【医師監修】食道がんに初期症状はある?食道がんになりやすいのはどんな人?

2023.10.16

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監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。

世界中に猛威をふるった新型コロナ感染症(COVID‑19)もようやく落ち着きを見せ、徐々に以前の暮らしを取り戻しつつあります。

当時は「コホン」と咳が出るだけで、「とうとうかかっちゃった~」と思ったり「いやいや、ただの風邪よ…」などと一喜一憂しましたよね。

ましてや「食道がんでも咳は出る」などという情報もあるし、不安で夜も眠れなかったという方もいらっしゃるでしょう。 今回は、そんな不安を解消するために「食道がん」にスポットを当て、食道がんの初期症状や原因について解説します。

食道がんの初期症状とは

初期の食道がんは、がんが発生した場所に関係なく、これといった自覚症状がないことが特徴です。

ただし、「食べ物を飲み込んだときに胸がチクチクする」「しみるように感じる」のは比較的初期に見られることが多いので、早期発見に重要な手がかりの一つです。

がんが進行するにつれて、下記のような様々な自覚症状が現れてきますが、人によっては早いうちから似たような違和感を感じる方もいるので、気になる症状があれば、すみやかに医療機関を受診することをおすすめします。

また、これらの症状は食道がん以外でも起こりうる症状なので、あくまでも参考としてお考えください。

のどに違和感がある

「のどに何かひっかかる感じがする」「のどがイガイガする」といった症状を「咽喉頭異常感」と呼びますが、この違和感は、のどの炎症や甲状腺の病気、または脳の病気でも感じる症状なので、見極めが必要です。

食べ物を飲み込みにくくなる

がんが進行して食道が狭くなると食べ物が飲み込みにくくなります。「普段はこんな食べ物でつかえたりしないのに…」ということがあれば要注意です。

声がかすれる

声がかすれるのは、主に喉や声帯など、声を出す部分の異常がほとんどですが、食道上部の左右にあり声の出方をつかさどる「反回神経」が食道がんに冒されると、声がかすれて出しづらくなります。

咳が出る

がんが気管や肺に及ぶと、むせるような咳が出たり、血液の混じった痰が出ることがあります。

やせる

がんが大きくなって食道を塞ぐようになると、食事量が減るため体重が減少します。ダイエットなどをしていないのに、体重が3ヶ月間に5〜6Kgも減少するようであれば、体に何らかの異常が起きている可能性を疑うべきでしょう。

胸や背中が痛い

がんが進行すると食道の壁をつき破り、肺や背骨、大動脈などを圧迫するようになるため、胸の奥や背中に痛みを感じる場合があります。
ただし、その症状は肺や心臓などの病気でも見られるため、原因がどちらにあるのか、きちんと検査する必要があります。

食道がんのリスク要因とは?

さて、食道がんにはどんな方がなりやすいのでしょうか。

食道がんのリスク要因としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 偏った食生活
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 50才以上の男性
  • バレット食道・食道アカラシアと診断された方   など

それぞれの項目について詳しくみていきましょう。

偏った食生活

食事のバランスが悪く偏った食生活は、食道がんだけではなく、さまざまな疾患を引き起こす元となります。

特に、緑黄色野菜や果物の摂取不足は食道がんのリスク要因として知られ、野菜を1日540グラム以上食べる人は、1日170グラム以下しか食べない人に比べ、食道がんのリスクが約半分に減るというデータもあるくらいです。

喫煙

たばこは「百害あって一利なし」と言われるとおり、たばこの煙に含まれる数千種類の化合物のうち、70種類に発がん性が認められています。食道が、常にこれらの発がん性物質にさらされて傷がつくことで、食道がんが発症しやすくなることがわかっています。

また、その危険性は喫煙者本人だけでなく、煙を浴びてしまう他人にも影響するため周囲への配慮が必要です。

飲酒

喫煙と並んで食道がんの大きなリスクとなりうるのが「飲酒」です。あるデータによると、お酒を毎日3合以上飲んでいる方のほうが、飲まない方の60倍以上食道がんのリスクが高くなることがわかっています。

また、「お酒を飲むとすぐ顔が赤くなる」という人は、アルコールが体内で代謝されて出来る「アセトアルデヒド」を分解する酵素が弱いため、食道がんになるリスクが高いと言われています。

その中でも特に、「ヘビースモーカー」かつ「顔が赤くなる」という方は要注意です。

50才以上の男性

食道がんは50才代から増加し、60〜70才代に最も多く発症しています。男性のほうが女性の6倍ほどかかりやすく、食道がんのリスク要因が、喫煙と多量の飲酒にあることを裏付けています。

バレット食道・食道アカラシアと診断された方

食道は扁平上皮(へんぺいじょうひ)という粘膜で覆われ、胃や腸の粘膜は円柱上皮(えんちゅうじょうひ)という粘膜で覆われているのが正常な状態ですが、食道下部の粘膜が、胃と同じ円柱上皮に置き換えられている状態が「バレット食道」です。

「バレット食道」の80%は、食道がんの発生に関係する腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)を含んでおり、「バレット食道腺がん」になる危険性が高いことがわかってきました。

「バレット食道」になる原因は定かではありませんが、胃酸が逆流することで食道の粘膜が傷つき、細胞が変化するためと考えられています。

一方、「食道アカラシア」とは食道から胃に食べ物を送り込む機能が弱まり、食べ物が食道に停滞してしまう状態のことを指し、食道がんのリスクが高いと指摘されています。

逆流性食道炎との因果関係はあるの?

「逆流性食道炎」とは胃酸が食道に逆流し炎症を起こす疾患で、胸やけしたり、食べ物を飲み込みにくい、口の中が苦いなどの症状が現れます。

胃酸が逆流する原因は、食道下部にある「括約筋」が加齢などで弱まることですが、慢性化しやすいのが特徴です。

前述した「バレット食道」は、まさにこの「逆流性食道炎」が慢性化した場合に起こりやすいため、たかが逆流性食道炎と考えず、慢性化する前に適切な処置をすることが肝心です。

食道がんの不安がある方へ

ここまでの解説を聞いて「自分は食道がんかも..」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。その不安を解消するためには、すみやかに受診し、検査をして一つ一つ癌の疑いを晴らしていくしかありません。

食道がんの検査方法は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)、X線(レントゲン)検査、超音波内視鏡検査、CT検査・MRI検査、PET検査、血液検査などがありますが、確実なのは内視鏡検査やバリウムを用いたX線検査を行い、疑わしい組織があれば採取して病理検査を実施し、がん細胞の有無を確認することです。

内視鏡検査やX線検査は、内科のクリニックなどで簡単に行えますし、希望があれば鎮静剤を使ってウトウトしながら検査をすることもできるので、積極的に検査を受けることが大切です。

まとめ

今回は、自分の症状が食道がんかも…と不安な方のために、「食道がんの初期症状」「食道がんのリスク要因」を中心に解説しました。

「検査を受けるのが怖い」という方もいらっしゃいますが、今や食道がんは早期に発見できれば治る病気です。そのためには、適切な検査をタイミングよく受けることしかありません。 気になる症状をお持ちの方は、勇気を出して医療機関を受診してください。