大腸がんのステージと治療について、治療費はいくらかかる?
監修医師:中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)
兵庫医科大学卒業。米国内科学会上席会員、日本内科学会総合内科専門医などの資格を保有。
主な研究内容・論文は「生活習慣関連因子と大腸カプセル内視鏡検査」。
様々ながんの中でもとりわけ発症初期で症状に気づきにくいため、がんに気付いた時には症状が進行しているケースが多いと言われている大腸がん。
国立がんセンターの調べによると、がん罹患数では男女ともに大腸がんが第2位で、男女の総数では最も高い確率となっており、がん死亡数に関しても肺がんに次いで第2位となっています
(参考 国立がんセンター/最新がん統計)。
一方で、早期に発見することが出来れば高い確率で完治を目指せるというのも大腸がんの特徴です。
今回の記事では、大腸がんのステージ分類と治療法、治療にかかる費用について医師監修のもと詳しく解説していきます。
大腸がんのステージ分類
大腸がんの治療を選択するうえで重要なのは、今現在大腸がんがどの程度進行しているかを正確に把握することです。
ではどのような基準で大腸がんの進行度を把握するのかというと、主に以下の点を判断基準とします。
- 大腸の壁にどの程度深く入り込んでいるか
- リンパ節への転移はあるか
- 他の臓器への転移はあるか
そして、これらを基準にしながら大腸がんは5段階のステージに分類されます。
尚、下記で示している5年相対生存率は国立がん研究センターがん情報サービス院内がん登録生存率集計を参考にしています。
ステージ0:粘膜の中に留まっている
大腸がんステージ0は最も初期の状態です。がん細胞は大腸の粘膜の中のみに存在しており、基本的には内視鏡手術で除去する事が可能です。
ステージ0で大腸がんを発見し適切な治療を受けることが出来れば5年相対生存率は95%以上となり、多くの場合は根治量が可能と考えられています。
ステージ1:固有筋層(筋肉の層)までに留まっている
大腸がんステージ1はがんの進行が大腸の壁の筋肉層までに留まっている状態で、リンパ節転移がない状態を指します。
ステージ1に関しては、どの程度深くまでがんが進行しているかによって治療方針やその後の経過が変わってくるものの、この段階でがんを発見することが出来れば5年相対生存率は90%以上となります。
ステージ2:固有筋層を超えて周囲に広がっている
大腸がんステージ2は、固有筋層を超えた深さまでがんの進行がみられるものの、リンパ節や他の臓器への転移は見られていない状態を指します。
ステージ2になるとがんが出来ている部分の腸管や、がんの近くにあるリンパ節を手術で切除する必要があります。
ステージ2の段階で治療を開始した場合5年相対生存率は90%を割り込んできます。場合によっては手術で切除したリンパ節からがんの転移が見つかり、手術後にステージ3と告知されるケースもみられます。
ステージ3:リンパ節に転移している
大腸がんがリンパ節に転移していた場合はステージ3です。検査の段階でリンパ節への転移が見つかりステージ3となる場合もあれば、検査・手術の段階ではステージ2という判断だったものの、手術後にリンパ節転移が見つかりステージ3となる場合もあります。
手術によってがんの部分を含む腸管と転移の可能性があるリンパ節を切除するという点はステージ2と同様です。5年相対生存率は70%強と言われています。
ステージ4:大腸から離れた別の臓器に転移している
大腸がんが他の臓器に転移している状態をステージ4と呼びます。他の臓器への転移がみられている場合、大抵大腸以外の臓器でもがんを取り除く手術を行います。また、手術で全てのがんを取り除くのが困難な場合は手術以外の治療も平行して行っていきます。
5年相対生存率は20%弱です。ステージ4まで進行したがんに関しては手術が難しいケースも多く、その場合はそれ以外の治療法(化学療法や保存療法)を中心に行っていきます。
大腸がんの治療方法
大腸がんの治療法は大きく分けて以下の5つが挙げられます。
- 内視鏡治療
- 腹腔鏡下手術
- 外科的手術
- 化学療法
- 放射線・免疫治療
それぞれ、対象となるステージも踏まえながら解説していきます。
内視鏡治療
粘膜層もしくは粘膜下層のごく浅いところまでの進行度のもので、内視鏡治療により切除が可能な部位、大きさの大腸がんであれば、内視鏡手術が可能です。
対象は大腸がんステージ0ないしステージ1の一部となります。
内視鏡による手術は開腹する外科的手術と比べ身体にかかる負担が少なく安全性も高い治療法ですが、出血や穿孔(穴が開く)リスクもゼロではありません。
内視鏡手術の方法は以下のものがあげられます。
- 内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術は腹腔鏡というテレビカメラで腹部の中を見ながら行う手術です。
内視鏡手術ほどではありませんが、開腹する外科的手術と比べ体表につく傷を最小限に止めて行う手術で、術後の癒着や痛み、出血が少なく身体にかかる負担も少ないため入院日数も短くて済むのが特徴です。
近年は大腸がんの大多数で腹腔鏡下手術が選択されています。
ステージ0~1はがん細胞の位置や大きさによって腹腔鏡下手術か内視鏡手術が選ばれますが、ステージ2~3に関しても状態次第で腹腔鏡下手術が選択されます。
外科的手術
外科的手術、いわゆる開腹手術は腹部を大きく開いて行う手術です。術創が大きくなるため身体にかかる負担の大きさや術後の痛み、入院期間の長さ等がデメリットとして考えられますが、執刀医が直接目視で状態を確認しながら手術を進めることが出来るため、急な出血等に素早く対応できるといったメリットもあります。
内視鏡手術や腹腔鏡手術が難しい状態は外科的手術を行います。ステージ2以上では状況によって外科手術が選択されます。
化学療法(薬物療法)
化学療法とは、いわゆる抗がん剤を使用する薬物療法です。化学療法には以下の2種類があります。
- 手術後の再発予防のための抗がん剤治療(術後補助化学療法)
- 手術が困難な場合や再発後の抗がん剤治療
前者はステージ2以降のケースで行う場合があり、後者はがんの進行を抑え、延命を目的とした治療で行います。
放射線治療
放射線治療は、病巣に放射線を照射する治療法です。放射線治療は主に以下の2種類があります。
- 補助放射線治療
- 緩和的放射線治療
前者は骨盤内の再発予防を目的として手術前に行い、後者は痛みや出血、便通障害、吐き気、嘔吐、めまいなどの症状を緩和する目的で行います。
放射線治療は治療期間中、あるいは治療して数か月後に副作用が出現することがあり、症状は照射部位によって様々ですが、腹部周囲への照射であればだるさ、吐き気、腹痛等がみられやすいとされています。
大腸がんの治療にかかる費用
大腸がんの治療に関しての費用ですが、がんの進行度によってどのような治療を選択するかによって大きく差が現れます。
入院費用については日数や条件等で変わるため、以下ではそれ以外の部分について大まかな目安を説明させて頂きます。
手術の費用
手術費用が最も高いのは腹腔鏡下手術(112万円)、次いで外科的手術(40万円)、内視鏡手術(23万円)となります。
人工肛門の増設手術が必要な場合はその費用(18.5万円)も加算されます。
抗がん剤治療の費用
2週間の抗がん剤治療を想定した場合40~50万円程度の治療費がかかります。
放射線治療の費用
25回の照射を行う場合、48万円の費用になります。
医療保険や高額医療費制度
上記で説明した諸費用に関しては10割負担で考えた場合の費用です。実際には皆さんは医療保険に加入されていると思いますので実質の負担額は1~3割になります。
また、高額医療費制度を利用すれば一ヵ月の医療費の支払い金額を年収額に応じた上限金額までとすることが出来ます。入院費全てを賄えるわけではありませんが、積極的に利用しましょう。
まとめ
大腸がんの罹患数は年々増加傾向にあり、男女の罹患者総数としては最も多いがんです。初期の大腸がんは自覚症状があらわれにくく、気が付いた時にはがんが進行していることが少なくありません。
一方で、大腸がんは初期に発見できれば高い確率で根治を目指せるがんだという特徴があるため、40代以降は定期的にがん検診へ行くようにしましょう。