【医師監修】大腸がんは健康診断で分かる?どんな検査があるの?
監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。
昨今、食生活の欧米化に伴い日本人の大腸がんの発症率が増加していると言われているのはご存じでしょうか。実は現在、1年間におよそ5万人のがん患者が大腸がんで亡くなっていると言われています。
がんの部位別死亡数をみると男性1位、女性3位となっており、大腸がんは非常に恐ろしいがんのひとつと考えられます。
症状の進行が遅く、早期に発見することが出来れば完治の可能性が高いと言われている大腸がん。しかし大腸がんは初期の自覚症状による発見が難しいため発見が遅れてしまうケースが多いというのが実状です。
大腸がんの早期発見のためには定期的に然るべき検査を受けることが非常に重要となります。
今回の記事では医師の監修の元、大腸がんの検査方法や早期発見のための正しい知識、予防方法について詳しく解説していきます。
大腸がんとは
大腸がんは、その名の通り大腸にできるがんの事を言います。大腸は食べ物の最後の通り道であり、主な働きは水分を吸収することです。
そのため、大腸のがんが進行すると食べ物から適切に水分を吸収することが難しくなり、排泄機能に問題を生じさせます。
がんは血流に乗って別の場所に転移する可能性があるということは多くの方がご存じかと思いますが、大腸の壁の中には主要なリンパ管が通っているため、大腸がんは血液の流れによる転移だけでなくリンパ液に乗ってリンパ節転移を起こしやすいという特徴があります。
大腸がんの症状
大腸がんは初期症状に気付きにくいと言われています。
発症初期の段階では自覚症状がほとんどなく、症状が進行するにつれ以下のような症状が出現します。
- 便に血が混じる(血便、下血)
- めまい、貧血
- 便秘、下痢、残便感
- 腹痛
- 嘔吐
- 体重の減少 など
ちなみに、おならが増えた、おならのにおいが臭くなった、などの症状から大腸がんを心配される方がいらっしゃいますが、こういった症状に関しては大腸がん以外の要因が関与しているケースが多いため、相関性は低い場合がほとんどであると考えられています。
大腸がんができる場所
大腸がんは直腸がんと結腸がんに分けられます。
日本人は大腸の形状から直腸とS上結腸、中でも直腸でのがんが最も多いとされており、大腸がんの50%が直腸がんであると言われています。
大腸がんの進行について
大腸がんには、進行度を表す5段階ステージというものがあります。
- ステージ0 がんが大腸粘膜内に留まるもの
- ステージ1 がんが固有筋層までに留まるもの
- ステージ2 がんが漿膜下層を超えて浸潤するもの
- ステージ3 がんの深さに関わらず、リンパ節への転移を認めるもの
- ステージ4 がんの深さやリンパ節転移に関わらず、他臓器への転移を認めるもの
ステージ2までに発見された大腸がんに関しては直腸がん、結腸がんいずれも5年生存率が80%以上となっています。
大腸がんの検査方法
40歳以上の成人男女は定期的な大腸がんの検査が推奨されています。
大腸がんの検査は一般的に、まず便潜血検査を行い、異常所見が見られた場合は更なる精密検査を行うという流れになります。
便潜血検査
2日分の便を採取し、便に混じった血液を検出する検査です。
よく、痔をお持ちの方が痔による出血で陽性反応が出てしまうのではないかと心配されますが、大腸がんによる出血か否かはしっかりと判別されますので心配はいりません。
全大腸内視鏡検査
下剤で大腸を空にし、肛門から内視鏡を挿入し大腸の全部位を観察する検査です。
がんやポリープに対する診断精度が非常に高く、精密検査の第一選択肢として選択されるのがこの全大腸内視鏡検査になります。
ごく初期の大腸がんであれば、検査の際に内視鏡で切除出来る場合もあります。
X線検査(注腸検査)
肛門から管で大腸にバリウムと空気を入れ、大腸内をX線で撮影する検査です。
検査の再現性や精度に関しては内視鏡検査に劣るものの、消化管全体の形態・大きさ・位置を把握するのに有利というメリットがあります。
CT検査(CTC検査)
CT検査は下剤を服用後、肛門からCTC専用の炭酸ガスをゆっくり注入し、大腸を膨らませた状態で行います。
大腸の内側の病変まで精密に調べることができ、且つ身体への負担はが少ないため大腸がんスクリーニング検査としてよく行われます。
MRI検査
主に直腸がんの周囲組織への浸潤、とくに前立腺や膀胱、子宮といった他臓器への広がりを検査したい場合には骨盤部のMRIを撮影する場合もあります。
放射線被ばくの心配がない上にCTよりも組織の差を明瞭に画像化することができ、局所の病気の広がりを詳しく調べられるため精度の高い検査といえます。
大腸がんの早期発見の重要性
大腸がんは見つかりにくいという側面もありますが、他の癌と比べて進行が遅く完治することが多いがんともいわれています。早期に発見し、適切な治療を受けることさえ出来れば約9割が外科的治療で根治療が可能ですので、定期的にしっかりと検査を受けてさえいれば必要以上に怖がる必要はありません。
ただ、便潜血検査はともかくとして、精密検査に関しては心理的な抵抗を持つ人も少なくないようです。しかしながら、進行してから大腸がんが見つかり、もっと早くちゃんと検査をしておけばよかったと悔やんでもその後悔はどうにもならない場合もあります。
そうならないためにも、40代を過ぎたら定期的に検査を受けるよう心掛けましょう。特に身内にがんを患った人がいる場合はしっかりと検査を受けるべきです。
ちなみに、大腸がんのがん検診受診率については男女ともにここ数年少しずつ向上が見られており、国民の大腸がん早期発見に対する意識の高まりが伺えます。
(参考:厚生労働省2019年 国民生活基礎調査の概況)
大腸がんの予防方法
大腸がんのリスクは生活習慣や食生活によって高まるといわれています。
では、大腸がんを予防するためには具体的に、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか。
偏った食生活を見直す
ここ20年で大腸がんの死亡者数は1.5倍に増加していますが、その大きな要因は食生活の欧米化(高脂肪、低繊維食)であると言われています。
食生活の健全化は健康を考える上で重要視されるファクターですが、大腸がんの予防に関しても例外ではありません。
加工肉や赤肉の食べ過ぎや野菜不足、肥満や飲酒過多などは大腸がんの発症リスクを高めます。高脂肪な食事が多い方は食生活を見直し、カルシウムや食物繊維を積極的に摂取するよう心掛けましょう。
適度に身体を動かす
肥満は多くのがん発症率に関与し、大腸がんに対しても例外ではありません。
そして肥満を予防するため適度に運動を行うことで様々ながん発症リスクを低下させ、場合によってはがんの予後と死亡率を改善させる可能性があることを示唆する研究論文も多く発表されています。
散歩や軽いジョギングでも構いませんし、運動の時間を確保するのが難しいという事であれば普段エレベーターやエスカレーターを使う場面で意識的に階段を使う、といったちょっとした工夫でも肥満予防、大腸がんの予防に繋がります。
定期的に大腸の検査を受ける
検査で見つかるのは大腸がんのみではありません。
今後大腸がんに発展する可能性があるポリープは、早い段階で切除することで大腸がんが発症するリスクを減らすことが出来ます。
若いうちから積極的に検査を受けるということは結果的に大腸がん予防に非常に役に立つのです。
まとめ
大腸がんは症状の進行が遅く、早期に発見することが出来れば完治の可能性が高いと言われています。
早期発見のためには、40代以降は定期的に検査を受けることが重要です。
また根治療を目指すためにも大腸がんの早期発見は重要ですが、そもそも大腸がんをしっかりと予防することが出来ればそれが一番です。大腸がんに対して不安をお持ちの方はまずは、現在の食生活や生活習慣を見直してみると良いでしょう。