【医師監修】胃がんのステージ分類と治療について解説

2023.10.31

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監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。

胃がんの治療方法は、進行度(ステージ)によって変わります。

また患者さんの持病や全身状態、年齢やライフステージなども加味しながら、一人ひとりに最適な治療方法を選択していくことが重要です。

胃がんの基本的な治療方針としては、病変部を切除することであり、主な治療方法には、内視鏡的切除、外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術)、薬物化学療法などがあります。

今回は胃がんのステージ分類と治療について、医師監修のもと詳しく解説していきます。

胃がんのステージ分類

胃がんのステージは、初期のI期(IA、IB)、Ⅱ期(IIA、IIB)、Ⅲ期(IIIA、IIIB、IIIC)、そして末期のIV期の8段階に分類されます。

III期までであれば一般的に切除可能の確率が高いとされています。

進行度(ステージ)の決め方

胃がんのステージは、3種類のカテゴリーの組み合わせにより決まります。これをTNM分類といいます。

T(Tumor;腫瘍):がんの深さ(深達度)

がんの胃壁への深さから、T1a、T1b、T2、T3、T4a、T4bの6段階に分類されます。

T1a、T1bが早期胃がん、T2以降が進行胃がんです。

  • 早期胃がん(T1a,T1b)
    がん細胞が粘膜層内または粘膜下層までにとどまり、転移の可能性が低く、病変を適切に切除することにより完治する頻度が高いがん
  • 進行胃がん(T2,T3,T4a,T4b)
    がん細胞が固有筋層まで達している、あるいは固有筋層を越えて浸潤し、リンパ節転移や他臓器転移の頻度が比較的高いがん

N(Lymph Nodes;リンパ節):領域リンパ節への転移の有無

胃の周辺のリンパ節のうち、がん細胞が転移しているリンパ節の個数により分類されます。

  • N0:0個
  • N1:1〜2個
  • N2:3〜6個
  • N3:7個以上

M(Metastasis;遠隔転移):がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無

胃以外の他の臓器へのがん細胞の転移の有無により、M0、M1の2段階に分類されます。

  • M0:胃以外の他の臓器へのがん細胞の転移の無し
  • M1:T、Nの状態に関係なくステージIVとして分類

胃がんの治療方法

胃がんの治療は、病期によって治療法が異なります

「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編)では、病期に加え、がん細胞の増殖の仕方(分化型、未

分化型)やがんの大きさなどを加味し、病期ごとに最も効果があるとされる治療法が示されており、これらを「標準治療」といいます。

ガイドラインは胃がん治療の原則を示したものであり、実際は、糖尿病や心臓病等の有無、年齢、全身状態等を考慮し、それぞれの患者さんの状態に合った治療方針が個別に決定されます

胃がんの治療法は、病変部を切除することが基本的な治療方針であり、主な治療方法は、内視鏡的切除、外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術)、薬物化学療法です。

病期による治療選択は以下の通りです。

  • ⅠA期、ⅠB期
    早期胃がんのほとんどを占め、病変を適切に切除すれば、治る可能性が極めて高い病期。ⅠA期の約半数は内視鏡治療で治ることが期待できる
  • Ⅱ期
    手術によって治る可能性が高い病期
  • Ⅲ期
    進行しているものの、まだ手術によって治る可能性が十分にある病期

またTNM分類による治療選択は以下のように行われます。

  • 胃以外の臓器(M)やリンパ節への転移(N)がなく、がんの深達度(T)が粘膜層
    内視鏡治療(内視鏡的切除)が中心
  • がんの深達度(T)が粘膜下層に達している
    手術(外科治療)を検討し、手術後、切除した病変の病理分類を行い、必要に応じて薬物化学療法を検討
  • 遠隔臓器への転移(M)がある
    状況によって、薬物化学療法等を検討

次に、実際の治療方法を以下に示します。

内視鏡的切除

病期ⅠAで、がんが粘膜内にとどまっており、リンパ節転移の可能性がない患者さんが対象となります。

口から内視鏡を挿入し、特殊な器具や電気メスを使って粘膜をはぎ取るように病変部を切除します。胃の機能を残せるので、食生活への影響も少なく、患者さんの生活の質(QOL)を保つことが出来、治療後も治療前と同様の生活が可能です。

外科手術(開腹手術、腹腔鏡下手術)

病期ⅠAでもがんが粘膜下層まで達している人、病期ⅠB、病期ⅡA・B、病期ⅢA~Cの患者さんが対象となります。胃がんの外科手術(開腹手術)は主に4種類あります。

胃全摘術(Total gastrectomy:TG)

がんが胃の上部または胃全体に発生している場合に行われます。噴門や幽門を含め、胃をすべて取る手術です。胃の機能がすべて失われるため、胃切除後に起こり得るダンピング症候群などへの対策が重要になります。

胃全摘術では、胃をすべて切除したあと、小腸を切離し、食道まで引き上げてつなぎ合わせ、十二指腸へ分泌されるすい液などの消化液が小腸に流れ込むように、引き上げた小腸に十二指腸側の小腸をつなぎます。

幽門側胃切除術(Distal gastrectomy:DG)

がんが胃の出口である幽門側や胃の下部に発生している場合は、噴門寄りの部分から幽門まで、胃の下部の3分の2から5分の4を切除します。胃がんの手術で最も多く行われる手術です。

幽門を切除してしまうため、ダンピング症候群が起こりやすくなります。

幽門側胃切除術は、がんの口寄りの端から2~5cm(早期胃がんで2cm、進行胃がんでは3~5cm)以上、胃の3分の2以上を切除し、残った胃と十二指腸あるいは小腸とつなぎ合わせます。

噴門側胃切除術(Proximal gastrectomy:PG)

胃の入り口である噴門側、つまり胃の上のほうを3分の1から4分の1程度切除します。噴門部周辺や胃の上部にできたがんに対して行われます。胃の上部にがんができることは少ないこともあり、まれな手術です。噴門を切除すると、逆流性食道炎が起こりやすくなります。

噴門を含めた胃の2分の1から3分の1を切除し、幽門側に残った胃と食道をつなぐ、もしくは食道と胃の間に10cm程度の空腸を入れてつなぎます。

胃部分切除術

・幽門保存胃切除(Pylorus-preserving gastrectomy:PPG)

幽門側胃切除術で、幽門部の一部を残す手術です。メリットとして、胃の出口である幽門を残すことで、十二指腸への食べ物の移動が健康な状態に近く、ダンピング症候群が起こりにくいことがあげられます。

幽門保存胃切除術は、胃の上部3分の1程度と幽門前庭部を3~4cm程度残して胃を切除し、

残った胃と胃をつなぐ術式です

・胃分節切除術(Segmental gastrectomy:SG)

がんのある部分から2~3cm余裕をとって、胃の中央部分を切り取ります。噴門と幽門が残せることと、残胃の容量が大きいことから、胃切除後症候群胃を切除したことにより起こる、ダンピング症候群をはじめとした様々な後遺症の総称)が起こりにくい手術です。

開腹しない手術:腹腔鏡下手術( Laparoscopic surgery)

内視鏡治療の適応とならないⅠ期の早期がんに対して行われます。

開腹手術と同じ全身麻酔下で、腹腔(お腹の壁と臓器との間の空間)内に、4~5か所の小さな穴を開け、そこから炭酸ガスを送り込んで腹部を膨らませ、おへそからこの手術用に開発された細い高性能カメラ(腹腔鏡)を挿入します。同時に手術操作に用いる器具を挿入するために、5~10ミリの小さな穴を左右に合計4~5か所開けます。腹腔鏡で撮ったお腹の中の様子をモニターに映し出して、胃切除や周囲のリンパ節の切除を行います。

切除する範囲は開腹手術と同じですが、従来は、20cmほどおなかを切開(開腹)して、直接手で臓器を触れながら手術を行っていましたが、腹腔鏡手術では、5~10mm程度の創口から、お腹の中に器具を入れて、カメラを見ながら手術します。

最近では、腹腔鏡手術を発展させたロボット手術も登場し、先進医療でその有用性が評価されています。ただし、ロボット手術の費用は全額自己負担になり、実施する病院も限られています。

薬物化学療法

薬物化学療法は、体のどこにあるかわからないがんにも効果を発揮する全身療法です。再発の予防や病期がステージⅣで手術が難しい患者さん場合は、薬物化学療法が主体となります。

薬物化学療法には、大きく分けて、以下の3つの場合があります。

  1. 手術によるがんの切除が難しい、進行胃がんまたは再発胃がんに対する薬物化学療法
  2. 術後補助化学療法:手術後の再発予防を目的として行う
  3. 術前補助化学療法:リンパ節転移の状況により、手術の前に行う

胃がんの薬物化学療法に使われる薬剤は以下の通りです。

  • 細胞障害性抗がん薬
    がん細胞の増殖を阻止することにより、がん細胞を攻撃する薬
  • 分子標的薬
    がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がん細胞の増殖を防ぐ薬
  • 免疫チェックポイント阻害薬
    人に元々備わっている免疫の力(病気に抵抗する力)が、がん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬

まとめ

胃がんの治療は、病期によって治療方法が異なります。

また持病や年齢、全身の健康状態などによっても治療方法が異なることがあるため、患者さん一人ひとりにあわせた最適な治療方法が選択されます。

胃がんの治療について不安な点や疑問点などがあれば、主治医とよく相談のうえ、治療方法を決定していくようにしましょう。