX線を、MRIは磁気を使って体を輪切りにして見ることができる検査です。
体の深い部分まで見ることができるので、リンパ節・肺・肝臓などへの転移や、がんの進み具合を調べるために有効な方法です。

頸部・腹部エコー(超音波)検査

体表面から頸部やお腹の中を超音波で調べることで、頸部リンパ節や肝臓、または腹部リンパ節に転移がないかなどを確認することができます。

PET検査

PET検査は「陽電子放射断層撮影」と呼ばれ、ブドウ糖に似た構造の検査薬を投与し、がん細胞に目印をつけて撮影するという画期的な方法です。

この検査は、がん細胞が正常細胞よりブドウ糖を多く吸収するという特徴を活かした方法で、がんの早期発見や、転移・再発を診断するために有効です。

食道がんは健康診断でも分かる?

食道がんの検査方法は、上記のとおりさまざまな方法がありますが、一般的な健康診断で行われるのは問診や尿検査、血圧、基本的な血液検査くらいがほとんどです。

X線を使ったバリウム検査で発見される場合もありますが、早期の食道がんは発見しづらいのも事実です。 つまり、健康診断で何も異常がなかったからといって、安心するのは時期早々でしょう。

食道がんの早期発見の重要性

では「気づいたら癌が相当進行していた」などと悲しいことにならないためには、私たちは何をすべきでしょうか。

その方法はただ一つ、「早期発見・早期治療」です。

なぜなら、リンパ節転移を起こしていない段階であれば約80%が手術で治ると言われており、今や食道がんは「治るがん」の一つだからです。

かつては、がんの中でも悪性度が高く、長期生存が難しいといわれていましたが、現在では5年生存率も飛躍的に伸びています。

とはいえ、あくまでも早期発見できた場合であって、転移があり、かつ最も進行した場合の5年生存率は約20%といいますから、食道がんを完治させるためには「いかに早くがんを見つけるか」にかかっているといっても過言ではありません。

がん検診のすすめ

食道がんは早期発見が大事だとわかっても、なかなか検査を受けるきっかけがないと言う方も多いでしょう。

日本では厚生労働省の取り決めにより、市区町村などの自治体から委託を受けた医療機関などで「がん検診」を受けることができます。

ちなみに「食道がん検診」という定めがありませんが、胃がん検診を受ける際に、食道できになる症状があれば、その旨を医師に伝えておくと良いでしょう。

食道がんの予防方法

食道がんに限らず、がん全般を予防するためには

  • 禁煙をする
  • 飲酒の量を減らす、もしくは禁酒する
  • バランスのよい食事を心がける規則正しい生活
  • 適度な運動をする

などが効果的です。

ちなみに「野菜や果物を多めに採ることで食道がんが出来にくくなる」というデータもあり、生活習慣の改善そのものが、がん予防になるということが最近の研究でわかっています。

まとめ

今回はがんの中でも早期発見が難しいといわれている「食道がん」について、食道がんの検査方法や早期発見の重要性などをご紹介しました。

誰もが「がんになりたくない」と思っているにも関わらず、気になる症状が何もないから大丈夫、と思っているのも事実でしょう。 食道がんは早期発見・早期治療が最も重要です。飲酒や食べ物などの生活習慣を見直し、定期的にがん検診を受けることで予防も治療もできる病気です。