大腸がんに初期症状はある?どんな人がなりやすいの?
監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。
大腸がんは、日本だけでなく世界的に見ても代表的な消化器疾患のひとつと言われています。2020年時点で大腸がんの発症率は全てのがんのおよそ10%にのぼるという統計結果がしめされましたが、これは全てのがんの中で3番目に高い数値です。
大腸がんの有病率は年々増加しており、年齢分布は若年齢化が進んでいるという事実は知らない方も多いかもしれません。
1950年以降、抗生物質の使用や身体活動の低下、ライフスタイルの変化による肥満の増加など様々な要因を背景として若年発祥の大腸がんが非常に増えてきています。ある統計では2030年までに50歳以下の大腸がん患者の割合が結腸がん11%、直腸がんに至っては23%に達するという試算が出されているというのは驚きです。
さて、そんな大腸がんですが、死亡率が高いとされている大きな要因は早期の発見が難しいという点に他なりません。
そこで今回の記事では大腸がんを早期に発見するために必要な知識として、大腸がんの初期症状やリスク要因について医師監修のもと詳しく解説していきます。
大腸がんの初期症状とは
大前提として、大腸がん早期においては自覚症状がほとんど見られないという点は押さえておく必要があります。
つまり、以下で挙げる症状が複数、目に見えて現れている場合は大腸がんの症状がある程度進行している可能性も考えられますので、早急に検査を行いましょう。
便形状の変化
大腸がんにより大腸の機能に問題が生じると、食物からの水分吸収が上手く行なわれず便秘や下痢、便が細くなるといった便形状の変化が見られるようになります。
生活スタイルや食生活に大きな変化が無いにも関わらずこれらの変化が続くようであれば注意が必要かも知れません。
ただ、便形状に関しては食生活やストレス等様々な影響を受けやすく、特に胃腸が過敏な方はちょっとしたことが原因で下痢や便秘になる事も多いので、過度に神経質になる必要はありません。
- 普段より下痢や便秘の期間が明らかに長い
- 下剤等の整腸剤を使用しても改善されない
- 残便感が気になる
このような症状が見られている場合は早めに検査を受けましょう。
血便
大腸がんに気付いたきっかけが血便だった、という話は度々耳にするかと思います。
大腸にがんが出来ると、がん細胞に栄養を届けようと新しい血管を作る「血管新生」という作用が働きます。
この時に作られた新しい血管は非常にもろいため、わずかな刺激で破れて出血してしまいます。血便が出ると大腸がんが疑われるのはそのためです。
イボ時や切れ痔、血管が拡張して出血するというケースもあるため血便を一概に大腸がんと決めつけるのは早いですが、いままでのそういったことがなかったのに血便が見られるようになった、という事であれば早めに大腸カメラ等での精密検査を受ける必要があるかもしれません。
体重の減少
体重の減少は、大腸がんに限らず多くのがんで見られる兆候です。
食欲の低下によってそもそもの栄養摂取量が少なくなるという理由以外にも、がん細胞ができると全身で炎症反応が生じることで栄養の利用効率が悪くなったり、たんぱく質分解酵素の力が強まり筋肉が痩せやすくなる、といった要素も関係してきます。
1kgや2kgの体重変化を深刻にとらえる必要はありませんが、短期間に5kg以上の急激な体重変化が見られた場合などは身体に何かしらの大きな不具合が生じている可能性がありますので医療機関を受診しましょう。
腹痛・お腹の張り
がんが大きくなると次第に便通が悪くなり、便もガスも大腸内に溜まっていき強いお腹の張り感や腹痛を生じさせます。
便秘の際もひどい場合は類似した症状が見られますが、いずれにせよ痛みや張り感が強く現れているのであれば一度医師の診察を受けておくと安心です。
ちなみに、おならが増えた、おならが臭くなったといった症状から大腸がんを心配される方がいらっしゃいますが、おならに関しては大腸がんと直接的な関連性を示す根拠等は明らかにされていません。
貧血
貧血に関しては様々な要因が考えられるためそれ単体で大腸がんと結びつけるのは早計ですが、大腸がんに起因する血便が見られている場合は血液量の減少から動悸や立ちくらみ、息切れなどの症状が現れる場合があります。
血便と貧血両方の症状が見られている場合は大腸がんが疑われるため、早めの精密検査を行いましょう。
大腸がんのリスク要因とは?
大腸がん発症リスクとしては食生活をはじめとした環境要因の寄与が大きいと考えられています。
以下で、大腸がん発症のリスクとして考えられる要因について説明します。
食生活
日本人の食生活が欧米化したことは大腸がんの患者数増加に大きく寄与していると考えられています。
食生活の中で食道がん発症のリスクを高める要因としては脂肪や肉類の摂取量増加、食物繊維や野菜・果物類の摂取量不足が挙げられます。
動物性の脂肪や赤肉の摂取量は大腸がんの発症率と深く関わりがあることが様々な研究で明らかにされており、野菜・果物の多摂取による大腸がんの予防効果は多くの疫学研究で立証されています。
飲酒については特に直腸がんや下部結腸がんで発症率を増加させるという報告もあるため多量の飲酒は大腸がんリスクとの関係が示唆されています。
運動不足
座位での仕事が多い人に大腸がんの発生率が高いことから、運動不足により腸管の動きが鈍くなることで便の通過時間が長くなり、大腸が発がん性物質にさらされる物理的な時間が長くなるとされています。
適度な運動は腸管の正常な働きにも関与し、大腸がんの予防にも繋がります。
ポリープ
大腸がんの大部分は腺腫性のポリープから発生します。ほとんどのポリープは良性で、がん化するのは少数です。
しかし、ポリープの大きさが大きければ大きいほど大腸がんになるリスクが高くなるため、ポリープができやすい人は大腸がんになるリスクが高いと考えられています。
遺伝
大腸がんは遺伝的要素も発症率に関係します。特に若年発症の大腸がんは遺伝の関連性が強いとされています。
また、乳がんの家族例がある場合は大腸がんのリスク増加に繋がるという研究結果も示されています。
大腸がんの不安がある方へ
大腸がんを予防するためには以下の2点を心がけることが重要です。
- 生活習慣を整える
- 定期的に健康診断を受ける
暴飲暴食や偏った食生活、運動不足は大腸がんの発症率に大きく寄与するというのは前述した通りです。
日頃から少しずつ意識して規則正しい生活習慣を定着させることで大腸がんはもちろん、その他の病気等にもなりにくい身体になります。是非今日から規則正しい生活習慣を心掛けていきましょう。
そして、規則正しい生活習慣と同じくらい、定期的な検査も重要です。
大腸がんは早期発見による治癒率が非常に高いことから、仮に大腸がんに罹患していたとしても早い段階で発見することが出来れば完治を目指せます。
ちなみに、早期に発見された部位の限局された大腸がんに関しては5年生存率が95%以上という高い確率となっています。(参考 国立がん研究センター/臨床進行度別 5年相対生存率)
まとめ
大腸がんの有病率は年々増加し、若年齢化が進んでいます。
大腸がんの初期は自覚症状がほとんど見られないことが多いですが、がんが進行するに従い、便形状の変化、血便、体重の減少、腹痛・お腹の張り、貧血などの症状があらわれることがあります。
もし気になる症状があり、今現在不安を抱えているのであれば迷わず検査を受けることをお勧めします。