【医師監修】食道がんのステージ分類と治療方法、治療費はいくらかかる?

2023.10.16

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監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。

日本人の死因の半分を占める「がん・心疾患・脳血管疾患」。特にがんは日本人の2人に1人がかかるといわれ、決して珍しい病気ではありません。

家族や身近な方ががんと診断された、またご自身ががんにかかり、不安な日々を過ごされている方も多いでしょう。

今回は、食道がんの治療方法や治療にかかる費用など、患者さんやご家族が一番気になっている内容を中心に解説します。 食道がんとの戦いは長期戦です。まずは、がんの正しい知識を知り、いたずらに不安を増長させることなく治療に専念することが肝心です。

食道がんのステージ分類

食道がんは、「がんの深さ(T)」「リンパ節への転移(N)」「他臓器への転移(M)」などを元に、ステージ0〜ⅣA期、ⅣB期に分かれ、それぞれのステージで治療方法も異なります。

0期:がんが粘膜にとどまり、リンパ節転移もない「早期がん」

Ⅰ期:がんが粘膜下層にとどまり、リンパ節転移もない状態

Ⅱ期:がんが固有筋層もしくは外膜に及びリンパ節への転移も見られる「進行がん」

Ⅲ期:がんの腫瘍が他組織へ広がり、リンパ節への転移も見られる「進行がん」

Ⅳa期:切除不能 Ⅳb期:切除不能

食道がんの治療方法

食道がんの治療は、前述したステージ分類に応じ、内視鏡治療、手術治療、放射線療法、化学療法(抗がん剤)によって行われます。

それぞれの治療方法の特徴を生かしながら、単独もしくはいくつかの方法を組み合わせて治療することがほとんどです。

治療方法の特徴を解説します。

内視鏡治療

内視鏡治療とは、高周波メスが装着された内視鏡を使って、早期のがんを切除する方法です。メスを使わず粘膜の一部を切除するだけなので患者さんの負担が少なく、食道も温存できるのが最大のメリットでしょう。

ステージ0期の「早期がん」に適用されますが、がんが粘膜にとどまっていても範囲が広く、切除後に食道が狭くなる可能性が高い場合は、放射線治療や手術治療を選択する場合もあります。

手術治療

いわゆるメスを使った開腹手術のことで、がん細胞の切除が目的です。

ステージI期〜Ⅱ期での一般的な治療方法ですが、ある程度進行しているがんでも、切除可能であれば積極的に行われる治療方法です。ただし、状況によっては放射線治療や化学療法を併用することも少なくありません。

放射線療法

がんは細胞の遺伝子異常によって癌化し、分裂・増殖の力が強くなっている反面、遺伝子が傷つきやすいという特徴があります。

放射線治療はこの特徴に注目し、がんとがんの治療に必要な最低限の周辺組織に放射線を当てて、がん細胞を壊したり縮小させることが目的です。

どのステージでも使われる可能性がありますが、がんの進み具合によっては、根治を目指すのか、症状の緩和が目的なのかで治療方法が異なります。

実際の治療時間は10〜30分程度で痛みは感じません。また通院治療も可能なので、多くの患者さんが普通の日常生活をしながら、治療を続けることができるので、食道がんの再発防止のためにも使われる治療方法です。

化学療法(抗がん剤)

化学療法とは、化学物質の毒性を利用してがん細胞の増殖を抑えたり、破壊することを目的とした治療法ですが、一般的には「抗がん剤」を使用する治療法として知られています。

化学療法のメリットは、薬剤を体の隅々まで運ぶことができるので、体内に潜むがん細胞を破壊することが可能ですが、一方で吐き気や脱毛、口内炎や下痢などの副作用が現れる場合が少なくありません。

食道がんの最新治療

昨今、がんの治療は飛躍的に進み、日々新しい治療法が開発されています。そのいくつかをご紹介します。

陽子線治療

通常の放射線治療は、放射線をがんの病巣に当ててがん細胞にダメージを与えることが目的ですが、周辺の正常細胞までやっつけてしまうというリスクがあります。

そのリスクを解消すべく登場したのが「陽子線治療」です。陽子線は体の深い所でエネルギーを放出したあとは消滅する、という特徴があるため、X線のように病変部以外の正常細胞に与える影響が少ない治療方法です。

とはいえ、まだまだ実績が少なく効果が不透明であることや、費用が全額保険適用ではないので、今後の進歩が待たれるところです。

免疫療法

「免疫療法」とは、本来免疫が持つ「がん細胞を攻撃する力」を保つことで、がんを攻撃する治療法のことです。

その役割として最近効果が認められたのが「免疫チェックポイント阻害薬」です。健康体であれば、がん細胞は免疫細胞によって排除されますが、がんが出来ると免疫細胞の働きを阻害してしまうため、異物を排除することができません。

「免疫チェックポイント阻害薬」を使うことによって、その働きを正常に戻し、人間本来が持つ免疫機能でがんを制圧しようという試みです。

ほかにもいくつか免疫療法がありますが、食道がんに効果が証明されたのは「免疫チェックポイント阻害薬」のみ。この治療は保険診療が可能なので、気になる方は担当医に相談してみると良いでしょう。

ロボット支援下手術

大学病院や一部の医療機関では、すでに手術支援ロボットの「ダヴィンチ」を使って食道がんの内視鏡外科手術を行っています。
そもそも内視鏡外科手術は、術後の痛みが少なく早期の社会復帰が可能な治療方法ですが、ダヴィンチの手は人間の手以上に関節がスムーズに動くだけでなく、従来の胸腔鏡手術よりも傷口が小さくて穴の数も少ない、出血量が少ないなど、より安全で術後の合併症も少ない手術ができるようになりました。

食道がんの治療にかかる費用

がんと診断されて体の不安もさることながら、一番気にかかるのは治療費のことでしょう。

治療費はお住まいの地域や治療を受ける医療機関、また、がんの進行度合いによっても異なりますが、一般的な目安は下記のとおりです。詳細は医療機関で確認してください。

内視鏡的治療

1週間程度の入院で、15〜20万前後です。(3割負担)

外科手術

20〜30日程度の入院が必要で、60〜80万前後です。(3割負担)

放射線化学療法

1週間程度の入院と、5週間くらい放射線療法で通院した場合は、約20万円前後かかります。(3割負担)

一般的に食道がん治療は、いろいろな治療を組み合わせる場合が多いので、治療費も高額になりやすい病気です。

ただし、一定の治療費を越えたら返金される「高額療養費制度」や、万が一「治療がきわめて難しい」と診断された場合は40歳から「介護保険」が認められるケースもあるので、社会的な制度を活用しながら、焦らず治療を続けることが大切です。

また、各医療機関には「がん相談支援センター」「サポートセンター」などの相談窓口が設けられていますので積極的に利用すると良いでしょう。

まとめ

今回はがんの中でも早期発見が難しいといわれている「食道がん」について、食道がんの検査方法や早期発見の重要性などをご紹介しました。

誰もが「がんになりたくない」と思っているにも関わらず、気になる症状が何もないから大丈夫、と思っているのも事実でしょう。 食道がんは早期発見・早期治療が最も重要です。飲酒や食べ物などの生活習慣を見直し、定期的にがん検診を受けることで予防も治療もできる病気です。